監修歯科医師:
木下 裕貴(歯科医師)
根尖性歯周炎の概要
根尖性歯周炎は、根尖という歯の根っこの部分に炎症が起きる病気です。
炎症をきたすことで歯の根尖部に膿が溜まり、激しい痛みや歯肉の腫れ、歯茎から膿が出ることがあります。
根尖性歯周炎の原因となる細菌が他の組織に入り込むと、ほかのさまざまな病気につながることがあります。
副鼻腔の上顎洞(じょうがくどう)に侵入すると歯性上顎洞炎になり副鼻腔炎の症状が現れ、細菌が皮膚に入り込むと顔が赤く腫れ発熱することがある蜂窩織炎(ほうかしきえん)の原因となります。
飲み込む力(嚥下機能)が低下した高齢者や脳梗塞などの脳血管障害がある人では、誤嚥によって細菌が肺に侵入し、誤嚥性肺炎を引き起こす場合もあります。
細菌が血管に入り込んだ場合には敗血症や動脈硬化症、感染性心内膜炎などの危険な状態に陥る可能性があります。
根尖性歯周炎は自然治癒が難しいため、炎症の原因である歯の内部の感染原因を取り除く必要があります。
治療を行っても症状が改善されないときには抜歯が選択されることもあり、早期の発見が非常に重要です。
根尖性歯周炎の原因
根尖性歯周炎の主な原因はむし歯(う歯)や歯の治療における細菌の侵入です。
むし歯になった歯の表面は、細菌が放出する酸によって溶かされます。
治療せずに放置されると、根管という歯の根っこの管の部分まで細菌が侵入し、歯髄と呼ばれる歯の神経が含まれる部分に炎症(歯髄炎)が起こります。
歯髄炎をきたした歯は、神経が機能しなくなることで痛みの症状が消えることもありますが、炎症は進行している状態のため、根尖性歯周炎を引き起こす原因となります。
また転倒や交通事故、歯の食いしばりや歯ぎしりなどの生活習慣は、歯冠(歯の上側の部分)が割れる歯冠破折の原因となり、治療で歯の内部に細菌が入り込むことで、根尖性歯周炎をきたす場合もあり注意が必要です。
根尖性歯周炎の前兆や初期症状について
根尖性歯周炎の初期症状では、噛んだ時の痛みはありますが、冷たいものや熱いものがしみることはありません。歯の根元を押したときに痛みが出ます。
症状が進行するにつれて、痛みは強くなりますが、さらに進行すると歯の内側の神経が入っている歯髄という部分が壊死するため、痛みの症状は消えていきます。
根尖性歯周炎の検査・診断
根尖性歯周炎の検査では、X線検査やCT検査などの画像検査、打診、温度診・電気刺激診が行われます。
X線検査
根尖性歯周炎のX線検査は口内から観察できない歯根部分の評価をするために、歯科デンタル撮影や歯科パノラマ撮影が行われます。
歯科デンタル撮影は、フィルムを口の中に固定した状態でX線を当てて歯の写真を撮る検査であり、歯科パノラマ撮影は機械に乗せた顔の周りを装置が回転しながら、口内の状態を1枚の写真で撮影する検査です。
歯科デンタル撮影の写真は画質が良く、歯の根尖部の炎症の観察に優れています。
歯科パノラマ撮影は口内の状態や顎関節から顎の先までを一度に撮影できるため、病変の広がりや他の場所の病変の有無を確認することができます。
CT検査
根尖性歯周炎のCT検査は、X線を顔に向けて360°方向から当てて撮影します。
CT検査は歯や骨の撮影に優れているため、口内の位置関係を把握することに有効です。
CT検査は手術方法を検討する際に行われることが多く、治療の成功率の向上に効果があることが報告されています。
打診
根尖性歯周炎の診断では、歯の表面をたたく打診が行われることもあります。
打診には垂直打診と水平打診があり、歯の上側からたたく垂直打診により痛みが出る場合には根尖性歯周炎の可能性が疑われます。
温度診・歯髄電気診
温度診や歯髄電気診は、痛みの有無を確認する検査です。
温度診は冷たいものや熱いものを歯に押し当てることで、歯髄電気診は微弱な電気を歯に流すことで痛みの有無を確認します。
神経が機能している歯髄炎では痛みが現われますが、根尖性歯周炎を患っている場合は神経が機能していない場合が多く、温度や電気による痛みを感じなくなります。
根尖性歯周炎の治療
根尖性歯周炎の治療では、感染している歯の病変を取り除く根管治療が第一選択ですが、根管治療で病気が改善されない場合には感染した箇所を外科的に切除する歯根端切除術が検討されます。
根尖性歯周炎の治療では、肉眼で見えないような小さな病変や複雑な根管の形状を把握することに優れているマイクロスコープというカメラを使用することがあります。
治療が困難な根尖性歯周炎では、周りの歯への影響を考慮して抜歯が検討されます。
根管治療
根尖性歯周炎の治療では、根管治療が第一選択です。
根管治療は細菌に感染している箇所の除去を行います。
感染した歯髄の除去や薬剤を用いた根管の消毒、器具を使用した根管内の清掃を行い、根管充填剤という薬剤を歯の内部に充填します。
唾液に含まれる細菌が治療している歯に侵入することで再感染を引き起こす可能性があるため、細菌感染を防ぐ目的でラバーダムというゴム製のシートを治療する歯に装着して治療を行います。
根管治療後に根尖性歯周炎を引き起こした場合は再治療を行います。
根管充填剤の除去、再度根管の清掃や消毒をして根管充填剤を歯の内部に充填します。
また一度根管治療をした歯が再度むし歯になった場合には根管治療を再度行うことを検討します。
外科的歯内療法
根管治療で根尖性歯周炎が改善できない場合は、外科的歯内療法が行われます。
外科的歯内療法の代表的な治療法には、歯根端切除術と意図的再植術があります。
歯根端切除術は、歯肉を切開して歯の根っこに溜まった膿の箇所を切除し感染源を除去する治療法です。器具の扱いや目視で確認しやすい前歯や小臼歯までの前から5番目までの歯が適応です。
意図的再植術は治療する歯を抜き、感染している箇所の除去や根管に根管充填剤の充填を行い、もう一度元の場所に歯を戻す治療法です。根管治療や歯根端切除術ができない場合や歯周組織の状態が良好な場合が適応であり、歯根端切除術の治療が難しい6番目以降の歯で治療が検討されます。
抜歯
根管治療や歯根端切除術で改善が見られない場合あるいは治療が難しい場合は、抜歯が行われます。
抜歯をすると感染の原因となる根管を取り除くため、根尖性歯周炎の完治が可能です。
根管治療で感染の再発が続く場合や、膿が広がり他の歯に悪影響をもたらす場合に抜歯が検討されます。
根尖性歯周炎になりやすい人・予防の方法
根尖性歯周炎の大半は、むし歯の進行によって引き起こされます。
むし歯を予防するために日頃から丁寧な歯磨きやフロスの使用を行い、定期的に歯科医院を受診することが効果的です。
また喫煙はむし歯を発症するリスクを高めることに加え、免疫力の低下を引き起こし細菌の増殖につながります。
喫煙を控えて、規則正しい生活を心がけましょう。
参考文献