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吉川 博昭

監修医師
吉川 博昭(医師)

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医学博士。日本ペインクリニック学会専門医、日本麻酔科学会専門医・指導医。研究分野は、整形外科疾患の痛みに関する予防器具の開発・監修、産業医学とメンタルヘルス、痛みに関する診療全般。

口唇ヘルペスの概要

口唇ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)による感染症です。主な症状は、唇や口周囲に小水疱(水ぶくれ)ができ、発赤、痛みを伴います。HSV-1は初感染後、三叉神経節に潜伏し、免疫力が低下すると再発します。乳幼児期での初感染の多くは無症状で済むようですが、成人で初感染が起こると重症化することが少なくないようです。感染経路は直接的な接触によるほか、タオルや食器などを介した間接的な感染も見られます。再感染の誘因は、精神的ストレスや睡眠不足、疲労、外傷、手術など身体機能の低下時や、紫外線曝露などです。治療は症状の重症度により軟膏薬や内服薬、点滴静注薬となります。完治が難しく、再発を繰り返すため、適切な対処が重要です。

ヘルペス属とは

ヘルペス属(Herpesviridae)は、DNAウイスルの一種で、人に感染し、さまざまな疾患を引き起こすウイルス群です。宿主細胞に感染後、潜伏感染(持続感染)します。一度感染すると三叉神経節などに潜伏するため完治は難しく、免疫力が低下したタイミングで再活性化して症状の再発を繰り返します。 3つの亜科に分類されます。

1) アルファ(α)ヘルペスウイルス亜科

  • 単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1):口唇ヘルペス、眼感染症の原因
  • 単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2):性器ヘルペスの原因
  • 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV):水痘、帯状疱疹の原因

2) ベータ(β)ヘルペスウイルス亜科

  • ヒトサイトメガロウイルス(HCMV):巨細胞封入体症の原因
  • ヒトヘルペスウイスル6型、7型(HHV-6、HHV-7):突発性発疹の原因

3) ガンマ(γ)ヘルペスウイルス亜科

  • エプスタイン・バールウイルス(EBV):伝染性単核球症の原因
  • カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV):カポジ肉腫の原因

口唇ヘルペスの原因

HSV-1の初感染や、体力の低下、紫外線暴露、月経前、免疫抑制剤の使用などで免疫機能が低下したときに、三叉神経節に潜伏感染していたHSV-1が再活性化して発症します。さらに、直接的な接触(唾液や病変部分の接触、キス、性行為など)や間接的な接触(発症者が使用したタオルや食器)などでも感染することがあります。

口唇ヘルペスの前兆や初期症状について

唇やその周囲にピリピリ感、ヒリヒリ感、違和感、痒み、熱感などが数分から数時間程度出現します。また発熱や頭痛、全身の痛みを伴うこともあります。前兆症状が出現してから半日程度で、唇周辺に赤みや腫脹が出現します。1〜3日後に同部位に小水疱(水ぶくれ)が出現します。初感染時は広範囲に5mm程度の水疱が多数できる傾向があり、再発時では局所的に小水疱が形成されるようです。水疱ができる前の発赤・腫脹時にはすでに感染力があり、接触するとほかの身体部位や他人に感染するリスクがあるため、可能な限り早期に対処することが重要とされます。

口唇ヘルペスの経過

前駆症状から1〜3日後に、発赤・腫脹部位に小水疱が形成され発症します。初感染時は広範囲に5mm程度の水疱が多数形成される傾向があります。再発時には、局所的に小水疱が形成されます。水疱期には、水疱が破れ痂皮(瘡蓋)が形成されます。この時期が最も感染力が強くなります。治癒期は痂皮が落屑してから約7〜10日で完治します。 口唇ヘルペスの前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、皮膚科です。口唇ヘルペスはウイルス感染による口唇の疾患であり、皮膚科で診断と治療が行われています。

口唇ヘルペスの検査・診断

1) 問診

過去に口唇ヘルペスの発症歴の有無と発症の契機(ストレスや紫外線曝露、風邪などの有無)を確認します。

2) 臨床症状の確認

水疱や痂皮の確認を行います。

3) 血清診断

患者さんの血清中に存在するHSV-1に対する抗体を検出する方法です。以下のような検査方法があります。注意点としては、HSV-1とHSV-2の間には抗原交差性があるため、型別判定には注意が必要です。また、特に最初の可能性予測や感染様式の把握に役立ちますが、初期病変の診断には病原体診断の方が有用です。
  • 中和試験(NT法):血清と一定量の感染性ウイルスを混合し、抗体による感染性の消失や感染力の低下を観察する方法
  • 酵素免疫測定法(ELISA):固相化した抗原または抗体と患者血清中の抗体または抗原を反応させ、酵素で標識した抗グロブリン抗体を用いて検出する方法
  • 蛍光抗体法:細胞や組織内に存在する抗原(ウイルス)と蛍光色素で標識した抗体を結合させ、蛍光顕微鏡で観察する方法
  • gG ELISA:ウイルスのエンベロープに存在するglycoprotein Gの抗体を測定する検査法で、HSV-1とHSV-2の型別判定が可能

4) ウイルス分離培養検査

水疱や痂皮からPCR検査やウイルス分離培養検査を行い、ウイルスやウイルス抗原を直接証明します。

口唇ヘルペスの鑑別診断

口唇炎:細菌感染、アレルギー、ストレス、栄養不足などが原因であり、水疱形成はなされず、症状は一過性であり再発は認めません。

感染症法における取り扱い

口唇ヘルペスは届け出義務がありませんが、性器ヘルペスウイルス感染症は定点報告対象の5類感染症であり、指定された医療機関(全国約1,000ヵ所の泌尿器科、産婦人科などの性感染症定点医療機関)は、月毎に保健所に届け出る義務があります。

口唇ヘルペスの治療

さまざまな剤形の抗ヘルペスウイルス薬があります。

1) 塗り薬

  • アシクロビル軟膏
  • ビダラビン軟膏

2) 内服薬

  • アシクロビル:1回200mgを1日5回、通常5日間内服します。症状初期に服用することで高い効果が見込めます。
  • バラシクロビル:1回500mgを1日2回、通常5日間内服します。アシクロビルよりも服薬回数が少ないことが特徴です。
  • ファムシクロビル:1回250mgを1日3回、通常7日間内服します。発病初期に近いほど効果が期待できるので、皮疹出現後5日以内に投与を開始することが望ましいです。

3) 点滴静注薬

初感染で重症化した場合や免疫不全患者さんへ使用されます。消化を介さずに血中に直接投与されるため、速やかな効果が期待されます。
  • アシクロビル:成人は1回5mg/kg、1日3回8時間毎、通常7日間投与します。
  • バラシクロビル:成人及び40kg以上の小児は1回500mg、1日2回、通常5日間投与します。
*10kg未満と10kg以上の小児の場合は体重換算がさらに細かく決められており、投与量に注意を要す

PIT (Patient Initiated Therapy)とは

PITは、再発性の単純疱疹に対して患者さんが初期症状(チクチク・ピリピリとした違和感)を感じた段階で、事前に処方された抗ウイルス剤を自分で服用する治療法です。これにより、症状が重症化する前にウイルスの増殖を抑えることができます。日本ではファムシクロビルとアメナメビルが承認されています。

口唇ヘルペスと季節の影響

季節の変化や特定の季節に再発しやすいことが知られています。
  • 夏季の影響 紫外線量が多く、また紫外線は免疫機能を低下させるためウイルスが再活性化しやすくなります。
  • 季節の変わり目 寒暖差や気圧の変化により体調を崩しやすく、免疫力が低下しやすいようです。
  • 冬季の影響 冬は風邪やインフルエンザなどの感染症が流行しやすく、これらの病気に罹患すると免疫力が低下します。

口唇ヘルペスになりやすい人・予防の方法

なりやすい人は、以下に記載した人です。
  • 免疫力が低下している人(過労や睡眠不足、ステロイド剤などの免疫抑制剤使用)
  • 感染症の年齢が高い人
  • ストレス耐性が低い人
  • 紫外線への曝露が多い人
  • 月経前の女性

予防には以下の方法があります。
  • 十分な休養とストレス管理
  • 適度な睡眠時間を確保し、肉体的・精神的な緊張をほぐし、趣味や運動などで心身のバランスを保ちます。
  • 規則正しい生活リズム
  • 規則正しい食事と睡眠リズムを守ります。
  • 免疫力の維持
  • 栄養バランスの良い食事(栄養不足は免疫力が低下します)をとります。
  • 衛生管理
  • 発症時には患部には触れず、触れた場合は手洗いを徹底する・キスや性行為を控え食器やタオルの共有は避けます。
  • 紫外線対策
  • 唇の日焼けを防ぐために、リップクリームや日焼け止めを使用することが推奨されます。

栄養バランスの良い食事とは

主食、主菜、副菜をそろえた栄養バランスの良い食事です。また、ビタミンCやビタミンEが豊富な果物や野菜、亜鉛を多く含む牡蠣やレバー、豆類、必須アミノ酸(リジンが多く含まれる豆腐や納豆、肉、魚、卵)などを意識的に摂取することが推奨されています。

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