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下腿潰瘍・うっ滞性潰瘍の概要
上野 一樹

監修医師
上野 一樹(医師)

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和歌山県立医科大学卒業。神戸大学形成外科、和歌山県立医科大学形成外科
Chang Gung Memorial Hospital Craniofacial Center留学。医学博士。日本形成外科学会専門医。

下腿潰瘍・うっ滞性潰瘍の概要

下腿潰瘍とは、膝から下の足(下腿)にできる傷(潰瘍)のことです。
下腿潰瘍の多くは循環障害によるものです。その他の原因として、膠原病・褥瘡・悪性腫瘍・感染症・接触皮膚炎などが挙げられます。

また静脈の機能不全が原因で下腿に生じる潰瘍をうっ滞性潰瘍と呼びます。足の静脈には、血液を心臓に戻すポンプのような役割があります。この機能が低下すると血液が足に停滞し、皮膚や組織への負担となって、潰瘍ができやすくなります。

下腿潰瘍・うっ滞性潰瘍は自然に治りにくく、適切な治療を行わないと悪化し、感染症を引き起こす可能性があります。早期発見と適切な治療が重要です。

下腿潰瘍・うっ滞性潰瘍の原因

下腿潰瘍やうっ滞性潰瘍の主な原因は以下のとおりです。

  • 糖尿病や動脈硬化
  • 外傷や感染症
  • 静脈の血流障害(慢性静脈不全)
  • 長時間の立ち仕事や座り仕事

上記の原因について、一つひとつみていきましょう。

糖尿病や動脈硬化

糖尿病や動脈硬化によって血流が悪くなると、皮膚や組織の修復力が低下し、傷が治りにくくなります。特に糖尿病の患者さんは、軽い外傷が潰瘍へと進行しやすい傾向があります。

外傷や感染症

ちょっとした擦り傷や打撲がきっかけで潰瘍ができることもあります。特に血流が悪い方は傷の治癒が遅く、感染のリスクが高まります。

静脈の血流障害(慢性静脈不全)

下肢の静脈には血液を心臓に戻す役割があります。静脈の弁が機能しなくなると血液が逆流し、血液の滞りが発生します。うっ滞による皮膚の栄養不足が、潰瘍が形成される原因の一つです。

長時間の立ち仕事や座り仕事

長時間同じ姿勢を続けると、足の血流が滞りやすくなります。特に、デスクワークや接客業などで立ちっぱなし・座りっぱなしの方は注意が必要です。

下腿潰瘍・うっ滞性潰瘍の前兆や初期症状について

下腿潰瘍やうっ滞性潰瘍の前兆として、以下のような症状が現れることがあります。

  • 足のむくみが続く:特に夕方になると足がパンパンに腫れる
  • 皮膚の変色:足の皮膚が茶色っぽく変色したり、赤黒くなったりする
  • 皮膚のかゆみや乾燥:特に足首周辺にかゆみ・かさつきが出る
  • 足が重だるい・疲れやすい:長時間立っていると足が重く感じる
  • 小さな傷が治りにくい:軽い擦り傷がなかなか治らない

これらの症状を放置すると、皮膚が破れて潰瘍が発生する可能性が高くなります。違和感を覚えたら早めに医療機関を受診しましょう。
受診すべき診療科目は症状によって異なります。以下の表を参考にして受診することをおすすめします。

皮膚科 皮膚の変色やかゆみ、傷の治りが悪い場合
循環器内科 足のむくみや静脈瘤が気になる場合
形成外科 潰瘍がある場合や傷の治療が必要な場合
糖尿病内科 糖尿病を持っている方で傷が治りにくい場合

下腿潰瘍・うっ滞性潰瘍の検査・診断

診察では、以下のような検査が行われます。

視診・問診 皮膚の状態や生活習慣、基礎疾患の有無を確認する
血液検査・創部培養検査 糖尿病や全身状態、感染の有無を確認する
超音波検査(エコー) 静脈の血流をチェックする
血圧脈波検査(ABI) 両側の腕と足首の血圧を測定し、上腕の高い方の血圧と足首の血圧の比率を計算し、動脈硬化の程度を確認する
経皮的酸素分圧比(TcPO2) 皮膚表面の酸素供給状態を測定し、末梢血液循環の程度を確認する
皮膚潅流圧(SPP) 皮膚の血流状態を測定し、創傷治癒能力を評価する
造影CT検査 造影剤を用いて血管の状態を詳細に確認し、血管狭窄や閉塞の有無を診断する
下肢動脈造影検査(カテーテル検査) カテーテルを用いて直接血管内を観察し、血流障害の原因を特定する
画像検査(単純レントゲン撮影・CT・MRI) 骨や軟部組織の異常を確認し、感染や腫瘍などの合併症を診断する

これらの検査結果を総合的に判断し、下腿潰瘍の原因を特定したうえで、適切な治療法を選択します。

下腿潰瘍・うっ滞性潰瘍の治療

下腿潰瘍の主な治療として、以下の4つが挙げられます。

  • 創傷ケア
  • 薬物療法
  • 外科的治療
  • 圧迫療法

治療期間は、潰瘍の大きさや深さ、原因によって異なります。長い場合は数週間から数ヶ月かかることもあるため、根気強く治療を続けることが大切です。
続いて、それぞれの治療法を詳しく解説します。

 

創傷ケア

壊死した組織を取り除き、傷口を清潔に保つ処置を定期的に行うことも重要です。必要に応じて傷口からの感染を予防する薬剤を塗布します。また潰瘍の創面を保護し治癒を促進する特殊な創傷被覆材を使用することもあります。

 

薬物療法

感染症がある場合は抗菌薬、炎症を抑えるためにステロイド外用薬などを使用します。また、静脈の機能を改善する薬や、血流を改善する薬が用いられることもあります。

 

外科的治療

原因が静脈瘤であれば、静脈瘤を手術で取り除く治療を行います。うっ滞性潰瘍に対しては、血管内レーザー治療を行うこともあります。レーザー治療は、原因となる静脈を焼灼し、うっ滞を改善させるのが特徴です。
潰瘍の程度によっては、皮膚移植が必要になる場合もあります。

 

圧迫療法

弾性ストッキングや弾性包帯を使用して、足の静脈圧を下げ、血液のうっ滞を改善します。圧迫療法は、うっ滞性潰瘍の治療において大変重要な治療法の一つです。

下腿潰瘍・うっ滞性潰瘍になりやすい人・予防の方法

本章では、下腿潰瘍・うっ滞性潰瘍になりやすい方と予防方法について解説します。

下腿潰瘍・うっ滞性潰瘍になりやすい人

下腿潰瘍・うっ滞性潰瘍になりやすいのは以下のような方です。

  • 高齢者
  • 糖尿病や高血圧の方
  • 喫煙習慣がある方
  • 立ち仕事・座り仕事が多い方

それぞれについて詳しく解説します。

高齢者

加齢に伴い血管の弾力性が低下し、血流が悪くなります。また、筋力の衰えにより血液を心臓に戻す働きが弱まるため、血液が足に滞りやすくなります。これにより、静脈の圧力が上昇し、うっ滞性潰瘍のリスクが高まるでしょう。

糖尿病や高血圧の方

糖尿病の方は血糖値のコントロールが難しく、血管がダメージを受けやすいため、傷の治りが遅くなります。高血圧の方は血管に強い圧力がかかるため、血管が損傷しやすく、血流障害が起こりやすくなります。
これらの要因が合わさることで、潰瘍が発生するリスクが高まるでしょう。

喫煙習慣がある方

喫煙は血管を収縮させ、血流を悪化させる大きな要因の一つです。特に下肢の血流が悪化すると、皮膚や組織に必要な酸素や栄養が届きにくくなり、潰瘍が発生しやすくなります。
禁煙により全身の血流が改善し、潰瘍のリスクを大幅に減らすことができます。

立ち仕事・座り仕事が多い方

長時間同じ姿勢をとることで、血液が滞りやすくなります。特に立ち仕事が多い方は、重力の影響で血液が足に溜まりやすくなり、静脈の負担が増します。
一方、デスクワークなどで長時間座り続ける方も、足の血流が悪くなるため注意が必要です。

予防の方法

下腿潰瘍やうっ滞性潰瘍を防ぐためには、日常生活での習慣改善が重要です。以下のポイントを意識しましょう。

  • 適度な運動をする
  • 長時間の同一姿勢を避ける
  • 足を高くした状態での休息をとる
  • 弾性ストッキングを活用する
  • バランスの取れた食事をとる

上記について、一つひとつ解説していきます。

適度な運動をする

運動をすることで血流が促進され、血液の滞りを防ぐことができます。特にウォーキングやストレッチが効果的です。日常的に歩く習慣をつけるだけでも、下肢の筋肉がポンプのように働き、静脈の血流が改善されるでしょう。

長時間の同一姿勢を避ける

立ち仕事や座り仕事が多い方は、こまめに足を動かすことが大切です。座り仕事の方は1時間ごとに立ち上がって軽いストレッチをする、立ち仕事の方は足のストレッチや体重移動を意識しましょう。少しの工夫で血流を改善できます。

足を高くした状態での休息をとる

足を心臓より高い位置に上げることで、血液の循環がスムーズになります。就寝時にクッションの上に足を乗せることで、静脈の負担を軽減し、むくみを予防できます。

弾性ストッキングを活用する

弾性ストッキングを着用することで、足の静脈圧を調整し、血液の流れをスムーズにします。特に長時間同じ姿勢で過ごす方には、有効な予防策です。

バランスの取れた食事をとる

食生活の改善も重要です。塩分(ナトリウム)を控えめにし、ナトリウムの排出を促すカリウムを多く含む食品を摂取することで、むくみを軽減できます。カリウムを多く含む食材の代表例として、バナナやほうれん草が挙げられます。

またビタミンCやビタミンEを多く含む食品を摂取しましょう。ビタミンCは血管を強くし、傷の治りを促進する作用があります。柑橘類やピーマン、ブロッコリーなどに多く含まれます。
ビタミンEは血流を改善し、血管の健康を維持する効果が期待できるでしょう。ナッツ類やアボカド、植物油に含まれます。

関連する病気

  • 慢性静脈不全
  • 深部静脈血栓症後遺症
  • 糖尿病性足潰瘍
  • 動脈硬化性閉塞性疾患
  • 末梢動脈疾患
  • 血栓性静脈炎

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