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糖尿病ケトアシドーシス
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

糖尿病性ケトアシドーシスの概要

糖尿病性ケトアシドーシスとは、糖尿病の重篤な合併症の一つであり、血糖値が著しく上昇すると同時に、体内に「ケトン体」と呼ばれる酸性の物質が大量にたまり、血液が酸性に傾いてしまう状態を指します。この状態が進行すると、意識障害や昏睡などを引き起こすことがあり、命に関わる危険な病態です。 特に1型糖尿病の患者さんに多くみられますが、インスリンの分泌が著しく低下した2型糖尿病の方でも起こりうることがあります。原因としては、インスリンの不足や感染症、脱水、ストレスなどが引き金となり、血糖がコントロールできなくなって発症します。適切な治療を受ければ改善可能ですが、発見が遅れると命に関わるため、早期発見と迅速な治療が重要です。

糖尿病性ケトアシドーシスの原因

糖尿病性ケトアシドーシスが発症する主な原因は、体内のインスリンが極端に不足することにあります。インスリンは、ブドウ糖を細胞に取り込んでエネルギーとして利用させるホルモンですが、これが不足すると、体は代わりに脂肪を分解してエネルギーを作り出そうとします。この脂肪の分解によって生成されるのが「ケトン体」です。 ケトン体には血液を酸性にする性質があるため、血中に大量にたまると「アシドーシス(酸性血症)」という状態になります。この変化が体にとって非常にストレスフルであり、命を脅かす状況にまで悪化することがあります。 ケトアシドーシスを引き起こすきっかけとしては、糖尿病の治療を中断したり、インスリン注射を忘れたりした場合が最も典型的です。また、風邪や肺炎、尿路感染症といった感染症、手術やけが、強いストレスなどが誘因となることもあります。これらの状況では、体が多くのエネルギーを必要とするため、インスリンの必要量が一時的に増加し、結果として相対的なインスリン不足に陥ることがあります。

糖尿病性ケトアシドーシスの前兆や初期症状について

糖尿病性ケトアシドーシスは、初期にははっきりとした症状が出ないこともありますが、次第に口の渇きや頻尿、強い倦怠感といった症状が現れ始めます。これは、血糖値が著しく高くなっていることで、体が水分を大量に排出しようとするために起こるものです。その結果、脱水が進み、だるさや集中力の低下などが生じてきます。 さらに進行すると、吐き気や嘔吐、腹痛、呼吸が速く深くなるといった症状が現れます。この呼吸の変化は「クスマウル呼吸」と呼ばれ、体が血液の酸性を中和しようとするために起こるものです。また、ケトン体の一部には独特の甘酸っぱい臭いがあるため、呼気から「フルーツのような匂い」がすると表現されることもあります。 最終的には、意識が混濁したり、ひどい場合には昏睡に陥ることもあります。こうした重症化を防ぐためには、上記のような症状に早めに気づき、医療機関を受診することが重要です。

糖尿病性ケトアシドーシスの検査・診断

糖尿病性ケトアシドーシスの診断は、血液と尿の検査によって行われます。血糖値が高く、血液中にケトン体が増えていて、さらに血液のpHが酸性に傾いている場合に、この病態が疑われます。 まず、血液検査では、血糖値が250mg/dL以上であることが多く、さらに血液のpHが7.3未満であれば、アシドーシスの状態と判断されます。また、ケトン体や重炭酸イオンの値、血液の浸透圧なども確認され、これらを総合して診断が下されます。 一方、尿検査でもケトン体が検出されることが多く、簡易検査キットでの判定が可能です。脱水の程度を把握するためには、電解質のバランス(ナトリウム、カリウムなど)も重要な指標となります。特にカリウムは治療中に大きく変動するため、綿密なモニタリングが必要です。

糖尿病性ケトアシドーシスの治療

糖尿病性ケトアシドーシスの治療は、主に3つの柱で構成されます。第一に行われるのが水分の補給です。脱水によって血液の濃度が高まっているため、生理食塩水などを点滴で投与して体内の水分と電解質を回復させます。 次に行うのがインスリンの投与です。インスリンを点滴で持続的に投与することで、血糖値をゆっくりと下げ、ケトン体の産生を抑制します。血糖を急激に下げすぎると逆に危険を伴うため、慎重なコントロールが求められます。 そして3つ目が電解質の調整です。特に注意が必要なのがカリウムの値で、インスリン治療中は体内のカリウムが急速に細胞内に取り込まれるため、血中のカリウム濃度が下がってしまうことがあります。これを放置すると心臓に悪影響を与える可能性があるため、必要に応じてカリウムの補正が行われます。 また、ケトアシドーシスのきっかけとなった感染症などがある場合には、それに対する治療も並行して進められます。肺炎や尿路感染症などが見つかれば、抗菌薬を用いた治療が必要です。

糖尿病性ケトアシドーシスになりやすい人・予防の方法

糖尿病性ケトアシドーシスになりやすいのは、特に1型糖尿病を持つ方で、インスリン治療が中断したり、不十分になった場合にリスクが高まります。また、思春期や妊娠中など、ホルモンバランスが変化する時期にも注意が必要です。2型糖尿病でも、インスリン分泌の著しい低下がある方や、高齢で慢性疾患を抱える方は発症の可能性があります。 予防のためには、インスリンや経口血糖降下薬の使用を自己判断でやめないことが何より重要です。病気やストレスで食事がとれないときでも、インスリンを調整して使い続ける必要があります。また、血糖値や尿中ケトン体をこまめにチェックし、異常があれば早めに医療機関に相談することが大切です。 感染症脱水といった誘因も予防する必要があります。日頃から手洗いやうがいを徹底し、こまめな水分補給を心がけるとともに、急な発熱や吐き気などがある場合にはすぐに受診する姿勢が求められます。

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