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成人T細胞白血病・リンパ腫
鎌田 百合

監修医師
鎌田 百合(医師)

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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。

成人T細胞白血病・リンパ腫の概要

成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染によって発症する血液がんの一種です。
HTLV-1は、主として母乳などを介して感染し、数十年の潜伏期間を経た後に発症します。日本国内では特に九州地方や沖縄地方など、いわゆる<HTLV-1の高蔓延地域>でよくみられます。

ATLは患者さんごとに多彩な病態を示し、発熱や皮疹、リンパ節腫大、免疫低下など多様な症状が現れます。
HTLV-1に感染した患者さん全員が発症するわけではありません。無症状のままHTLV-1を持続的に保有している患者さんのことをHTLV-1キャリアといいます。ATLの発症リスクはHTLV-1キャリアのうち3~5%ほどとされており、キャリアのまま一生を終える方も多く存在します。
ATLは急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型に分類されます。特に急性型・リンパ腫型は急速に病状が進行するアグレッシブタイプであり、強力な治療が必要です。

成人T細胞白血病・リンパ腫の原因

ATLの原因はHTLV-1(humanT-lymphotropicvirustype1)への感染です。ウイルスは主に母子感染(母乳による)や性的接触、針刺し事故・輸血などの経路を通じて感染し、一度感染すると排除されずキャリアとしてウイルスを保有します。
感染者のすべてがATLを発症するわけではありませんが、ウイルス感染後に数十年の潜伏期を経て発症する可能性があります。潜伏期には特に自覚症状はなく、ある段階でリンパ球ががん化してATLとして顕在化すると考えられています。

成人T細胞白血病・リンパ腫の前兆や初期症状について

ATLの初期症状は多彩で、皮疹、リンパ節の軽度腫大、全身倦怠感、高カルシウム血症などがおもな症状です。ただし、初期ではほとんど自覚症状を伴わず、定期健康診断の血液検査などで発見されることもあります。

皮疹

皮膚に紅斑や丘疹など多彩な病変が出現することがあります。

リンパ節腫大

首、腋の下、鼠径部など複数箇所でリンパ節が腫れ、しこりとして触れることがあります。

発熱・倦怠感

ATL細胞増殖やサイトカイン放出による炎症反応で発熱が持続することがあります。

高カルシウム血症

血中カルシウム値が上昇し、口渇、悪心嘔吐、意識障害がみられることがあります。

免疫低下

ATLは免疫担当であるT細胞のがん化であるため、T細胞の機能不全によって細胞性免疫が低下します。すると、健康な方ではかからないような感染症にかかりやすくなったり、感染症が重症化しやすくなったりします。

上記のような症状が出現した場合、もしくは血液検査で異常リンパ球を指摘されたり、HTLV-1抗体陽性が判明した場合は、血液内科のある医療機関を受診しましょう。

成人T細胞白血病・リンパ腫の検査・診断

血液検査

血液検査では、白血球・リンパ球が増加しているか、核形態に異常リンパ球(ATL細胞)が混在していないかを精査します。異常リンパ球は、花細胞(flower cell)と呼ばれる切れ込みのある花びら状の核をもつ細胞が特徴的で、ATLの診断において重要です。
また、カルシウム、可溶性インターロイキン2抗体(sIL-2R)が高くなるのも特徴です。
HTLV-1感染の有無を確認するために、スクリーニング検査として粒子凝集(PA)法や酵素免疫測定(CLEIA法)などの抗体検査を行います。陽性の場合には確認試験としてウエスタンブロットなどを実施します。

フローサイトメトリー(FCM)

フローサイトメトリー法とは、レーザー光を用いて表面マーカーやサイズ、形状を測定し、細胞の特性を定量化する検査です。
ATL細胞は成熟T細胞であり、典型的には表面抗原としてCD4、CD25、CCR4発現しています。しかしまれにいずれかが陰性である場合もあるため、ほかの検査もあわせ総合的に診断します。
CCR4は治療標的となりうるため、発現の有無を確認するのは重要です。

HTLV-1サザンブロット解析

HTLV-1感染している患者さんがATL以外のT細胞性の腫瘍を発症している場合もあります。腫瘍の場合はクローン性に増殖するため、ATLの腫瘍細胞にHTLV-1ウイルスが単クローン性に組み込まれているかをHTLV-1サザンブロット解析によって確認する場合があります。

ただし現在は保険適用外です。より簡便なHTLV-1プロウイルス定量PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法でおおよその腫瘍量を評価することも行われています。

病理組織検査

リンパ節や皮膚などで腫瘍が疑われる場合には組織生検を行い、病理学的にATLと確定診断します。末梢血に異常リンパ球が出現しないリンパ腫型ATLではこの検査が重要となります。

成人T細胞白血病・リンパ腫の治療

病型分類と治療戦略

ATLは急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4病型に分けられ、急性型・リンパ腫型・予後不良因子を伴う慢性型をアグレッシブATLとして強力な治療を行います。一方、予後不良因子がない慢性型とくすぶり型をインドレントATLとし、大きな症状が出るまで無治療で経過観察します。

アグレッシブATLの治療

化学療法

VCAP-AMP-VECP療法(mLSG15)など、複数の薬剤を組み合わせた多剤併用化学療法が行われます。ただし、再発率が高いほか、副作用(骨髄抑制や感染症リスクなど)も強力で注意が必要です。

同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)

化学療法だけでは再発率が高いため、適応のある患者さんに対しては強力な化学療法で腫瘍を抑えた後、同種造血幹細胞移植が行われます。
同種造血幹細胞移植は、健常ドナーから提供された造血幹細胞を患者さんに移植する治療法です。移植により長期生存が得られる例もありますが、強力な治療のため治療関連死などのリスクも大きく、専門施設での慎重な適応判断が必須です。

分子標的治療薬

ヒト化抗CCR4モノクローナル抗体(モガムリズマブ)

ATL細胞表面に高発現するCCR4分子を標的とする抗体で、再発・難治性ATLや一部の初発ATLに適用されます。

抗CD30モノクローナル抗体薬物複合体(ブレンツキシマブベドチン)

CD30を高発現するATLに対して使用される場合があります。

そのほかの治療薬

免疫調整薬であるレナリドミドや、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬といった新規薬剤も開発され、患者さんの状態に応じて使用されています。

インドレントATLの治療

治療開始基準

明らかな臓器侵襲や血液検査異常(LDH上昇、カルシウム上昇など)を伴わない場合は、症状の増強やアグレッシブATLへの移行が確認されるまで無治療で経過観察を行います。

皮膚症状への治療

皮膚症状があればステロイド軟膏の塗布、紫外線照射などの治療が行われる場合もあります。

成人T細胞白血病・リンパ腫になりやすい人・予防の方法

HTLV-1感染により発症する疾患のため、感染地域にルーツを持つ方や母子感染が疑われる方はリスクが高いといえます。ただし、感染者全員がATLを発症するわけではなく、感染者の約3~5%が一生のうちにATLを発症すると考えられています。

HTLV-1への感染予防策としては、母子感染防止目的でHTLV-1保有母に対する母乳中止などが指導されています。
HTLV-1キャリアの場合は、必ずしも定期的に検査を受ける必要はありません。医師とよく相談し、必要に応じて定期的な血液検査(末梢血リンパ球・形態、HTLV-1プロウイルス量)を受けましょう。

くすぶり型や慢性型(インドレントATL)では定期的な検査を行いましょう。血液検査や身体診察でアグレッシブATLへの病型移行があれば治療が推奨されるため、病型移行のタイミングを見逃さないことが大切です。

関連する病気

  • ヒトT細胞白血病ウイルス-1型感染症
  • ヒトT細胞白血病ウイルス関連疾患
  • HTLV-1関連トリチウム腫
  • 急性白血病
  • 免疫不全
  • 皮膚症状

参考文献

  • IshitsukaK,TamuraK.HumanT-cellleukaemiavirustypeIandadultT-cellleukaemia–lymphoma.LancetOncol.2014;15(11):e517-e526.
  • TsukasakiK,HermineO,BazarbachiA,etal.Definition,PrognosticFactors,Treatment,andResponseCriteriaofAdultT-cellLeukemia–Lymphoma:AProposalfromanInternationalConsensusMeeting.JClinOncol.2009;27(3):453-459.
  • KatsuyaH,etal.Prognosticindexforacute-andlymphoma-typeadultT-cellleukemia/lymphoma.JClinOncol.2012;30(14):1635-1640.
  • キャリアについて | HTLV-1基礎知識Q&A

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