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副甲状腺機能亢進症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

副甲状腺機能亢進症の概要

副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺から分泌される「PTH」というホルモンが過剰に出てしまう病気です。 PTHは血中のカルシウム濃度を調整する役割を担っており、過剰に分泌されると骨からカルシウムが溶け出し、血液中のカルシウムが高くなります。この状態が続くと、骨がもろくなり、骨折しやすくなるほか、腎臓にカルシウムがたまりやすくなり、腎結石を引き起こすことがあります。
症状には疲労感、食欲不振、便秘、うつ症状などが含まれます。
副甲状腺機能亢進症には、副甲状腺そのものが過剰にホルモンを出す「原発性」と、腎臓病などにより副甲状腺が刺激される「続発性」のタイプがあり、それぞれ治療方法が異なります。 (参考文献1,2)

副甲状腺機能亢進症の原因

副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺から分泌される PTH というホルモンが過剰に分泌されることで発症します。この病気には「原発性」と「続発性」という2つのタイプがあり、それぞれ原因が異なります。

原発性副甲状腺機能亢進症

原発性副甲状腺機能亢進症の原因は、約80〜90% は副甲状腺の腺腫 (良性の腫瘍) です。腺腫や過形成により、副甲状腺が通常よりも多くのPTHを分泌してしまい、血中カルシウム濃度が異常に高くなります。また、放射線の暴露も要因として挙げられます。首や頭に放射線治療を受けた人は 20〜40年後に副甲状腺機能亢進症を起こす可能性があります。また、慢性的にカルシウム摂取量が少なく血中カルシウム濃度が低い人は副甲状腺機能亢進症の発症リスクが高いと言われています。血中カルシウム濃度が低いとカルシウム濃度を維持するために副甲状腺が常に刺激される状況となり、副甲状腺機能亢進症を引き起こしやすくなるためです。そして、遺伝的な要因も一因とされています。原発性副甲状腺機能亢進症のうち、10%ほどは家族性と言われており、様々な遺伝子異常が原因として報告されています。 (参考文献1)

続発性副甲状腺機能亢進症

一方、続発性副甲状腺機能亢進症の原因には慢性腎不全やビタミンD欠乏症、副甲状腺ホルモン不応症などがあります。慢性腎臓病では、腎臓が ビタミンDを十分に活性化できなくなります。また、ビタミンD 摂取量が少なかったり消化管からの吸収障害があったりするとビタミンD欠乏症を起こします。ビタミンDは紫外線により活性化されるため、紫外線への暴露不足も原因となる可能性があります。ビタミンD が不足すると腸管から十分にカルシウムを吸収できなくなるため、副甲状腺はこれを補うためにPTHの分泌を増やし、骨からカルシウムを取り出そうとします。こうして副甲状腺が常に刺激され続けることで過剰に反応し、機能亢進状態になります。一方、副甲状腺ホルモンは分泌されていてもそれに体が反応することのできない状態である副甲状腺ホルモン不応症では、副甲状腺はホルモン分泌が足りていないと誤認して機能亢進状態となります。 (参考文献3)

いずれの場合も、副甲状腺ホルモンの異常な分泌によって骨や腎臓に負担がかかり、症状が引き起こされます。

副甲状腺機能亢進症の前兆や初期症状について

副甲状腺機能亢進症の初期症状は、体の中のカルシウム濃度が少しずつ高まることで現れ、最初は軽い症状や気付きにくいものが多いです。主に「なんとなく調子が悪い」といった、全身に影響する漠然とした症状が多いため、他の病気と見分けにくいこともあります。例えば、軽い疲れやすさや倦怠感を感じることが多くなり、普段の生活で体が重い、疲れが抜けないといった状態が続きます。また、便秘や食欲不振、喉の渇きといった消化器系の症状も初期に見られる場合があり、なんとなく胃腸の調子が悪いと感じることがあるかもしれません。また、精神的な影響として、軽い抑うつ感やイライラ、集中力の低下なども初期に見られることがあります。以前は気にならなかった小さなことに不安を感じたり、集中しづらくなったりすることがあります。このように、副甲状腺機能亢進症の初期症状は日常の疲労やストレスと似ているため、気付かれにくいことが多いです。

副甲状腺機能亢進症が進行すると、骨や腎臓などに影響が見られます。全身のだるさや精神的な影響にもつながります。まず、骨に関わる症状としては、骨がもろくなる「骨粗しょう症」が挙げられます。 PTH はカルシウムを血中に放出させるために骨を分解する働きがあり、そのため骨密度が低下して骨折しやすくなることがあります。また、腰や背中の痛みが生じる場合もあります。腎臓への影響としては、「腎結石」があります。血中のカルシウムが過剰に増えると、腎臓で結晶化しやすくなり、結石として蓄積されるのです。腎結石は強い腰や脇腹の痛みを引き起こすことがあり、尿路感染症を併発することもあります。重症の場合は腎機能が低下し、腎不全を引き起こすこともあります。 (参考文献2)

副甲状腺機能亢進症の検査・診断

副甲状腺機能亢進症の診断には、血液検査画像検査などを用いて調べます。まず、血液検査で慢性的な高カルシウム血症が確認されたら、血中のカルシウムとPTH (副甲状腺ホルモン) の濃度を測定します。原発性副甲状腺機能亢進症がある場合、カルシウムが高く、PTHの値も正常よりも高いことが特徴です。しかし、まれですが家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症 (FHH) という遺伝疾患である可能性もあります。この病気ではカルシウムを体が検知できないためにPTHの分泌が抑制されず高カルシウム血症となってしまいます。また、続発性副甲状腺機能亢進症のうち、ビタミンD欠乏症の場合も似たような血液検査結果となります。

FHHやビタミンD欠乏症と見分けるために、尿中のカルシウム濃度や血中ビタミンD濃度を調べることもあります。原発性副甲状腺機能亢進症では尿中カルシウム濃度は高いか正常で、ビタミンD濃度も正常となります。

続発性副甲状腺機能亢進症のうち、慢性腎不全や副甲状腺ホルモン不応症と ビタミンD欠乏症を見分けるためには血中リン濃度が重要になります。慢性腎不全や副甲状腺ホルモン不応症では血中リン濃度が高値になりますが、腎以外に原因のあるビタミンD欠乏症では低値になります。 (参考文献3)
これらの検査結果を総合的に判断して、副甲状腺機能亢進症の診断が行われます。

超音波検査やCTといった画像検査は副甲状腺機能亢進症の確定診断には用いません。
ただ、副甲状腺の腫れや腫瘍 (腺腫) がないかを調べることができ、手術を検討するためには重要です。 (参考文献4)

副甲状腺機能亢進症の治療

副甲状腺機能亢進症の治療方法は、症状の重さや原因によって異なります。軽症で症状が少ない場合、すぐに治療を行わず、経過観察となることがあります。この場合は定期的に血液検査を行いカルシウムや副甲状腺ホルモンの値を監視します。

一方で、原発性副甲状腺機能亢進症の場合、症状がある場合や症状がなくても以下の基準に当てはまる人には積極的な治療が勧められます。

  • 血中カルシウム濃度が高い
  • 画像検査で骨の脆弱化が確認される
  • 腎機能が低下している
  • 50歳 未満

治療としては主に手術が行われます。
手術によって過剰な PTH を分泌している副甲状腺の腫瘍や腫れた部分を取り除くと、多くの患者でカルシウム値が正常に戻ります。後に腎結石を発症するリスクも減らすことができます。 (参考文献5)

続発性副甲状腺機能亢進症では原因によって治療が異なります。まず、ビタミンD欠乏症 や副甲状腺ホルモン不応症の場合はサプリメントでビタミンDを補います。

一方、慢性腎不全の場合では、リン吸着薬やビタミンDの活性化薬を用いてカルシウムの吸収を調整します。また、カルシウム受容体に作用する薬を用いることで PTHの分泌を抑制することもあります。これらの薬物療法で上手く効果が現れない場合は、手術で副甲状腺を摘出することもあります。 (参考文献3)

副甲状腺機能亢進症になりやすい人・予防の方法

副甲状腺機能亢進症になりやすい人

原発性副甲状腺機能亢進症は日本において 2000〜3000人に1人が罹患していると言われていて、男女比は 1:3で特に中高年の女性に多く見られる病気です。原因としては良性の腫瘍 (腺腫) が最も多く、80〜85% ほどと言われています。また、続発性甲状腺機能亢進症は慢性腎不全の状態にある患者さんに多く見られます。 (参考文献3)

予防の方法

原発性副甲状腺亢進症の予防方法はわかっていませんが、腎結石や続発性副甲状腺亢進症の一部はある程度予防することができるかもしれません。まず、腎結石の予防には水分を多く飲むことが大切です。また、慢性的なカルシウムやビタミンD不足を起こしている人は、普段の食事で十分なカルシウムやビタミンDを摂るよう心がけてみるのも良いかもしれません。 (参考文献6)


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