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口唇裂
江崎 聖美

監修医師
江崎 聖美(医師)

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山梨大学卒業。昭和大学藤が丘病院 形成外科、群馬県立小児医療センター 形成外科、聖マリア病院 形成外科、山梨県立中央病院 形成外科などで経歴を積む。現在は昭和大学病院 形成外科に勤務。日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会実施医師。

口唇裂の概要

口唇裂は、生まれつき上の唇に「裂」という裂け目がある先天性の病気です。表面の皮膚だけでなく唇を動かす筋肉も繋がっていないため、唇のかたちが悪いという見た目の問題に加えて、赤ちゃんがミルクや母乳をうまく飲めないことも問題です。今回説明するのは唇のみがつながっていない「口唇裂」ですが、口唇、口蓋、歯ぐきの形態異常には以下のものがあります。
唇顎裂
唇と歯茎がつながっていない
軟口蓋裂
のどちんこのみがつながっていない
口蓋裂
上顎が繋がっていない
唇顎口蓋裂
唇と上顎の両方ともがつながっていない

これらの病気は、顔面の形態異常のなかで一番多く、400〜600人の赤ちゃんに1人ほどが持って生まれてくるといわれています。

口唇裂の原因

口唇裂は、お腹にいるときに赤ちゃんの顔がうまく作られないために起こります。通常、赤ちゃんの唇と鼻は妊娠4~7週に作られます。顔のもとになる突起上の組織が左右別々に作られて、真ん中で癒合することで顔が形成されるところ、うまく癒合せずに中央部に割れ目が出来てしまうと口唇裂になります。

口唇裂の原因は、遺伝的要因環境的要因の両方が関わるとされていますが、明らかになっていない部分も多いとされています。

現在いわれている原因の例を、以下に紹介します。

  • 振動
  • 感染症
  • 酸素濃度
  • 母親の出産年齢
  • 妊娠中における薬の服用
  • ある種のビタミンの過不足
  • 遺伝的要因(家族や親戚に多い)

ただし、一人ひとりの原因を細かく解明するのは不可能なため、妊娠中の行動について、母親が自分を責める必要はありません。

口唇裂の前兆や初期症状について

ほかの先天異常がなく口唇裂のみを持つ場合、赤ちゃんはお腹の中で元気に成長します。その場合、口唇裂は妊娠中の腹部エコーで赤ちゃんの顔を見たときにわかるケースが多く見られます。
しかし、裂の程度や病院のエコー機械によっては、生まれるまで口唇裂が分からないケースも珍しくありません。
口唇裂がわかった場合、出産をする産科から、状況に応じて小児科形成外科口腔外科へ紹介するのが一般的です。妊娠中に口唇裂がわかった場合は、妊婦さんには出産後の哺乳方法や治療の流れ、受けられる公的補助やカウンセリングなどについての説明を行います。
多くの場合、変形は口唇にとどまらず鼻にもおよび、整容面上の問題が生じることに加え、哺乳や言語などに影響がでます。

口唇裂の検査・診断

口唇裂の細かな検査・診断は、赤ちゃんが生まれてから行います。生まれる前には分からなかった口の中の裂け目が見つかるケースもあるため、慎重に診察します。
口唇裂の種類は、裂け目の状態によって以下に分類されます。
完全口唇裂
鼻の穴までの部位が裂けている
不完全口唇裂
鼻までは裂が達していない
痕跡唇裂完全には裂けておらず、皮膚表面の陥没のみがある
正中唇裂
裂が真ん中にある

また、片側のみが裂けている、両側が裂けているなどによっても口唇裂は分類されます。概要に記述したような他の口唇、口蓋、顎の異常がないかも確認します。

先天異常がある方は、ほかの先天異常を合併している確率が高いため、心臓や手足などに異常がないかも合わせて確認します。

口唇裂の治療

口唇裂の治療は、赤ちゃんの頃に行うのが一般的です。しかし、状況によっては成長後や、唇以外の手術が必要になるケースもあるため、順番に説明します。

赤ちゃんの頃に行う治療

口唇裂のおもな治療は、生後3ヶ月以上経過して体重が6kgを超えた頃に全身麻酔で行う手術です。片側のみが裂けている場合は1回の手術で済みますが、両側が裂けている場合は2回に分けて手術をするケースもあります。
手術までは、裂け目が広がらないようにテープを貼って患部を保護します。両側が裂けている「両側唇裂」の場合、テーピングには割れ目と割れ目の間にある「中間顎」が前に出てこないように抑える役割もあります。
口唇裂に行う手術は「口唇形成術」という、口の裂け目を縫い合わせるものです。表面の皮膚だけでなく、唇の周りを取り囲む筋肉(口輪筋)もつなぎ、正常な口の動きが出来るようにしていきます。

傷痕をできるだけ目立たないようにするため、手術ではジグザグに縫う、唇の吊り上がりを考慮する、縫ったところに段差ができないようにするなどの配慮が必要です。手術に必要な時間の目安は、裂が片側のみなら2時間ほど、両側なら3時間ほどです。
また、口唇裂の患者さんは、鼻の変形もあるケースが多く、場合によっては鼻の手術を同時にすることもあります。

鼻の変形がある場合、鼻の形をきれいに維持するために「レティナ」という装置を手術後に使用する患者さんもいます。
症状によりますが、抜糸までは一週間ほどで、入院期間は7日~10日ほどです。術後は早くから通常のミルク・母乳の摂取を再開し、通常の日常生活に慣れていきます。唇の割れ目が無くなることで、手術後は以前よりも哺乳がスムーズになるでしょう。

成長してからの修正手術

赤ちゃんの頃の手術で治療が完了するケースもありますが、鼻や唇のゆがみや傷痕が残り、成長するにつれ目立つようになる場合は「修正手術」が必要です。唇の修正手術をする時期は、ゆがみの程度によって、幼稚園入園前、小学校入学前、自分の顔への関心が強まる思春期などさまざまです。
鼻の修正手術は、鼻の軟骨の成長が落ち着いた10~12歳ごろにする場合と、顔の発達がほぼ終了する14~18歳頃にする場合とがあります。
修正手術は局所麻酔の場合と、全身麻酔の場合の両方があり、人によって必要な治療はさまざまです。

口唇裂に併発しやすい口蓋裂の手術

なお、口唇裂に加えて「口蓋裂」もある場合は、1歳以降、体重7kgほどを目安に顎の裂をつなげる「口蓋形成術」の手術を行います。
口蓋裂もある場合、通常あるはずの口蓋が裂けているため口と鼻が直接つながっています。そのため、以下のような問題が生じます。
発音障害
空気が漏れてうまく発音できないため起こる
誤嚥性肺炎
食べ物やミルクが口から鼻へ漏れるため起こる

中耳炎
口と鼻がつながっているため、汚染による炎症を起こしやすいため起こる

歯並びの悪さ

不十分な顎の形成や、手術の痕によって噛み合わせが悪くなる
口蓋裂を併発している場合は形成外科、口腔外科に加えて、耳鼻科や言語聴覚士などが連携したチームが、総合的な成長を見守ります。
口唇裂・口蓋裂のどちらも、治療に時間がかかることはあっても手術で治る病気です。医療機関と連携して適切な治療を受ければ、その後も元気に成長します。気になることは医師に相談し、長い目で治療することが大切です。

口唇裂になりやすい人・予防の方法

口唇裂の原因はさまざまな原因の積み重ねで起こるため、原因不明のものが7割を占めます。もともと日本人は、口唇裂や口唇口蓋裂が多い人種といわれています。口唇裂の確実な予防法は、現在の医学では確立されていません。しかし、今までの調査から、遺伝的要素はあるとされており、家族に口唇裂や口蓋裂の人がいると、口唇裂になりやすいといえます。

両親のいずれかに口唇裂・口蓋裂がある場合、赤ちゃんに口唇裂があらわれる確率は2〜4%です。また、口唇裂のお母さんから生まれた男の子に、口唇口蓋裂(唇と上顎が両方裂けている状態)が多い傾向にあります。口唇裂、口唇口蓋裂は男性に多く、口蓋裂は女性に多いとされています。
また、口唇裂・口蓋裂などを合わせた調査ですが、遺伝的要因に加え、以下に当てはまる場合も口唇裂・口蓋裂が起こりやすいといわれています。

  • 風疹の罹患
  • 妊娠中の喫煙
  • 妊娠中の飲酒
  • 母体の栄養失調
  • 大量の放射線被ばく
  • 母体の精神的ストレス
  • 出産時年齢が30歳以上
  • 催奇形性のある薬の使用
  • 風疹などのウイルス感染
  • お父さんの喫煙による受動喫煙
  • 妊娠初期に胎児に異常な力がかかった

解明されていない部分があるため完全な予防は難しいのですが、妊娠中の飲酒や喫煙などは控え、妊婦検診をしっかりと受けるようにしましょう。


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