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顔面外傷
木下 裕貴

監修歯科医師
木下 裕貴(歯科医師)

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北海道大学歯学部卒業。同大学病院にて研修医修了。札幌市内の歯科医院にて副院長・院長を経験。2023年より道内の医療法人の副理事長へ就任。専門はマウスピース矯正だが、一般歯科から歯列矯正・インプラントまで幅広い診療科目に対応できることが強み。『日本床矯正研究会』会員であり小児の矯正にも積極的に取り組んでいる。

歯肉線維腫症の概要

歯肉線維腫症は歯肉が過度に増殖して肥大化するまれな疾患です。 
遺伝によって生じるものは「遺伝性歯肉線維腫症」、原因不明のものは「特発性歯肉線維腫症」と呼ばれています。
そのほか、特定の薬剤の副作用として起こる「薬物性歯肉増殖症」も知られています。
遺伝性歯肉線維腫症は若年期に発症するケースが多いことが知られており、乳歯や永久歯が生えてくる時期に診断されるケースが多いです。

症状は進行性の歯肉肥大で、通常は炎症や痛みの症状はありません。自然治癒することはなく、治療が必要な疾患であり、放置すると審美面や口腔内の機能面でさまざまな問題が生じます。

歯肉の肥大は上下の顎全体に及ぶことがあり、その結果、歯が正常に萌出する(生えてくる)のをさまたげたり、発音や咀嚼(食べ物を噛むこと)に影響を与えたり、唇を閉じることが困難になったりすることがあります。
遺伝性歯肉線維腫症には精神発達遅滞、多毛症、てんかんのいずれかの症状が伴うケースがあることが知られています。

診断には、口腔内のパノラマレントゲンやCTなどの画像検査、病理検査などが用いられます。
治療の主な方法は歯肉切除術ですが、再発のリスクが高いことが知られており、手術後も長期にわたる定期的な口腔内の衛生管理が不可欠になります。

歯肉線維腫症の管理において、口腔内の衛生環境の維持やプラーク(歯垢)のコントロールは重要で、症状の進行を遅らせて再発のリスクを低減させる作用があります。
そのため、患者とその家族への適切な指導と定期的な歯科検診が推奨されます。

歯肉線維腫症の原因

歯肉線維腫症では、何らかの刺激により歯肉の有棘細胞層が肥厚し、歯肉固有層のコラーゲン線維束に増殖が起きますが、詳しい発症メカニズムについては完全には解明されていません。

主な発症原因として、家族性の遺伝または薬剤の副作用などが知られていますが、原因不明の特発性のものもあります。
遺伝性歯肉線維腫症では、歯の萌出時期に発症や悪化が見られることから、歯の萌出に伴う刺激も発症の引き金になる可能性が指摘されています。

薬物性や突発性の歯肉線維腫症では、Ca拮抗剤や免疫抑制剤などの薬剤、性腺刺激ホルモン、甲状腺ホルモン、エストロゲンなどの内分泌の異常が誘因している可能性が指摘されています。

いずれの病態でも、口腔衛生状態の悪化が歯肉の炎症を引き起こし、増殖をより顕著にする傾向があります。

歯肉線維腫症の前兆や初期症状について

歯肉線維腫症の初期症状は、口腔内全体の歯肉に増殖が見られることから始まります。
歯肉の増殖は対照的に起こり、炎症を伴わないことが一般的です。
歯肉は徐々に肥大化し、ピンク色で硬く、表面は平滑になります。

症状が進行すると、歯肉の増殖は上下の顎全体に広がることもあり、さまざまな機能障害を引き起こします。
歯の正常な萌出がさまたげられ、発音や咀嚼に困難が生じます。
さらに、唇を完全に閉じることが難しくなる場合もあります。

歯肉線維腫症では、顎の骨歯の形自体には異常が起こりません。
しかし、歯肉の著しい肥大により、口腔内の審美的な外観が大きく変化することがあり、患者の心理的負担になることがあります。

歯肉線維腫症の検査・診断

歯肉線維腫症の診断には、血液検査や画像検査、病理検査など複数の検査方法が用いられます。
血液検査では、内分泌ホルモンなどのマーカー値を調べます。
画像検査では、主にパノラマレントゲンやCT検査が使用され、歯肉の線維化の程度だけでなく、歯や顎の骨の状態も詳細に観察します。

確定診断には病理検査が不可欠で、肥大した歯肉の一部を採取し、顕微鏡下で詳細に観察します。
病理検査によって、歯肉に炎症所見がなく、線維の増殖が認められた場合に歯肉線維腫症と診断されます。

これらの検査を総合的に評価することで、歯肉線維腫症の正確な診断と適切な治療計画の立案が可能となります。

歯肉線維腫症の治療

歯肉線維腫症の主な治療法は歯肉切除術です。
歯肉切除術では、肥大化した歯肉を切除して正常な形態に戻すことを目指します。

しかし、歯肉線維腫症は再発しやすい特徴があるため、手術後の管理が重要です。
手術後は、再発や症状の悪化を防ぐために、適切な口腔衛生管理をおこないます。
歯科医師は患者に対して正しいブラッシング方法を指導して、プラークコントロールの重要性を説明します。
また、定期的な歯科検診を受けることで、再発の早期発見や口腔内の状態を継続的に観察できます。
これらの取り組みにより、長期的な症状の管理と口腔機能の維持が可能になります。

歯肉線維腫症になりやすい人・予防の方法

歯肉線維腫症の原因が遺伝性であるケースでは、主に家族歴のある子どもがなりやすいです。
それ以外ではCa拮抗剤や免疫抑制剤などの特定の薬剤を使用している人、性腺刺激ホルモン、甲状腺ホルモン、エストロゲンなどの内分泌異常がある人も発症する可能性があります。

現時点では、歯肉線維腫症を完全に予防する方法は明らかになっていません。
しかし、口腔内の衛生環境を良好に保つことは、発症リスクの低下につながると同時に、発症後の症状の抑制にもつながるため、重要だとされています。
歯科医師の指示のもと、日々の丁寧なブラッシングや歯間清掃などの口腔ケアを習慣化することが推奨されます。

また、定期的な歯科検診を受けることで、歯肉線維腫症の早期発見や適切な管理が可能となります。
これらの取り組みにより、虫歯や歯周病などの二次的な問題も予防し、症状の悪化をできる限り抑えることができると考えられています。

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