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磨耗症
加藤 大地

監修歯科医師
加藤 大地(歯科医師)

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東京歯科大学卒業。日本歯科大学附属病院研修修了。都内歯科医院勤務。現在は医療法人かとう歯科勤務。日本口腔インプラント学会、日本臨床歯周病学会、近未来オステオインプラント学会、保田矯正塾。

磨耗症の概要

摩耗症とは、歯ブラシなどの機械的刺激を継続的に受けることによって物理的に歯の表面が削れて失われる症状のことを指します。一般的にゆっくりとした経過をたどるため、初期には自覚症状が少なく、露出した象牙質(歯の内部)に冷水や冷風がしみることで初めて自覚することが多いとされています。

歯の生え際にあるエナメル質が削られると、その下にある象牙質が露出し、その部分がくさび状に見えることからくさび状欠損(Wedge Shaped Defect;WSD)と呼ばれます。欠損面はえぐられていますが、表面は滑らかであることが多いです。WSDは、犬歯や小臼歯の表側に見られますが、大臼歯や前歯に見られるケースもあります。

咬耗症と混同される場合が多いですが、咬耗症は歯と歯が擦れてすり減っている症状を指します。これは夜間の歯ぎしり(グラインディング)や日中の食いしばり(クレンチング)やTCH(ToothContactingHabbit)と呼ばれる歯の接触癖が原因となります。
臨床所見は似通っていますが、好発部位が異なるため診断の区別は容易にすることが可能となります。

また、歯の酸蝕症と呼ばれる症状とも臨床症状が似ているため、鑑別が重要となります。これは、酸性度の高い飲食物の摂取の習慣や、逆流性食道炎などによる胃酸の影響、投薬状況の問題によるものが多いとされています。こちらも摩耗症とは好発部位が異なるため診断の区別は容易となります。

磨耗症の原因

摩耗症の原因にはさまざまな要因がありますが、以下の事象が複合して原因となることが多いとされています。

歯ブラシの種類や歯磨き時の圧

摩耗症は不適切な歯磨き方法によって発症するケースが少なくありません。具体的には下記のような歯磨き方法です。

  • かたい歯ブラシを使用する
  • 強い(不適切な力)で歯磨きをする
  • 粗い研磨剤入りの歯磨き粉を使用する

食生活

食生活も摩耗症の原因になりえます。食べ物を噛みすぎたり、硬い食べ物を頻繁に食べる、過度な咀嚼、硬い食べ物や歯ごたえのいい食べ物を好んでよく食べるなどです。

職業や習慣

吹菅奏者、硝子吹菅工、クギ、針などをくわえる大工、裁縫師、靴職人など、日常的に何かを噛みしめたりくわえたりすることの多い職業や、楊枝をくわえる、爪を咬む、パイプをくわえるなどの習慣が原因となりえます。

口腔内の不良補綴物

不適な補綴物(銀歯など)や、入れ歯の床縁や鈎(クラスプ)の接触などです。

磨耗症の前兆や初期症状について

摩耗症の初期には、エナメル質の表層のすり減りがゆっくりであるため、自覚症状はほとんどありません。急激に症状が進行するケースは少ないので、歯科検診などでたまたま発見されることが多い傾向です。
エナメル質は唾液や歯磨剤により再石灰化を起こす機能が備わっておりますが、経年的な機械的刺激が蓄積されていくことで徐々に症状が進行します。

歯質のすり減りが進行すると、歯の内部構造である象牙質が露出してきます。この露出した部分が歯ブラシや冷水、お湯などの外的刺激を受けると一時的に痛みを伴う象牙質知覚過敏症という状態になることもあります。

象牙質はエナメル質に比べるともろい構造をしているため、むし歯に罹患した場合進行が早くなる特徴があります。さらに進行がすすむと象牙質の内部にある歯髄に細菌や刺激が到達し、歯髄炎を引き起こすこともあります。
歯髄炎の炎症の程度は強く、自発的な痛みを伴うことが多いとされています。

このような症状が現れたら歯科を受診しましょう。また、先述のとおり摩耗症は初期には自身で気付きにくいので、症状がなくとも定期的な歯科検診を受けることが大切です。

磨耗症の検査・診断

摩耗症の検査・診断は簡単な検査で行われます。さらに生活習慣や普段の歯磨き方法の問診も重要となります。

問診

日々の歯磨きにおいて、どのような歯ブラシ、歯磨剤を使用しているか、歯磨き時の圧、歯磨きの頻度を聞きます。また、歯磨剤によっては歯質に対する研磨剤が多く含まれているものもあるため大事な項目となります。

視診

口腔内所見では実際に歯を見ることで診断を行います。特に、摩耗症の好発部位である歯頚部(歯と歯茎の境目のあたり)の視診で診断できる場合が多いとされています。

画像検査

エックス線写真を撮影し、診断を行うこともあります。歯頚部の診断は詳細なレントゲン写真が必要となるため、パノラマエックス線写真よりも、個々の歯が細かく読影できるデンタルエックス線写真を撮影するケースが多いです。

磨耗症の治療

まず、摩耗症の主な原因となる歯ブラシ習慣や、何かをくわえる習慣を見直す必要があります。ただし、臨床症状がほとんどない場合は経過観察を行う場合もあります。

軽度の場合

主に薬剤による象牙質知覚過敏に対する処置を行います。知覚過敏抑制剤を使用します。

中等度~重度の場合

コンポジットレジンと呼ばれる材料を直接実質欠損部に充填します。外部からの刺激を遮断する働きがあるので症状の緩和につながることが多いです。
即日修復できますが、経年で材料が変色したり、接着力が弱まると脱落する場合もあります。

磨耗症になりやすい人・予防の方法

摩耗症になりやすい方の特徴は以下となります。

  • かたい歯ブラシや、歯磨き時の圧が強い方
  • 研磨剤の多く含まれる歯磨剤を使用している方(特にホワイトニング効果の高いとされている歯磨剤には研磨剤が多く含まれています)
  • 不適切な入れ歯を使用している方
  • 針や釘などをくわえる職業の方(大工、裁縫師、靴職人など)
  • 吹奏楽器やパイプなどを吹く方(硝子職人、吹奏楽の演奏者など)

摩耗症を予防するには、歯がすり減る原因となっている習慣をあらためる必要があります。かたい歯ブラシを使うことや、強い力で磨くことは摩耗症の大きな原因となるのでやめましょう。

歯ブラシを握るように持つと歯に過度な圧力をかけてしまうため推奨されておりません。
歯ブラシを使うときは、ブラシのやわらかいものを用いて、指先を使ってペンを握るように優しい力で持ちます。歯に当てるときは、毛先が曲がらないような力を意識し、強い力で磨かないようにしましょう。過度に一定の動きで同じ場所を磨き続けることのないよう注意し、優しい力で角度を変えながら満遍なく全体を磨くようにするとよいでしょう。

タバコのヤニや着色を落とすための荒い研磨剤入りの歯磨き剤の使用はなるべく控え、使用するときも先述のように過度に歯に圧力のかからない方法を意識して磨きましょう。

関連する病気

参考文献

  • 第6版保存修復学医歯薬出版株式会社
  • 日本歯科保存学会誌『摩耗症(くさび状欠損)の摩耗面の評価』
  • 日本補綴歯科学会『酸蝕症の病態と臨床対応』
  • QUINTESSENCEPUBLISHING日本『ToothWear:現在の考え方と臨床』
  • 口腔病理基本画像アトラス『摩耗症』

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