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赤色平滑舌
小島 敬史

監修医師
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)

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【経歴】
経歴
2006年3月 慶應義塾大学医学部医学科卒
2008年3月 佐野厚生総合病院 初期臨床研修修了
2008年4月 慶應義塾大学耳鼻咽喉科学教室所属
2013年9月 慶應義塾大学病院 助教として勤務
2018年8月 米国 ノースウェスタン大学耳鼻咽喉科で遺伝性難聴の基礎研究に従事
2021年5月〜 国立病院機構 栃木医療センター 耳鼻咽喉科医長 (現職)
【資格等】
日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医、日本耳科学会認定医、補聴器相談医、補聴器適合判定医
所属学会:日本耳鼻咽喉科学会、日本耳科学会、日本聴覚医学会、耳鼻咽喉科臨床学会

赤色平滑舌の概要

舌の表面には、乳頭(舌乳頭)と呼ばれる突起状の感覚器構造が広く分布しており、種類によって、味覚や触覚を担っています。
赤色平滑舌とは、この舌乳頭が萎縮することで舌表面が平滑化し、赤く光沢のある外観を呈する状態です。平滑舌は、萎縮性舌炎とも呼ばれます。
この状態は、主に全身疾患に伴う症状の一つとして現れるため、その背景疾患の評価が重要です。

赤色平滑舌の原因

赤色平滑舌の原因となる代表的な疾患には、以下のものがあります。

  • 鉄欠乏性貧血
  • ビタミンB複合体(B1, B2, B3, B6, B12)の欠乏
  • その他の微量栄養素欠乏(亜鉛・葉酸欠乏)
  • カンジダ症
  • 口腔乾燥(シェーグレン症候群、薬剤の副作用など)
  • セリアック病

このうち、特に多い原因は鉄欠乏性貧血 とされています。鉄欠乏性貧血は、体内の鉄分が不足することで生じます。
鉄分が不足する主な要因としては、鉄の需要が増加する時期、食事や吸収の問題、慢性的な鉄の喪失が挙げられます。
例えば、思春期や妊娠期には鉄の必要量が増加するため、不足しやすくなります。また、食事からの鉄分摂取が少ない場合や、消化管での吸収不良があると、体内への供給が十分に行われません。さらに、月経や消化管出血、婦人科疾患により鉄が慢性的に失われると、貧血のリスクが高まります。

ビタミンB複合体の欠乏のなかでは、特にビタミンB12の欠乏症が多いとされています。ビタミンB12は動物性タンパク質に多く含まれており、一般には摂取不足となりにくい栄養素です。しかし、厳格な菜食主義者(ベジタリアン)では摂取が不足しやすくなります。また、胃癌などで胃を切除した場合や、萎縮性胃炎を伴う高齢者では、ビタミンB12の吸収が妨げられるために不足することがあります。

また、唾液の分泌が低下した場合、口腔内の乾燥により舌の表面が平滑になり、赤色平滑舌を示す場合があります。シェーグレン症候群のように自己免疫疾患により唾液の分泌が低下したり、年齢により唾液の分泌が低下したりするのが原因として考えられます。この場合は口腔内の環境を改善することで赤色平滑舌の改善が期待できます。

一部の薬剤も赤色平滑舌の原因となることがあります。抗コリン薬、三環系抗うつ薬、第1世代抗ヒスタミン薬、利尿薬などは、副作用として口腔乾燥を引き起こし、舌の粘膜が萎縮することがあります。この影響で赤色平滑舌がみられることがあります。

セリアック病は日本ではまれな疾患ですが、グルテン摂取により特定の抗体が産生され、小腸粘膜が障害されることで栄養素の吸収が阻害されます。

赤色平滑舌の前兆や初期症状について

赤色平滑舌になると、舌乳頭の萎縮によって舌の表面が滑らかで光沢を帯びた赤色に見えます。症状には個人差がありますが、舌の見た目が変化する前に、違和感や痛み、焼けるようなヒリヒリした感覚(灼熱感)、しびれなどを感じることがあります。
また、赤色平滑舌の原因となる疾患によっては、舌の異常以外にも特徴的な症状がみられることがあります。

鉄欠乏性貧血による赤色平滑舌

鉄欠乏性貧血では、貧血に伴う倦怠感やめまい、動悸、息切れなどの全身症状がみられます。顔色が悪くなったり、眼瞼結膜(まぶたの内側の粘膜)が蒼白になることもあります。加えて、爪が薄く反り返る匙状爪(スプーンネイル)が特徴的な所見の一つです。また、異食症がみられ、特に氷を好んで食べることが多いとされています。
さらに、鉄の不足が進行すると、食道Web(食道粘膜に膜状の構造物が形成されることで狭窄が生じる)がみられ、のどのつかえ感や飲み込みづらさ(嚥下障害)が生じることがあります。これらの症状を特徴とするものとしてPlummer-Vinson(プランマー・ヴィンソン)症候群が知られています。

ビタミンB複合体の欠乏による赤色平滑舌

ビタミンB12欠乏による舌炎は、ハンター舌炎とも呼ばれます。
また、ビタミンB12が不足すると赤血球の形成が障害され、貧血(悪性貧血)を引き起こし、倦怠感や息切れといった全身症状がみられます。
神経症状としては、亜急性連合性脊髄変性症があり、深部感覚の低下や歩行時のふらつき(脊髄性失調)が特徴的です。このほか、末梢神経障害や認知機能の低下がみられることがあります。

また、ビタミンB3(ナイアシン)欠乏によるペラグラでは、下痢や日光露出部の皮膚炎がみられます。加えて、せん妄や末梢神経障害、脳症などの精神・神経症状を伴うことがあります。

亜鉛欠乏症による赤色平滑舌

亜鉛欠乏症では、皮膚・粘膜に異常が現れやすく、口腔内にも影響を及ぼします。皮膚炎が生じることがあり、脱毛症や口内炎、味覚障害を伴うこともあります。

シェーグレン症候群による赤色平滑舌

シェーグレン症候群では、自己免疫の影響で口腔・眼の乾燥症状が特徴的です。口唇の乾燥や口角びらんが生じやすく、ドライアイの症状として流涙の低下もみられます。さらに、全身症状として疲労感や唾液腺の腫れ・痛み、関節痛が現れることもあります。

このような舌の変化がある場合、背景に全身疾患が隠れている可能性があります。早めに耳鼻咽喉科や歯科口腔外科を受診し、必要に応じて内科や皮膚科などの診療科と連携を取ることで、適切な診断と治療を受けることができます。
すでに全身疾患で通院している場合は、まずかかりつけの内科に相談するのもよいでしょう。

赤色平滑舌の検査・診断

赤色平滑舌がみられ、その背景に全身疾患の存在が疑われる場合、原因を特定するために血液検査内視鏡検査に加え、自己免疫疾患に関連する特殊検査などが行われます。また、薬剤歴の確認も重要であり、常用薬や最近の薬剤変更があれば、主治医に伝えるようにしましょう。

血液検査

血球計算や鉄、ビタミン類の測定を行います。また、疑われる原因疾患に応じて、自己免疫疾患に関連する各種自己抗体(抗内因子抗体、抗SS-A/Ro抗体、抗SS-/LaB抗体、抗tTG抗体、抗EMA抗体など)や腫瘍マーカーが測定される場合があります。

内視鏡検査

セリアック病による吸収障害や、悪性腫瘍の可能性が考えられる場合には消化管内視鏡検査が実施され、必要に応じて組織生検が行われます。

シェーグレン症候群に関連する検査

シェーグレン症候群が疑われる場合は、唾液や涙の分泌機能を評価するためにガムテスト(唾液分泌量テスト)シルマーテスト(涙の分泌量テスト)が実施されます。さらに、確定診断のために唾液腺や涙腺の組織診断を行うことがあります。

赤色平滑舌の治療

基本的には、赤色平滑舌の原因となった疾患に対する治療を行います。原因疾患や個人差によって治療効果は異なりますが、以下の治療で症状の改善が期待できます。

鉄やビタミンが不足している場合は、それらの補充を行います。
口腔乾燥が関与している場合は、原因となる薬剤があれば変更や中止を検討し、唾液分泌を促す薬や人工唾液が使用されることがあります。
また、舌の炎症をおさえる目的でうがい薬が処方されることもあります。

赤色平滑舌になりやすい人・予防の方法

赤色平滑舌の原因として最も多いとされる鉄欠乏性貧血は、消化器疾患や、閉経前の女性では婦人科疾患(子宮筋腫、子宮内膜症など)によって生じることがあります。早期発見のために、市町村や病院が実施するがん検診(便潜血検査、内視鏡検査など)や婦人科健診を積極的に活用することが推奨されます。また、過多月経(月経量が多い)や黒色便(便が黒い)といった自覚症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。

また、鉄、ビタミンB群、亜鉛、葉酸などの栄養素が不足すると、赤色平滑舌を引き起こす可能性があるため、偏食を避け、バランスの取れた食生活を心がけることが重要です。
さらに、胃の切除手術を受けた方や慢性胃炎のある方は、ビタミンB12の吸収が低下しやすく、欠乏に注意が必要です。

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