

監修医師:
若菜 康弘(医師)
目次 -INDEX-
歯ぎしりの概要
歯ぎしりは上下の歯を擦り合わせる・噛み締める行為が、歯の非機能的な接触を生じさせている状態です。顎の力は強力で歯に強い負荷が加わるため、歯の欠損・顎関節症・歯周病の悪化などに注意を払わなければなりません。専門的な言葉で「ブラキシズム」「口腔悪習慣」という別名で呼ばれることもあります。
歯科医師会の報告によれば、日本国民の約7割が歯ぎしりをしていると推計されています。自分は大丈夫だと思っていても気づいていないだけかもしれません。実際にほとんどの歯ぎしりが睡眠中に起こるため、家族や友人に指摘されることで気づくのがほとんどになります。
歯ぎしりは放置すると筋肉を通じて全身に不調を波及させる可能性があります。症状に違和感を感じたら速やかに歯科医院などの医療機関を受診しましょう。歯ぎしりくらいなら大丈夫と思わず、事前に注意すべき前兆を把握しておくことが大切なのです。
歯ぎしりの原因
歯ぎしりの明確な原因は未だに解明されていません。ストレスや歯並び、噛み合わせなどさまざまな原因が追求されてきました。新しい研究では睡眠中の大脳上位中枢の興奮に由来するものだという見解も出ています。
原因は解明されていませんが、発症や悪化にも関係する代表的な要因としてストレスや飲酒・喫煙が挙げられます。子どもの場合は、成長に伴う噛み合わせ不良など一時的に生じている可能性があるので注意しながら経過を観察してください。
ストレスと歯ぎしり
ストレスを感じると膝や腕・足などを揺するような行動を無意識にとっていないでしょうか。これらの揺する動きはストレスを発散させる行為になると言われています。同様に歯ぎしりもストレスを発散させる行為として生じることがあります。
飲酒・喫煙と歯ぎしり
飲酒や喫煙は、自律神経に影響を与え睡眠の質を低下させることが知られています。歯ぎしりは浅い眠りのレム睡眠時に生じやすいのが特徴になります。飲酒や喫煙によって、睡眠が浅くなっている人は注意しなければなりません。
歯ぎしりのリスク
歯ぎしりを放置することでよく生じるリスクは大きく分けて4つになります。そのリスクは歯や歯茎のみに限局されません。少し離れた部位の頭痛や肩こりなどの原因にもなるのです。
- 歯の欠損
- 顎関節症
- 歯周病
- 頭痛・肩こり
症状の進行度によっては炎症が生じ、痛みを感じる場合があります。さらに症状を放置すると筋肉や関節、神経を通して痛みや緊張などが波及し、体の至るところに問題が生じます。
歯ぎしりの前兆や初期症状について
歯ぎしりの多くは睡眠時に無意識下で起こっています(睡眠時ブラキシズム)。中には覚醒時に生じる歯ぎしり(覚醒時ブラキシズム)もあり、睡眠時と異なり意識的・無意識的の両方で歯ぎしりが生じます。気がづいたら「カチカチと歯を鳴らしていた」「歯を食いしばっていた」ということを経験したことがある人も多いのではないでしょうか。
歯ぎしりの種類
歯ぎしりには大きく分けて3つの種類があります。適切に予防・治療するためには、まずはどの種類の歯ぎしりが生じているかを理解することが大事だと言えます。
グラインディング
上下の歯を擦り合わせてギリギリ・ギシギシと音を立てるのがグラインディングです。歯ぎしりの中で最も多い種類になります。
クレンチング
上下の歯を強く噛み締めてしまうのがクレンチングです。食いしばりとも呼ばれています。歯ぎしりの一種ですが音を出しません。覚醒時に多いのが特徴で、歯や歯茎、骨などの歯周組織に大きな負荷を与えてしまいます。
タッピング
上下の歯をカスタネットのように噛み合わせて、カチカチという音を出すのがタッピングです。大きな負荷がかからないため、歯やその周囲への影響は大きくありません。歯ぎしりの中では珍しい種類になります。
歯ぎしりの前兆
歯ぎしりの前兆を確認するためのポイントは3つになります。
- 歯がすり減っている、欠けている
- 顎の関節が痛い
- 原因不明の頭痛や肩こりがある
セルフチェックで異常を感じたら口腔外科に対応している歯科医院を受診しましょう。
歯ぎしりの初期症状
歯ぎしりによって生じる初期症状はほとんどありません。蓄積されたダメージで歯の欠損や顎関節症に痛みが生じてはじめて気づきます。家族や友人から歯ぎしりを指摘されたことがある人はストレスや飲酒・喫煙に注意しましょう。
歯ぎしりの検査・診断
歯ぎしりはPSG(睡眠ポリグラフィー)と呼ばれる睡眠生理学的検査によって調べることができます。睡眠時の脳波・眼電図・心電図・呼吸・酸素飽和度・体動・筋電図などを記録することで客観的な評価が可能になります。
検査は自宅でも使用可能な携帯型装置で実施可能です。歯科医師が検査結果に加えて臨床所見を合わせ診断が下されます。
歯ぎしりの臨床診断基準
- 患者が睡眠時のグラインディング音やクレンチングを申告あるいは自覚している。
- 以下の兆候のうち、1つまたはそれ以上があてはまる。
- 歯の異常な摩耗が認められる。
- 起床時に咀嚼筋の不快感、疲労、痛みや顎の引っかかりがある。
- 強く随意かみしめをした際に咬筋の肥大が認められる。
- 別の睡眠関連疾患、医学的あるいは神経学的障害、薬物療法または物質使用による障害などではうまく説明できない顎筋(咀嚼筋)の活動がある。
歯ぎしりの治療
歯ぎしりの原因は一人ひとり異なるため、万能に抑制できる単一の治療法はありません。ストレスマネジメントをはじめ、マウスピース・薬物療法などの中から最も適した治療が選択されます。
ストレス改善
ストレスが原因で歯ぎしりが生じているのであれば、ストレスマネジメントが対処法の一つになります。ストレス・飲酒・喫煙などが睡眠に悪影響を与えていると疑われた場合に対象となる治療法です。
スプリント療法
スプリント療法はマウスピースを用いた歯ぎしりの治療法です。就寝中に着用することで、歯ぎしりによる歯の擦り減りを防ぐ効果が期待できます。また、短期的に歯ぎしりを抑制する効果が報告されています。
歯ぎしりは歯列矯正によって必ず改善されるわけではありませんが、歯並びや噛み合わせの悪さを改善することで歯の健康を保持しやすくします。歯ぎしりからくる影響を防ぐには、まず歯へのダメージを最小限にすることが重要です。
薬物療法
筋弛緩剤であるジアゼパムやメトカルバモール、高血圧治療薬のα2受容体アゴニストであるクロニジン・ベンゾジアゼピン系のクロナゼパムなどには、歯ぎしりを抑制する効果があると示されています。ただし、薬物依存・副作用などの観点から長期服用ができません。
フィードバック療法
専用機器が睡眠中の筋活動を監視し、歯ぎしりに関する活動を感知した場合に電気・振動・音などの物理刺激を与えて強制的に抑制する治療法です。その刺激強度は微弱な刺激を与えるに留まるため、睡眠への悪影響はほとんどありません。
歯ぎしりになりやすい人・予防の方法
歯ぎしりの多くは、無意識下に起こっているため自分だけで気づくのが難しいと言われています。周りに指摘してくれる人がいないのであれば定期的にセルフチェックする必要があります。歯ぎしりしているかもと思ったら歯の蓄積ダメージを知るためにも一度、歯科医院に相談してみましょう。
歯ぎしりになりやすい人
歯ぎしりをしている人には、精神的特徴と身体的特徴が一部で見られます。
精神的特徴としてはストレスを抱えやすい性格であることが挙げられます。ストレスを抱えやすい人は、精神不安や多忙をきっかけに歯ぎしりが発症・悪化する可能性があるので注意しましょう。
身体的特徴としては姿勢不良が挙げられます。姿勢不良になると身体の至るところが緊張状態となり常に力が入った状態になります。その緊張が咬筋などに波及することで、歯ぎしりを生じさせやすくするのです。
歯ぎしりの予防方法
歯ぎしりを予防する方法としては、日々感じるストレスを軽減し睡眠の質を保つことを心がけましょう。既に歯に欠損などが生じている場合は、マウスピースを使用するのが効果的と言えます。歯と歯の摩耗を軽減することで症状の悪化を抑えます。
参考文献




