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肉芽腫性口唇炎
井林雄太

監修医師
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

肉芽腫性口唇炎の概要

肉芽腫性口唇炎は、口唇の持続的な腫脹を特徴とする慢性の炎症性疾患であり、寛解と悪化を繰り返すことが多い病気です。

肉芽腫性口唇炎の原因

肉芽腫性口唇炎の原因として、いくつかの要因が考えられていますが、明確に特定されていない場合も多いです。

1. 歯の病気や感染
むし歯、歯周炎、根の先に生じる病巣など、歯に関連する感染が原因になることがあります。特に自覚症状のない歯周炎や根の先の病巣が関与することが多く、細菌による刺激で口唇に腫れが生じる可能性があります。

2. アレルギー
食べ物、歯磨き粉やうがい薬、金属製の歯科材料などに対するアレルギーが関与する場合があります。アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー体質を持つ人に発症しやすいという報告もあります。

3. 遺伝的な要因
Melkersson-Rosenthal症候群という遺伝的疾患との関連が指摘されています。この疾患では、口唇の腫れ、顔面神経麻痺、舌のひだ状の変化が特徴的です。

4. Crohn病
消化器疾患であるCrohn病との関連性が報告されており、特に子どもにおいては、Crohn病の一部として肉芽腫性口唇炎が現れる場合があります。

5. その他の要因
自律神経の異常による血流障害や、特定の細菌(Mycobacterium paratuberculosis)との関連性も示唆されていますが、はっきりした証拠はまだありません。

肉芽腫性口唇炎の前兆や初期症状について

前兆として考えられる症状

口唇の違和感や刺激感
塩分の多い食べ物を摂取した後に、口唇に軽い刺激を覚えることがあります。

口唇の腫れ
口唇が突然腫れ、短期間で消えることがありますが、再発を繰り返すうちに腫れが持続することもあります。

口唇周囲の赤み(紅斑)
腫れた部分の周囲が赤くなることがあり、顎や頬に広がる場合もあります。

硬結(かたまり)
腫れた部分に硬いしこりが触れることがあります。

その他の症状
稀に、顔の一部が動かしにくくなる顔面神経麻痺や、舌にひだ状の変化が現れることがあります。これらの症状が同時に起こる場合、メルカーソン・ローゼンタール症候群(MRS)という病気の可能性が考えられます。

初期症状

持続的な口唇の腫れ
腫れは口唇全体または一部に現れ、再発を繰り返すことがあります。

無痛性の腫れ
痛みを伴わないことが多いですが、まれに押すと痛む場合もあります。

片側または両側の腫れ
腫れは片側だけに現れる場合もあれば、両側に広がることもあります。

発赤を伴う腫れ
腫れた部分が赤くなることがあります。

口唇周囲の赤みや腫れ
口唇の周囲に赤みが広がる場合があります。

消化器症状
腫れと同時に下痢などの消化器症状が現れることがあり、特に炎症性腸疾患(Crohn病)との関連が疑われる場合があります。

その他の症状
顔面神経麻痺や舌の異常が見られる場合もありますが、これらは時間の経過とともに現れることが多いです。

これらの症状が現れた際は皮膚科を受診しましょう。

肉芽腫性口唇炎の検査・診断

肉芽腫性口唇炎は、主に口唇の腫れを特徴とする病気です。正確な診断を行うためには、以下の検査や診断手順が重要です。

臨床検査

血液検査

一般的な血液検査では異常が見られないことが多いですが、炎症の有無を確認するためにCRPを測定することがあります。

アレルギー検査

金属パッチテスト
金属アレルギーが疑われる場合に実施し、アレルギー原因物質を特定します。ただし、陽性であっても必ずしも症状改善に直結するわけではありません。
特異的IgE検査
食物アレルギーの可能性を調べますが、陰性の場合もあります。

その他の検査

ACE(アンジオテンシン変換酵素)やリゾチーム
サルコイドーシスとの鑑別のために測定することがありますが、特異的ではありません。
オルソパントモグラフィー(歯のX線撮影)
歯性病巣感染(歯歯や根尖病巣)が疑われる場合に実施します。
胸部CT検査
サルコイドーシスとの鑑別のために行いますが、異常がないことが多いです。

病理組織学的検査

皮膚生検
診断確定のため、口唇の病変部から組織を採取して顕微鏡で調べます。

組織所見

  • 非乾酪性類上皮細胞肉芽腫(特徴的な所見)
  • リンパ球や形質細胞の浸潤

初期病変では真皮の浮腫と血管拡張、慢性化すると線維化が見られることがあります。

鑑別診断

以下の疾患との区別が必要です。

  • 開口部形質細胞症: 主に口唇や歯肉に紅斑やびらんを伴います。
  • Crohn病: 腹痛や下痢などの消化器症状を伴う場合があります。
  • サルコイドーシス: 胸部CTで肺門部リンパ節の腫れを確認します。
  • 血管神経性浮腫: 家族歴やC4値の低下を確認します。

その他、接触皮膚炎や固定薬疹も考慮します。

診断の進め方

  • 問診
    症状の経過、アレルギー歴、既往歴、消化器症状の有無を確認します。
  • 視診
    口唇の腫れ、紅斑、硬結を観察します。齲歯や金属製の歯科修復物の有無も確認します。
  • 臨床検査
    必要に応じて血液検査、アレルギー検査、画像検査を行います。
  • 病理組織学的検査
    皮膚生検により、病理組織所見を確認します。
  • 歯科的検査
    歯性病巣感染が疑われる場合は歯科口腔外科で検査を行います。
  • 消化器内科への紹介
    消化器症状がある場合、Crohn病の可能性を考慮し、専門医に相談します。

重要なポイント

歯性病巣感染の確認は不可欠です。必要に応じて歯科医と連携しましょう。
消化器症状がある場合は、炎症性腸疾患(特にCrohn病)の検査が必要です。
早期診断と治療が重要です。腫れや紅斑などの初期症状を見逃さず、適切な診断を受けることが推奨されます。

これらの検査と診断手順を基に、肉芽腫性口唇炎の正確な診断と治療を行うことが重要です。

肉芽腫性口唇炎の治療

肉芽腫性口唇炎は、さまざまな原因が関与する病気であり、治療の基本方針として原因の特定と除去が重要です。

治療の基本方針

原因の特定と除去

歯性病巣感染(虫歯や歯周炎など)が原因の場合、歯科治療が優先されます。
食物アレルギーや金属アレルギーが疑われる場合は、原因物質を避けることを試みます。
消化器症状がある場合は、炎症性腸疾患(特にCrohn病)の可能性を考慮し、消化器内科での精査を行います。

薬物療法

外用薬

ステロイド軟膏
炎症を抑える効果がありますが、効果は限定的な場合があります。口唇の特性を考慮し、弱めの薬を使用します。
タクロリムス軟膏
ステロイドが効かない場合に使用されることがあります。

内服薬

抗アレルギー薬(トラニラスト)
アレルギーの疑いがある場合に用いられます。口唇の腫れを和らげる効果が期待されます。
ステロイド内服薬
他の治療法が効かない場合に使用されますが、副作用に注意が必要です。
抗菌薬
歯性病巣感染が疑われる場合に使用します。

注射薬

ステロイド局所注射
病変部に直接注射することで高い効果が期待されます。

その他の治療薬

インフリキシマブ
Crohn病が関連している場合に使用される薬です。
ジアフェニルスルホン(DDS)
難治例に対してステロイドと併用することがあります。

治療の実際

歯科治療

虫歯や歯周炎が見つかった場合、治療を行うことで口唇の症状が改善することがあります。根管治療が必要になることもあります。

金属アレルギーの治療

パッチテストで陽性反応が出た場合は、該当する金属を取り除くことを検討します。

複数の治療法の併用

難治性の場合、薬物療法を複数組み合わせることで効果が期待されます。

肉芽腫性口唇炎になりやすい人・予防の方法

肉芽腫性口唇炎になりやすい人

肉芽腫性口唇炎は、以下のような特徴を持つ人に発症しやすいと考えられています。

  • アトピー素因がある人
  • アレルギー体質の人
  • 遺伝的素因がある人
  • 口腔内の感染がある人
  • 消化器系疾患がある人
  • 若年者から中高年の人

肉芽腫性口唇炎の予防法

肉芽腫性口唇炎を完全に予防する方法は確立されていませんが、以下の点を心がけることで発症リスクを減らす可能性があります。

口腔内環境を整える

  • 定期的に歯科検診を受け、虫歯や歯周病を早期に治療する。
  • 丁寧な歯磨きで、口腔内の細菌を減らす。
  • 必要に応じて歯周病専門医の診断や治療を受ける。

アレルギー対策

  • 食物アレルギーや金属アレルギーが疑われる場合は、アレルギー検査を受ける。
  • 検査で判明したアレルゲンを避ける。ただし、金属除去が症状改善に必ずしもつながらない場合もあるため、慎重に行う。

消化器系の健康を管理する

  • 下痢などの消化器症状がある場合は、速やかに医療機関を受診する。
  • バランスの取れた食事を心がけ、消化器の健康を保つ。

生活習慣を整える

  • ストレスを軽減し、免疫力低下を防ぐ。
  • 十分な睡眠をとり、体調を整える。

早期発見・早期治療

  • 口唇に腫れや違和感を感じた場合、早めに皮膚科や歯科口腔外科を受診する。
  • 症状が長引いたり悪化したりした場合は、専門医に相談する。

自己判断を避ける
市販薬の使用や症状の放置は避け、必ず医師の診断を受けることが重要です。

参考文献

  • 阿達直子ほか:臨皮,49:901—903,1995
  • 千葉万智子ほか:日皮会誌,99:883—889,1989

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