

監修医師:
佐藤 浩樹(医師)
目次 -INDEX-
鎖骨下動脈盗血症候群の概要
鎖骨下動脈盗血症候群(Subclavian Steal Syndrome、SSS)は、鎖骨下動脈の付け根(起始部)が狭くなったり閉塞したりすることで、血流の異常が起こる病気です。
鎖骨下動脈は左右に1本ずつある大きな血管で、大動脈から枝分かれして左右それぞれの腕へ向かいますが、途中で脳へ向かう椎骨動脈が1本ずつ枝分かれしています。左右の鎖骨下動脈から出た椎骨動脈は頸部で合流して脳底動脈という一本の動脈になったのち、再び左右に別れた状態で脳へ血液を提供します。
このとき、一方の鎖骨下動脈で椎骨動脈が枝分かれするよりも手前、つまり心臓に近い範囲に狭窄(きょうさく、血管内腔が狭くなること)や閉塞があると、腕に必要十分な量の血液が送れなくなります。それを補うために、反対側(詰まっていない方)の鎖骨下動脈から枝分かれした椎骨動脈を通って脳へ送られている血液が、詰まっている方の椎骨動脈を逆流して腕の方へ流れてしまいます。この現象を盗血現象と呼びます。
これにより、今度は脳への血流が不足し、めまいや失神、視覚障害などの脳虚血症状が現れます。また、腕の血流不足による疲労感や痛みも特徴的です。1961年にFisher医師によって初めて報告されました。
この病気は、通常左側の鎖骨下動脈で発生しやすく、脳の後ろ側(椎骨脳底動脈系)に血流障害をもたらします。右側の鎖骨下動脈で血流障害があるときは、左から右への盗血現象も起こります。なお鎖骨下動脈が大動脈から枝分かれする部分は左右で少し形状が異なっています。
鎖骨下動脈盗血症候群は、脳卒中や心血管疾患のリスクを高める動脈硬化性疾患の一つとしても重要視されています。
鎖骨下動脈盗血症候群の原因
最も多い原因は動脈硬化による鎖骨下動脈の狭窄や閉塞です。動脈硬化は高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満などの生活習慣病が主な要因となります。
その他の原因としては以下が挙げられます。
大動脈炎症候群
自己免疫が関与する血管炎で若年女性に多いことで知られる高安動脈炎により、鎖骨下動脈が狭窄することがあります。このほかにも橋本病・バセドウ病といった自己免疫性甲状腺疾患に大動脈炎症候群が合併することもあります。これらも若年の女性に多い疾患です。
血栓症や動脈解離
血管内に血の塊ができる血栓や、血管壁が裂ける動脈解離も原因になることがあります。血栓症は血液凝固機能に問題を起こす疾患が誘引となることがあり、動脈解離は高血圧や動脈硬化によって起こることがあります。
外傷や放射線治療後の血管障害
血管が外傷によって物理的に傷ついたり、がん治療の一環として実施した放射線治療の影響で血管が硬く狭くなることがあります。
先天的な血管奇形
まれに生まれつきの血管の異常が原因となることもあります。
鎖骨下動脈の狭窄や閉塞が椎骨動脈の起始部よりも近位(心臓側)にある場合に限り、反対側の椎骨動脈から血液が逆流して患側の腕に血液を送ることで盗血現象が起こります。
鎖骨下動脈盗血症候群の前兆や初期症状について
症状は主に脳虚血症状と腕の血流不足によるものに分かれます。
脳虚血症状(椎骨脳底動脈系の血流不足)
- めまい、ふらつき
- 失神や意識消失
- 頭痛
- 視覚異常(かすみ目、視野欠損など)
- バランス障害や手足のしびれ
これらは特に腕を動かしたときに悪化しやすいのが特徴です。腕の運動により血液需要が増えるため、脳への血流がさらに不足するからです。
上肢の症状(腕の血流不足)
- 疲労感やだるさ
- 運動時の痛み
- 冷感やしびれ
- 筋力低下
- 腕の血圧の左右差(通常20~30mmHg以上)
腕の血圧差は診断の重要な手がかりで、50mmHg以上の差がある場合は約4割が症状を示すとされています。
受診すべき診療科
こうした症状が現れた場合は、循環器内科を受診しましょう。
鎖骨下動脈盗血症候群の検査・診断
診断は症状の聴取と身体診察に加え、以下の検査を組み合わせて行います。
血圧測定
両腕で血圧を測り、左右差を確認します。15mmHg以上の差があれば疑いが強まります。
ドップラー超音波検査
血流の方向や速度をリアルタイムで測定し、椎骨動脈の血流が逆流しているかどうかを調べます。非侵襲的なので、繰り返し検査が可能です。
磁気共鳴血管造影(MRA)
血管の狭窄や閉塞を描出し、血流の逆流を間接的に評価することができます。
CT血管造影(CTA)
造影剤を用いて血管の形態を詳細に評価します。MRAと比較して解像度が高く、手術やカテーテル治療の計画にも役立ちます。
血管造影(カテーテル検査)
最も正確に血管の状態を評価できる侵襲的検査で、治療と同時に行うこともあります。
その他の検査
脳血流検査(SPECT)、心臓超音波検査、神経学的検査なども症状に応じて実施されます。
鎖骨下動脈盗血症候群の治療
治療は症状の有無や重症度、患者さんの全身状態に応じて決定されます。
保存的治療
生活習慣の改善
高血圧、糖尿病、脂質異常症の管理、禁煙、適度な運動、バランスのよい食事など動脈硬化の進行を抑えることが重要です。
薬物療法
抗血小板薬(アスピリンなど)や抗凝固薬を用いて血栓形成を防ぎます。血圧や脂質のコントロールも行います。
栄養療法
ビタミンC、B6、B12の補給やコエンザイムQ10の使用が報告されていますが、これらは補助的なもので、主治医の指導のもとで行う必要があります。
外科的・血管内治療
血管内治療(カテーテル治療)
狭窄部にカテーテルを挿入し、バルーンで血管を広げたりステントを留置したりすることで、狭窄の解除を図ります。通常は局所麻酔で行われることが多く身体への負担が少ないため、多くの場合に第一選択となります。
外科的バイパス手術
血管内治療が困難な場合や再狭窄の際に行われます。狭窄部を迂回する血管を新たに作る手術です。治療の目的は、脳虚血症状や腕の血流不足症状の改善、脳梗塞などの重篤な合併症の予防です。
鎖骨下動脈盗血症候群になりやすい人・予防の方法
なりやすい人は以下のような方たちです。
- 高齢者
動脈硬化が進みやすいためリスクが高まります。 - 生活習慣病のある方
高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満などが動脈硬化の原因となります。 - 喫煙者
動脈硬化のリスクが大幅に上昇します。 - 自己免疫疾患を持つ若年女性
高安動脈炎などの血管炎が原因となることがあります。 - その他
過去に血管外傷や放射線治療を受けた方
予防の方法
- 生活習慣の改善
食事の見直し、適度な運動、禁煙、ストレス管理を心がけましょう。 - 定期的な健康診断
血圧や血糖、脂質のチェックを行い、異常があれば早めに対処します。 - 早期受診
めまいや腕の疲労感、血圧差などの症状があれば早めに医療機関を受診し、適切な検査を受けることが重要です。
関連する病気
- 動脈硬化症
- 大動脈炎(高安動脈炎など)
- 胸郭出口症候群(TOS)
- 大動脈解離
- 鎖骨下動脈瘤/大動脈瘤
- 心臓血管手術後(CABG、バイパス術)




