

監修医師:
鎌田 百合(医師)
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ホジキンリンパ腫の概要
ホジキンリンパ腫(Hodgkinlymphoma;HL)は、主にReed-Sternberg細胞やHodgkin細胞という特徴的な腫瘍細胞を認める悪性リンパ腫の一種です。全悪性リンパ腫のうち日本では8~10%程度、欧米では30%程度を占めています。
発症年齢には特徴があり、20~30歳代の若年層と50~60歳代の中高年層にピークを持つ2峰性分布を示します。
病理学的には、下記の2種類に分類されます。
- 古典的ホジキンリンパ腫(CHL):全体の95%を占める
- 結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫(NLPHL):まれなタイプ
CHLはさらに、結節硬化型、混合細胞型、リンパ球豊富型、リンパ球減少型に分かれます。
主な初発症状は無痛性のリンパ節腫脹であり、頸部リンパ節に好発します。発熱、体重減少、盗汗といったB症状といわれる全身症状がみられることもあります。
ホジキンリンパ腫の原因
ホジキンリンパ腫の原因は完全には解明されていませんが、B細胞の異常が関与していることが明らかとなっています。
また、近年ではEpstein-Barrウイルス(EBV)感染との関連が指摘されており、特に混合細胞型CHLでの関連が強いとされています。
遺伝的要素や免疫抑制状態(例:臓器移植後、HIV感染者)もリスク因子と考えられています。
ホジキンリンパ腫の前兆や初期症状について
ホジキンリンパ腫の初期には、次のような症状がみられます。
無痛性のリンパ節腫脹
ホジキンリンパ腫の初期症状は、リンパ節の腫れです。特に頸部や鎖骨上窩のリンパ節が腫れることが多く、押しても痛みがないのが特徴です。腫れは徐々に大きくなることがあり、しこりのように触れます。
B症状
悪性リンパ腫でみられる以下のような全身症状を、B症状と呼びます。
- 原因不明の発熱(38度以上が続く)
- 寝汗(寝ている間に下着やシーツが濡れるほど)
- 意図しない体重減少(6ヶ月以内に体重の10%以上)
これらの症状は、腫瘍による全身性の炎症反応や免疫異常によって引き起こされると考えられています。
咳や呼吸困難
縦隔(胸の中心にある左右の肺に挟まれた空間)のリンパ節が大きく腫れて気管が圧迫されると、持続的な咳や、深呼吸時の胸の圧迫感、呼吸困難を自覚することがあります。特に、仰向けで寝たときに咳が強まる場合には注意が必要です。
そのほかの症状
全身症状として、以下のような症状が出現する場合もあります。
- 全身倦怠感(全身のだるさ、疲れやすい)
- 掻痒感(皮膚がむずがゆい、かきむしりたくなる)
これらは、リンパ腫細胞が産生するサイトカインや体内の免疫応答によると考えられています。
ホジキンリンパ腫は、血液内科が診断、治療を行います。しかし、首のリンパ節の腫れが初期症状の場合が多いため、最初に耳鼻咽喉科を受診する方も少なくありません。ホジキンリンパ腫が疑われる場合は、いずれかの診療科を受診し、医師の診察を受けましょう。
ホジキンリンパ腫の検査・診断
ホジキンリンパ腫が疑われる場合、以下のような検査を行います。
1)画像検査
造影CTやPET-CTによる病変の広がりの評価が行われます。PET-CTは診断、病期分類、治療効果判定に有用です。
病期分類にはAnnArbor分類が用いられ、Ⅰ・Ⅱ期を限局期、Ⅲ・Ⅳ期を進行期と区分します。
2)生検
確定診断には、リンパ節生検による病理組織学的診断が必要です。Hodgkin細胞(単核の大型細胞)やReed-Sternberg細胞(多角の大型細胞)がみられることで診断されます。また、細胞の表面マーカーを調べ、腫瘍細胞に特徴的なマーカーの有無を調べます。
3)血液検査
血液検査では、貧血、白血球増多、リンパ球減少、好酸球増多、血沈の上昇、CRP高値などがみられる場合があります。全身状態の評価のため、肝臓や腎臓の機能も調べます。
4)骨髄検査
骨の中にある、血液を作る組織である骨髄に病気が浸潤している場合もあります。この評価のために骨髄生検を行うこともあります。
ホジキンリンパ腫の治療
ホジキンリンパ腫は、適切な治療を行うことで高い寛解率が期待できる悪性リンパ腫です。治療方針は、病期(ステージ)によって大きく異なります。
限局期(ステージⅠ~Ⅱ)
限局期では、抗がん剤による化学療法に加えて、放射線治療を併用することで高い治療効果が得られます。代表的な化学療法のレジメンとしてABVD療法が使用されます。これは、ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジンの4種類の抗がん剤を組み合わせた治療法です。
通常、ABVD療法を2~4コース行い、治療の終了後に腫瘍のあった部位に対して放射線治療(30グレイ前後)を追加します。近年では、予後良好な因子を持たない場合には、より少ない化学療法(2コース)と20グレイ程度の放射線で十分な効果が得られるとの報告もあり、副作用を軽減する治療法の工夫も進んでいます。
進行期(ステージⅢ~Ⅳ)
進行期の患者さんに対してもABVD療法(6~8コース)が行われてきましたが、近年ではブレンツキシマブ ベドチン併用AVD療法(6コース)も標準治療の一つとされています。ブレンツキシマブベドチンは、CD30というホジキンリンパ腫の特徴的な分子を標的とした抗体薬物複合体です。
また、進行期症例では、ABVD療法の治療中に中間評価としてPET-CTを行うことで治療層別化をする場合もあります。
もし、PET-CTで腫瘍の代謝活性が残っているなど反応が不十分であれば、BEACOPP療法というより強力な化学療法への変更が検討されます。BEACOPP療法は副作用が強いため、反応がよい場合はABVD療法を継続し、無用な毒性を避ける方針が取られます。
治療が終了した後でも、画像上に腫瘤が残ることがありますが、PET-CTで代謝活性が認められなければ、完全寛解と判定します。
再発・難治性ホジキンリンパ腫
初回治療後に再発した場合や、初期治療に反応しない難治性のホジキンリンパ腫では、サルベージ(救援)療法が行われます。代表的なものにICE療法(イホスファミド、カルボプラチン、エトポシド)やESHAP療法(エトポシド、メチルプレドニゾロン、シタラビン、シスプラチン)などの強力な化学療法があります。
これらの治療で病勢を抑えた後に、自家末梢血幹細胞移植を行うことで寛解を目指す場合もあります。移植は身体への負担も大きいため、患者さんの全身状態や年齢を考慮して適応が判断されます。
また、近年では新しい治療薬も登場しています。ニボルマブは免疫チェックポイント阻害薬の一種で、従来の治療で効果が得られなかった患者さんに使用されます。ペムブロリズマブも同様に免疫チェックポイント阻害薬の一種で、難治例に用いられます。
これらの新規薬剤の登場により、難治例に対する選択肢が広がっています。
ホジキンリンパ腫になりやすい人・予防の方法
ホジキンリンパ腫の原因は不明ですが、一部の方では、以下のようなものが発症リスクとして挙げられます。
まず、EBVへの暴露が関与している場合があります。EBVは伝染性単核球症の原因ウイルスとして知られていますが、ホジキンリンパ腫との関連も報告されています。特に混合細胞型などの特定の病型でEBV陽性例が多いことが報告されています。
また、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者は免疫機能が低下していることから、ホジキンリンパ腫の発症リスクが高まるとされています。HIV陽性患者さんでは、より進行した病期で発見されることが多いとされています。
このほかに、まれではあるものの、家族内にホジキンリンパ腫の既往がある場合には発症リスクが高まることが疫学調査から示唆されています。
しかしながら、現時点ではこれらのリスク因子があっても、ホジキンリンパ腫を確実に防ぐ方法は確立されていません。生活習慣の改善やワクチン接種などによって予防できる疾患とは異なり、明確な予防法は存在しないのが現状です。
関連する病気
参考文献
- がん看護22巻2号(2017増刊)『ホジキンリンパ腫』
- リンパ腫診療の進歩『Hodgkinリンパ腫』永井宏和
- 検査と技術Vol.43No.102015年増刊号『Hodgkinリンパ腫』
- 耳喉頭頸93巻3号(2021年)『リンパ腫関連疾患』
- 日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン第3.1版(2024年版)




