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松澤 宗範

監修医師
松澤 宗範(青山メディカルクリニック)

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2014年3月 近畿大学医学部医学科卒業
2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医
2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局
2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科
2017年4月 横浜市立市民病院形成外科
2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科
2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職
2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長
2020年5月 青山メディカルクリニック 開業
所属学会:日本形成外科学会・日本抗加齢医学会・日本アンチエイジング外科学会・日本医学脱毛学会

口蓋裂の概要

口蓋裂は、生まれつき口の上部(口蓋)に裂け目ができる状態です。口蓋裂には、唇にも裂け目がある場合と、唇には裂け目がない場合があります。
唇にも裂け目がある場合
これを「口唇口蓋裂」または「唇顎口蓋裂」と呼びます。

唇に裂け目がない場合
これを単に「口蓋裂」と呼ぶこともあります。口蓋裂が硬い部分に広がる場合は「硬軟口蓋裂」、柔らかい部分に広がる場合は「軟口蓋裂」と呼ばれます。
このように、口蓋裂にはいくつかの種類がありますが、いずれも生まれつきに起こるものです。

口蓋裂の原因

口蓋裂の原因はまだ完全には解明されていませんが、多くの場合、遺伝的な要因と環境的な要因が組み合わさって起こると考えられています。

遺伝的要因

口蓋裂は、家族内で複数の人に見られることがあり、遺伝が関係していると考えられています。
口蓋裂に関係する遺伝子として、MTHFR、MSX1、TBX22、IRF6、PVRL1、FOXC2、TGFA、TGFB3、RARAなどがあります。

環境的要因

妊娠中に母親が特定の薬を使ったり、喫煙やアルコールを摂取したり、貧血になったり、ウイルスに感染したり、多くの放射線を浴びたりすることが、胎児に口蓋裂が発生するリスクを高めることがあります。

これらの遺伝的要因と環境的要因が重なり合って、一定の影響が加わると、口蓋裂や口唇裂が発生すると考えられています。この考え方を「多因子しきい説」と呼びます。

口蓋裂の前兆や初期症状について

口蓋裂は生まれつきの病気なので、前兆や初期症状を感じることはありません。
ただし、妊娠中の超音波検査で、口唇裂や口蓋裂が疑われることがあります。
口蓋裂は見つけにくいこともありますが、もし出生前に診断された場合は、産科医が治療方法について説明してくれます。

口蓋裂の検査・診断

口蓋裂の診断は、通常、医師が見た目で確認することで簡単に行うことができます。
しかし、痕跡唇裂(こうせきしんれつ)や粘膜下口蓋裂、先天性鼻咽腔閉鎖不全症などの似た症状がある病気は、見ただけでは診断が難しいことがあります。

診断方法

視診
医師が口唇や口蓋を目で見て、裂け目があるかどうか、またその程度を確認します。例えば、口唇裂がある場合、鼻の傾きや裂け目がどこまで広がっているかを確認します。
口蓋裂の場合は、裂け目の形がV字型かU字型かも調べます。粘膜下口蓋裂の場合、特定の特徴(例: 口蓋垂裂や軟口蓋の菲薄化、硬口蓋後端の骨の欠損)を確認します。
触診
医師が指で口唇や口蓋を触り、骨や柔らかい組織の状態を確かめます。これにより、視診だけではわからない部分を詳しく調べることができます。
画像検査
X線やCTを使って、顎裂の状態や歯の数を確認します。特に、顎の骨を移植する手術の前には、これらの検査が重要です。
鼻咽腔ファイバースコープ
内視鏡を使って、鼻から喉の奥までの構造を観察し、発声や飲み込みの際の動きをチェックします。
聴覚印象
医師が患者さんの声を聞いて、発音がはっきりしているかや、鼻から空気が漏れていないかを確認します。
吹き戻しと鼻息鏡
患者さんに息を吹かせて、鼻から空気が漏れるかどうかを調べる簡単な方法です。
セファロレントゲン
顔や顎のX線写真を撮って、上下の顎の位置関係を確認します。これにより、噛み合わせの問題があるかどうかを判断します。
ナゾメータ
鼻と口からの空気の流れを測定する装置で、鼻咽腔閉鎖機能を詳しく評価します。
その他
赤ちゃんの場合、ミルクを飲む時の様子を観察して、ミルクが鼻から漏れていないかなどを確認します。

出生前診断

最近では、妊婦健診時に行われる胎児超音波検査で、口蓋裂が見つかることも増えています。
特に、口唇裂は超音波検査で発見しやすいですが、口蓋裂は見つけにくいことが多いです。
しかし、出生前に診断がつけば、治療計画について事前に説明を受けることができるため、ご家族の不安を減らし、出産後の治療をスムーズに始めることが期待されます。

口蓋裂の治療

口蓋裂の治療は、生まれた直後から成人になるまでの長い期間にわたって行われます。
患者さんの成長に合わせて、適切なタイミングで適切な治療を行う「一貫治療」が重要です。
多くの病院では、形成外科、口腔外科、矯正歯科、言語治療、耳鼻科、小児科など、複数の診療科が協力して治療を行います。

治療の流れ

出生直後

合併症のチェック
口蓋裂には、心臓病や耳の異常など、ほかの病気が一緒に起こることがあります。
まずは全身を調べて、合併症がないか確認します。
哺乳指導
口蓋裂があるとミルクを飲むのが難しいことがあります。
特別な乳首やホッツ床(Hotz' plate)というプレートを使って、飲みやすくするサポートをします。

生後3~6ヶ月頃

口唇形成術
口唇裂の手術を行い、唇の裂け目を閉じます。
体重が5~6 kg以上になった頃に手術を行うことが多い傾向です。

1歳~1歳半頃

口蓋形成術
口蓋裂の手術を行い、口の中の裂け目を閉じます。
この手術は、言葉を正しく発音できるようにするために重要です。

3歳~5歳頃

言語治療
口蓋裂があると発音に問題が出ることがあります。
言葉の発音を練習するために、言語治療を行います。

6歳頃~

歯科矯正治療
歯並びや噛み合わせの問題を改善するために、歯の矯正治療を行います。
顎裂部への骨移植: 顎の骨に欠損がある場合、その部分に骨を移植する手術を行います。

その他

精神的ケア
口蓋裂の治療は長期間にわたるため、患者さんの心のサポートも大切です。
医師や言語治療士、心理士がサポートします。
定期的な診察
治療が終わった後も、成長に伴う問題を防ぐため、定期的に診察を受けることが必要です。

治療のポイント

早期発見・早期治療
口蓋裂は早く見つけて、早く治療を始めることが大切です。
チーム医療
複数の専門医が協力して治療に当たることが重要です。
個別の治療
患者さん一人ひとりに合った治療法を選ぶことが必要です。

口蓋裂は、適切な治療を受けることで、健康な人と変わらない生活を送ることができます。

口蓋裂になりやすい人・予防の方法

口蓋裂は生まれつきの病気なので、特定の「なりやすい人」がいるわけではありません。
また、口蓋裂を完全に予防する方法もまだ見つかっていません。
しかし、妊娠中の母親が健康的な生活を心がけることで、リスクを少し減らせるかもしれません。

予防のためにできること

  • 妊娠中は、喫煙や飲酒を控える。
  • バランスの良い食事を心がけ、特に葉酸などの栄養をしっかり摂る。
  • 医師の指示に従い、適切な時期に予防接種を受ける。
  • もし薬を飲んでいる場合は、必ず医師に相談する。

これらのことを守ることで、赤ちゃんの健康を守る手助けになるかもしれません。

関連する病気

  • 唇裂(Cleft Lip)
  • 耳管機能障害・中耳炎
  • ピエール・ロバン症候群(Pierre Robin Sequence)
  • 遺伝性疾患
  • 鼻咽腔閉鎖不全

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