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ガストリノーマ
井林雄太

監修医師
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

ガストリノーマの概要

ガストリノーマは、ガストリンというホルモンを過剰に分泌する腫瘍です。 症状としては、過剰な胃酸分泌により、消化性潰瘍、逆流性食道炎、下痢などが現れます。ガストリノーマは主に膵臓や十二指腸に発生し、約60~90%が悪性腫瘍となります。発生部位が膵臓だけでなく、十二指腸球部、十二指腸遠位、空腸など多岐にわたるため診断が困難である場合が多いです。

ガストリノーマの原因

ガストリノーマが発生する原因は、すべて解明されているわけではありませんが、主に特定の原因がない散発性の腫瘍として発生する場合と、遺伝性疾患である多発性内分泌腫瘍1型(MEN1)に伴って発生する場合に分けられます。全体の約25%は、MEN1に伴って発生すると言われています。

ガストリノーマの前兆や初期症状について

ガストリノーマの初期症状は、胃酸の過剰分泌により引き起こされます。主な症状には以下のようなものがあります。

  • 消化性潰瘍(胃や十二指腸の表面を守る粘膜が傷ついた状態)
  • 逆流性食道炎(出血、腹痛、胸やけなど含む)
  • 下痢
ガストリノーマの症状としては消化性潰瘍が最も多く、患者さんの90%以上に認められます。ガストリノーマに関連した消化性潰瘍の特徴としては、治りにくい、再発しやすい、複数箇所に発生する、十二指腸下行脚より先に発生するなどが挙げられます。消化性潰瘍の多くは1cm未満の単発性の潰瘍として現れます。

逆流性食道炎もガストリノーマにおける主要な症状です。逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流することで発生します。これにより、出血、腹痛、胸やけなどの症状が引き起こされることもあります。また、腹痛や脂肪性の下痢も頻繁にみられます。

これらの症状はほかの消化器疾患でもよくみられるため、症状だけでガストリノーマと診断することは困難です。しかし、これらの症状が長期間続く場合や、通常の治療で改善しない場合は、ガストリノーマの可能性を考える必要があります。

ガストリノーマは、早期に発見し、適切な治療を行うことが重要です。このため、上記のような症状がある場合は、早めに消化器内科、糖尿病・内分泌内科を受診し、検査を受けるようにしましょう。

ガストリノーマの検査・診断

ガストリノーマの診断は、存在診断局在診断の2段階で進めていきます。 存在診断では、まず症状に基づいて疑いを持ち、空腹時血清ガストリン濃度を測定します。ガストリン濃度が高い場合は、プロポンプインヒビター(PPI)などの制酸剤の長期使用、ヘリコバクター・ピロリ感染、慢性腎不全、萎縮性胃炎との鑑別が必要です。カルシウム静注試験や胃内24時間pHモニタリングも鑑別診断に役立ちます。

局在診断では、腹部超音波検査、CT、MRIなどの画像検査を行います。特に上部消化管内視鏡では十二指腸までの慎重な観察が重要です。また、微小なガストリノーマは通常の画像検査で腫瘍が見つからないこともあります。その場合には、選択的動脈内カルシウム注入法(SASIテスト)も有用です。診断には専門的な知識と技術が必要なため、専門医療機関での診察が推奨されます。

ガストリノーマの治療

ガストリノーマの治療は、腫瘍の状態や患者さんの全身状態に応じて選択されます。基本となるのは外科的切除で、腫瘍の完全な摘出を目指します。 治療方針は、散発性ガストリノーマとMEN1に伴うガストリノーマの2つで大きく分かれます。また、転移や再発を伴うガストリノーマの治療については、生存率と内分泌症状の改善を目指して様々な治療を組み合わせます。

散発性ガストリノーマの治療

ガストリノーマは、リンパ節転移を起こしやすい特徴があるため、腫瘍周辺のリンパを取り除く手術(リンパ節郭清)を伴う外科的切除が基本です。具体的には、リンパ節郭清を伴う十二指腸切除や膵切除が推奨されます。腫瘍が小さく、あまり広がっていない場合には部分切除も選択肢となりますが、この場合でもリンパ節郭清は行う必要があります。 また、散発性ガストリノーマの場合、術前の内分泌症状については薬物療法も行われます。具体的には、ソマトスタチンアナログとプロトンポンプインヒビター(PPI)が推奨されています。

MEN1に伴うガストリノーマの治療

MEN1に伴うガストリノーマは、散発性ガストリノーマと異なり、同時に多発して発生することが特徴です。MEN1に伴うガストリノーマは、腫瘍の性質や内分泌症状、残膵機能を考慮した治療選択が必要です。ガストリノーマを含む機能性腫瘍は、大きさに関係なく症状緩和のために切除が推奨されています。

腫瘍が多発している場合には、SASIテストを実施して、どの腫瘍が内分泌症状の原因となっているか特定する必要があります。手術方法は、腫瘍の数や場所に応じて、通常の膵臓切除から腫瘍の核出術まで、適切な方法を選択します。

十二指腸のガストリノーマでは、同時期または異なる時期に発生する膵臓や消化管のNETも考慮に入れます。膵頭部を残すことができる場合は、膵臓の機能を維持するために、膵臓を残したまま十二指腸だけを全て切除する方法も検討します。

転移や再発を伴うガストリノーマの治療

転移や再発がある場合は、外科切除、薬物療法、局所療法を組み合わせた集学的治療を行います。 手術については、リンパ節転移や周囲への腫瘍の広がりを伴う膵腫瘍があっても、切除が可能な場合は症状の改善が期待できます。ただし、切除できない肝転移がある膵腫瘍の場合には切除を行っても、期待する効果が得られない場合があるため慎重な判断が必要です。

手術以外の治療として、分子標的薬を含む薬物療法も行われます。膵臓のガストリノーマにはスニチニブ、エベロリムス、ストレプトゾシンの使用が推奨され、十二指腸のガストリノーマにはオクトレオチドLARとストレプトゾシンの使用が推奨されます。内分泌症状の緩和にはオクトレオチドLARとPPIの使用が推奨されます。

また、肝転移には肝動脈塞栓術やラジオ波焼灼術、骨転移にはビスフォスフォネート製剤やデノスマブを用い、必要に応じて放射線治療で痛みを和らげます。これらの治療法を適切に組み合わせることで、症状や予後の改善を目指します。

ガストリノーマになりやすい人・予防の方法

ガストリノーマの原因は完全には解明されておらず、ガストリノーマになりやすい人の特徴は特定されていません。しかし、ガストリノーマの25%はMEN1に伴うものであると言われているため、MEN1の疑いがある場合には注意が必要です。MEN(多発性内分泌腫瘍症)とは、複数の内分泌腺に腫瘍が発生する遺伝性の病気です。

MEN1とMEN2の2つのタイプがあり、このうちMEN1では主に副甲状腺、下垂体、膵臓・消化管に腫瘍が現れます。このため、家族にMEN1の方がいる場合には、ガストリノーマのリスクは高くなる傾向にあります。また、ガストリノーマは再発のリスクが高い傾向にあります。特に、MEN1に伴うガストリノーマの場合や転移が認められる場合には再発のリスクが高まる傾向にあります。

ガストリノーマの予防方法については今のところ具体的な方法はありません。しかし、消化性潰瘍が繰り返し発生する場合には、早めに消化器内科、糖尿病・内分泌内科を受診するようにしましょう。

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  • ゼリーガー・エリソン症候群
  • 膵臓の内分泌腫瘍

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