

監修医師:
稲葉 龍之介(医師)
目次 -INDEX-
ヘモクロマトーシスの概要
ヘモクロマトーシスとは、何らかの原因により肝臓、膵臓、心臓、皮膚などの臓器に鉄が沈着・蓄積する病気です。鉄が蓄積することで、多臓器障害(2つ以上の臓器が障害されて機能しない状態)が起きる可能性があります。
人間の身体に含まれる鉄の総量は3〜4gです。そのうち70%が赤血球に含まれるヘモグロビン鉄として、全身の細胞へ酸素を運搬しています。鉄は生体に必要不可欠ですが、過剰になると肝硬変、糖尿病、皮膚色素沈着、心不全などを発症することがあるため、生体内で厳密に制御されています。
ヘモクロマトーシスは、早期に診断された場合は予後良好です。しかし治療開始が遅れると、治癒しない臓器障害が残る可能性や、肝細胞の繊維化が進行し肝細胞がんを発症する可能性があるため、注意が必要です。
ヘモクロマトーシスの原因
ヘモクロマトーシスは発症の原因によって、遺伝性ヘモクロマトーシスと二次性ヘモクロマトーシス(続発性鉄過剰症)に分けられます。
遺伝性ヘモクロマトーシス
主に、鉄の吸収や代謝に関与するHFE遺伝子の変異によっておこります。発症頻度は欧米で高く、日本ではまれです。HFE遺伝子変異があると、身体は過剰に鉄を吸収し、肝臓など全身の臓器に鉄が蓄積されます。
v二次性ヘモクロマトーシス(続発性鉄過剰症)
大量の輸血や鉄剤の投与、あるいは食事や大量の飲酒による鉄の過剰摂取が原因となって引き起こされるヘモクロマトーシスです。
日本においては輸血後鉄過剰症(頻回な輸血による鉄の過剰投与)が、主な原因です。
赤血球液1単位(血液200mL由来)には約100mgの鉄が含まれています。また、1日に排泄される鉄は1mgです。そのため、長期間にわたり輸血が必要な疾患である重症サラセミアや骨髄異形成症候群などがある方は、鉄が体内に蓄積していきます。
輸血歴も鉄剤の内服もない方の多くは食事が原因と考えられます。そのため、日頃の食事内容を確認することが重要です。
二次性ヘモクロマトーシスは40〜60歳の方で多いという報告があります。これは、臓器に鉄が沈着してから症状が出現するまでに20〜40年を要するためです。
また、男女比は10:1程度と男性に多くみられます。これは女性の場合は、月経、出産などにより鉄が失われやすいためと考えられています。
ヘモクロマトーシスの前兆や初期症状について
ヘモクロマトーシスの前兆や初期症状としては倦怠感や疲労感、手指関節・膝関節・股関節などの関節痛がみられます。ただしこれらはヘモクロマトーシスに特徴的な症状ではなく、ほかの病気との区別は困難です。
ヘモクロマトーシスが進行すると、三主徴といわれる肝硬変・皮膚の色素沈着・糖尿病を始めとした症状が現れます。
肝硬変
右上腹部に鈍い痛みや、肝腫大を自覚することがあります。
皮膚の色素沈着
鉄の沈着により皮膚が灰色や青銅色に変色することがあります。
糖尿病
膵臓に鉄が蓄積することでインスリン分泌が妨げられ、糖尿病を引き起こすことがあります。
心疾患
心臓に鉄が蓄積することで心筋症や不整脈などを引き起こすことがあります。三主徴に心疾患を加えて四主徴と呼ぶこともあります。
甲状腺・副甲状腺・下垂体の機能低下や性機能の低下
性欲減退や勃起不全、陰毛・体毛の脱落、無月経、睾丸萎縮などが現れることがあります。
輸血や鉄剤内服など鉄を過剰摂取した可能性が否定できない場合に、何らかの体調不良を生じた場合にはヘモクロマトーシスの可能性が否定できません。ヘモクロマトーシスが心配な方は、血液内科、消化器内科の受診を検討してください。
ヘモクロマトーシスの検査・診断
ヘモクロマトーシスが疑われた場合には血液検査、画像検査、肝生検、遺伝子検査などが行われます。
血液検査
鉄の蓄積状態を評価するために、血清鉄、フェリチン、トランスフェリン飽和度などを測定します。
血清フェリチン値が500ng/dL以上、トランスフェリン飽和度が50%以上の場合、鉄過剰が疑われます。
画像検査
CTやMRI検査で、肝臓への鉄の沈着を評価します。特にMRI検査では、肝臓全体の鉄の量を評価することができます。
肝生検
肝臓の一部を採取する検査です。正常な肝臓の鉄量は1.8 mg/g乾燥重量未満ですが、鉄過剰症では7 mg/gを超えて増加します。さらに肝生検では、線維化など肝臓組織の病理学的評価も同時に行うことができます。しかし、侵襲性の高い手技であるため適応は慎重に判断します。
遺伝子検査
遺伝性ヘモクロマトーシスが疑われる場合には、HFE遺伝子などの遺伝子の変異の有無を調べます。
ヘモクロマトーシスの治療
ヘモクロマトーシスの治療は、臓器に沈着した鉄を除去する治療<と、鉄沈着により生じた臓器障害に対する対症療法とに分けられます。ここでは、鉄を除去する治療について解説します。
瀉血
瀉血は、体内から血液を採取して取り除く治療法です。効果的でありかつ安価なため、鉄を除去する治療の中心となります。
血清フェリチン値を目安に、毎週または2週間おきに500mLの瀉血を行うのが一般的です。
瀉血によって貧血傾向となり、臓器に沈着していた鉄が血液中に動員することで臓器中の鉄が減少します。
鉄キレート剤
鉄キレート剤により、尿中への鉄排泄を促進させます。
心不全や貧血を合併する場合には瀉血が困難であり、鉄キレート剤を投与します。
鉄キレート剤には、注射剤であるデフェロキサミンと、内服薬であるデフェラシロクスがあります。
デフェロキサミンの方が鉄を排泄する能力が優れていますが、半減期が短いため連日の投与が必要です。
デフェラシロクスは、半減期が長いため1日1回の経口投与で持続的な効果が認められます。しかし保険適用となるのは二次性ヘモクロマトーシスである輸血後鉄過剰症のみであることに注意が必要です。
ヘモクロマトーシスになりやすい人・予防の方法
日本国内で起きるヘモクロマトーシスの多くは輸血後鉄過剰症です。そのため、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、サラセミアなどの病気があり、長期間の輸血が必要な方はヘモクロマトーシスになる可能性があります。
また、鉄欠乏性貧血のため鉄剤の注射を長期間にわたって受けている方も同様です。
さらに、肝機能障害があるとより鉄過剰となりやすい傾向にあります。そのため非アルコール性脂肪性肝炎、アルコール性肝障害、ウイルス性肝障害がある方はより注意が必要です。
さらに、HFE遺伝子変異による遺伝性ヘモクロマトーシスは常染色体潜性(劣勢)遺伝性の疾患です。そのため、血縁家族に遺伝性ヘモクロマトーシスの方がいる場合には発症する可能性が否定できません。
予防の方法
日本で見られるヘモクロマトーシスの大半は二次性ヘモクロマトーシスであるため、鉄の過剰摂取を避けることでヘモクロマトーシスを予防することができます。
頻回の輸血を受ける必要のある方は、ヘモクロマトーシスの前兆である倦怠感、疲労感、関節痛がないか確認しましょう。体調に変化があれば、医師へ相談しましょう。
また管理栄養士へ相談して、鉄の過剰摂取を避けた食事指導を受けることも効果的です。レバー、ひじき、あさり・しじみなどの貝類は鉄を多く含むため、過剰摂取は控えましょう。
鉄剤を服用している場合は、自己判断で鉄剤を服用することは避けましょう。用法・用量を守ることで鉄の過剰摂取を予防することができます。
参考文献




