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口唇裂創
吉川 博昭

監修医師
吉川 博昭(医師)

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医学博士。日本ペインクリニック学会専門医、日本麻酔科学会専門医・指導医。研究分野は、整形外科疾患の痛みに関する予防器具の開発・監修、産業医学とメンタルヘルス、痛みに関する診療全般。

口唇裂創の概要

口唇裂創(こうしんれっそう)は、くちびるの組織が裂けたり切れたりする外傷のことです。
口唇は、医学的には口の周囲を取り囲む「口輪筋(こうりんきん)」とよばれる筋肉を含み、この口輪筋によって支えられている組織すべてを指します。

くちびるは顔の中でもとくに柔らかく、外部からの衝撃を受けやすい場所です。口唇裂創は、日常生活での転倒や事故、スポーツ中の衝突などが原因となることが多く、場合によっては出血が多くなったり、傷が深くなったりすることがあります。

口唇裂創では、外科的な治療が行われることが一般的です。くちびるの機能を回復するだけでなく、見た目を回復することも治療の重要な目的となります。

口腔周辺には、血管や神経が豊富に存在しているため、口唇裂創が生じると見た目の変化だけでなく、大量の出血や細菌感染、神経の損傷による麻痺などの問題を引き起こす可能性があります。そのため、適切な治療をすみやかに行うことが重要です。

口唇裂創の原因

口唇裂創は、外部からの物理的な力によって引き起こされます。外的な衝撃や圧力がくちびるに加わることで、くちびるの組織が裂けたり切れたりするのです。口唇裂創はさまざまな原因によって発生しますが、主に転倒や転落、衝突、暴力、スポーツ、交通事故などが原因となることが一般的です。

転倒や転落は、とくに日常生活でよく見られる事故のひとつです。歩行中に転んだり、階段から落ちたりすると、顔を強く打ちつけてくちびるが裂けることがあります。また、選手同士が激しく接触するようなコンタクトスポーツも、口唇裂創の原因となります。

口唇裂創の前兆や初期症状について

口唇裂創は、外部からの強い力を急に受けることによって引き起こされるため、前兆はありません。口唇裂創が発生した際には、ほとんどの場合で多量の出血がみられます。

傷口は、腫れや痛みをともない、これらの症状は時間が経つにつれて強くなることが一般的です。傷が深い場合には、損傷した部分が開いたままになることもあります。

交通事故などが原因の場合、ガラス片や金属片、砂や土などの異物が傷口に入り込むことがあり、これらは細菌感染や破傷風の原因となるため注意が必要です。とくに、土壌や錆びた金属片などに傷口が触れた場合、破傷風菌が傷口から侵入し、重篤な感染症を引き起こすリスクが高まります。

口唇裂創が発生する状況によっては、くちびるだけでなく歯や歯ぐきなどの損傷がみられる場合があります。また、口腔周囲には多くの神経が存在するため、顔面神経が損傷された場合には、顔の筋肉が動かなくなる「顔面神経麻痺」が生じる可能性もあります。いずれの場合も、すみやかに医療機関を受診し、適切な処置を受けることが重要です。

口唇裂創の検査・診断

口唇裂創の診断では、まず視診を行い、傷の深さや範囲、出血の程度、感染の有無などをくわしく確認します。また、口腔内や周辺の組織の状態も確認し、口唇裂創が発生した状況や原因について聞き取ります。

出血が多い場合や他の外傷が疑われる場合には、、血圧や脈拍数、呼吸数、体温などの測定や、必要に応じて血液検査を実施して、全身の状態を確認します。骨折や内臓損傷の有無を確認するために、レントゲン撮影やCT検査、MRI検査などの画像検査が実施される場合もあります。

口唇以外の損傷がみられるケースでは、脳神経外科や耳鼻咽喉科、眼科などの専門医と連携し、よりくわしい診察が進められます。

口唇裂創の治療

口唇裂創の治療は、段階的に進められます。

まず最初に、傷口やその周囲を流水で洗浄し、消毒を行います。出血をしている場合、軽度な出血であれば、ガーゼや清潔な布を用いて傷口を圧迫して止血を行うことが一般的です。出血が多い場合には、出血箇所を特定して血管を糸で結ぶ処置(血管結紮)が行われることがあります。

傷口に砂や土、ガラス片などの異物が入り込んでいる場合は、感染や破傷風を防ぐために異物を徹底的に取り除き、その後、傷口を縫い合わせる処置が行われます。
ただし、感染が疑われる場合や、傷口を閉じるのが難しいと判断された場合は、傷口を開いたままにして治す方法が選択されることもあります。傷口を縫い合わせたあとは、状態に応じて適切な保護材を使用し、傷口を覆います。

術後は、感染予防のために抗菌薬を服用します。とくに、傷口に土が付着していた場合には、破傷風を予防するためのワクチン(破傷風トキソイド)や薬剤(破傷風ヒト免疫グロブリン)の投与が検討されます。

口唇裂創は見た目への影響も大きいため、機能面での回復だけでなく、見た目の回復も重視した丁寧な治療が行われます。適切な治療を早期に行うことで、感染を防ぎ、機能面と見た目の両方をできる限り元の状態に回復させることが可能です。

口唇裂創になりやすい人・予防の方法

口唇裂創は、転倒やスポーツ中の事故などが原因となるため、転倒しやすい高齢者や子ども、スポーツをしている方は、口唇裂創になるリスクが高まります。

たとえば、選手同士が激しく接触するようなコンタクトスポーツ(サッカー、バスケットボール、ラグビー、ボクシングなど)、転倒リスクが高く顔や口周りに強い衝撃を受ける機会が多いスポーツ(スノーボード、自転車競技、スケートなど)は注意が必要です。

口唇裂創を予防するためには、スポーツやアクティビティを行う際に、スポーツ用のマウスガードや適切な防具(ヘルメット、フェイスガードなど)を使用することが推奨されます。

転倒リスクの高い子どもや高齢者は、日常生活の中で転倒を防ぐ工夫をすることが大切です。床に物を置かない、滑りやすい靴を避ける、階段や段差に注意するなど、安全対策を徹底することで、口唇裂創の発生リスクを減らすことができます。

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