

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。
低血糖の概要
低血糖とは、ブドウ糖の血中濃度が極めて低くなっている状態です。具体的には70mg/dLを下回っていると低血糖だと判断されます。 ブドウ糖の血中濃度はインスリンをはじめとするホルモンの働きによって一定の範囲に保たれるようになっており、よほどのことがない限り低血糖を引き起こすようなことはありません。 しかし、何らかの疾患によって血糖値の調整がうまくいかなくなることがあります。このようなケースでは、基礎疾患のない人と比べると低血糖が引き起こされやすくなるのです。 低血糖は単独の疾患として起きるよりも、ほかの疾患の合併症として起きるものだといえます。低血糖の原因
低血糖が起きる主な原因の多くは、以下のような基礎疾患に由来するものです。 基礎疾患がない場合でも、食事に問題があれば低血糖が引き起こされることもあります。- 糖尿病
- インスリノーマ
- 肝機能障害
- 炭水化物の過剰摂取
糖尿病
糖尿病には自己免疫によって膵臓の内分泌機能が低下して起きるⅠ型と、生活習慣などが原因で起きるⅡ型があります。Ⅱ型の場合はインスリンの分泌量そのものの低下と、分泌量が十分であっても効果が低下するインスリン抵抗性の2つが原因です。いずれのケースであっても、インスリンの効果が下がっているため糖尿病の患者さんはブドウ糖の血中濃度のコントロールが不安定になっています。コントロールが不安定になっているから極端に血糖値が上がるわけで、同じことが血糖値の低下についても起きるのです。食事の間隔が開いた場合、基礎疾患の有無に関わらず血糖値の低下そのものは起こります。基礎疾患がない場合はインスリンなどによって血糖値がコントロールされているため、極端な低下は起こりにくいのです。しかし糖尿病の患者さんはこのコントロールが不安定なので、基礎疾患がない人より極端な血糖値低下が起きやすくなります。また、インスリンをはじめとする糖尿病の治療薬が適切に使われていないことが原因で低血糖が引き起こされるケースもあるのです。インスリノーマ
インスリノーマとは膵臓を原発巣とする腫瘍の一種で、膵β細胞に由来するものです。インスリノーマ全体のうち10%が悪性、10%が多発性とされています。膵β細胞はインスリンを分泌する働きがあるため、インスリノーマからもインスリンが分泌されます。インスリンを分泌する腫瘍の存在が原因で、インスリノーマの患者さんはインスリンの分泌量が過剰になっているのです。インスリンの主な働きはブドウ糖からのグリコーゲン生成促進で、これによってブドウ糖の血中濃度を低下させています。インスリノーマに起因するインスリンの分泌過剰は、グリコーゲンの過剰生成によるブドウ糖の血中濃度の過剰低下を引き起こす結果となります。インスリノーマの主要な症状として低血糖が引き起こされるのは、こうしたメカニズムによるものです。肝機能障害
肝機能障害によって糖尿病のような症状が引き起こされ、これが低血糖の原因となるケースがあります。インスリンにはブドウ糖からのグリコーゲン生成を促す働きがありますが、グリコーゲンの生成そのものを行うわけではありません。グリコーゲンの生成自体は肝臓で行われているため、肝機能に問題があるとグリコーゲンの生成に障害が生じます。こうした症状を肝型糖尿病といい、これが血糖値のコントロールの不安定化につながります。具体的には肝硬変によって肝臓の組織が破壊され、肝機能が低下することがグリコーゲンの生成阻害につながるのです。また、肝臓でグリコーゲンを生成するために必要な酵素の先天的異常によって引き起こされることも確認されています。いずれのケースでもブドウ糖の血中濃度のコントロールが不安定になるため、低血糖も引き起こされやすくなるのです。炭水化物の過剰摂取
反応性低血糖ともいわれるものです。炭水化物を過剰に摂取すると、血糖値を下げるためにインスリンが大量に分泌されます。問題は、血糖値の上昇とインスリンの効果が必ずしも同時に起きるわけではないということです。血糖値の上昇からインスリンの効果が出るまでにずれがあると、必要以上に血糖値が下がる時間帯が生じてしまいます。具体的には食事から3時間から5時間が経過した時間帯です。これによって引き起こされるのが、反応性低血糖です。反応性低血糖は糖尿病の初期症状のひとつとして知られていますが、基礎疾患がない人でも起きる場合があります。原因不明で起きる特発性反応性低血糖も確認されています。低血糖の前兆や初期症状について
低血糖の初期症状として挙げられるのは以下のようなものです。このような症状が出た場合には、内科を受診することをおすすめします。- 発汗
- 不安感
- 頻脈
- 手や指のふるえ
- 顔面蒼白
低血糖の検査・診断
低血糖の診断基準は、血糖値が70mg/dLを下回っているかどうかです。医療機関で血液検査を行えば、低血糖かどうかは診断できます。糖尿病をはじめとする基礎疾患がある人は血糖値測定器を持っているので、自己診断も可能です。 基礎疾患がある人のなかには低血糖に体が慣れてしまっている人もいるため、少しでも体がおかしいなと感じたら血糖値を測定してみることをおすすめします。低血糖の早期治療につながる可能性があるためです。低血糖の治療
低血糖自体の治療は、いかにして足りないブドウ糖を補給するかが基本となります。まず考えられるのは、ブドウ糖そのものを経口摂取することです。 具体的にはブドウ糖・砂糖を10gから20g経口摂取することです。砂糖の入った飲料水を200mLから300mL飲む方法でも構いません。ただし糖尿病治療のためにα-グルコシダーゼ阻害薬を服用している場合には、必ずブドウ糖そのものの摂取でなければなりません。 飲料水で気を付けなければならないのは、甘いものなら何でもよいというわけではないことです。具体的には人工甘味料を使用している低カロリーの飲料水は、ブドウ糖の摂取につながらないため飲んでも意味がありません。 食事時間が近い場合には、可能な限り早く食べることもおすすめです。このとき、米飯をはじめとする炭水化物を先に摂取することを推奨します。先に食べることで、栄養素が早く吸収されるようになるためです。 食べ物で気を付けなければならないのは、チョコレートをはじめとする脂肪分を含むものです。脂肪分が糖分の吸収を阻害し、対処が遅くなる可能性があります。低血糖になりやすい人・予防の方法
繰り返しになりますが、低血糖になりやすいのは原因となる基礎疾患がある人です。血糖値測定器を所持していることが想定されるため、予防につながる血糖値のこまめな測定がやりやすい環境にあります。 低血糖を予防するためには、少しでも体調に異変を感じたら血糖値を測定することがおすすめです。基礎疾患がある人は低血糖に体が慣れているため症状が出にくく、血糖値を測定するまで気が付かないことがあるからです。 規則正しい食生活も、低血糖の予防につながります。食事の間隔が開くと血糖値が下がり、低血糖を招きやすくなります。基礎疾患がないケースでも、炭水化物の大量摂取は低血糖につながりかねません。 いずれにしても、重要なのは体調の自己管理です。低血糖を起こさないことは、自分の努力である程度可能になるのです。参考文献




