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本態性低血圧症
佐藤 浩樹

監修医師
佐藤 浩樹(医師)

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北海道大学医学部卒業。北海道大学大学院医学研究科(循環病態内科学)卒業。循環器専門医・総合内科専門医として各地の総合病院にて臨床経験を積み、現在は大学で臨床医学を教えている。大学では保健センター長を兼務。医学博士。日本内科学会総合専門医、日本循環器学会専門医、産業医、労働衛生コンサルタントの資格を有する。

本態性低血圧症の概要

血圧は、心臓が血液を全身に送り出す際の圧力を指します。血圧が保たれることで、脳や心臓、腎臓などの臓器に十分な血流が届き、正常な機能が維持されます。しかし、血圧が低すぎると十分な血液が供給されず、臓器に必要な酸素や栄養が届かなくなることがあります。

低血圧とは

低血圧の定義は高血圧のように明らかではありません。一般的に収縮期血圧(うえの血圧)が 100 mmHg 以下とされており、拡張期血圧(したの血圧)については通常言及されていません。症状がなく、病的意義のないものは体質性低血圧とよばれます。

低血圧の分類

低血圧症は、基礎疾患のない本態性低血圧症(ほんたいせいていけつあつしょう)と、原因となる疾患が存在する二次性低血圧症(にじせいていけつあつしょう)または症候性低血圧症(しょうこうせいていけつあつしょう)の2つに大きく分けられます。

本態性低血圧症とは

本態性低血圧症とは、特定の病気や明らかな原因がないにも関わらず、慢性的に血圧が低くなる状態を指します。また、本態性低血圧症は、単に血圧が低いだけではなく、低血圧に伴う症状(めまい、倦怠感、立ちくらみなど)がある場合を指します。

本態性低血圧症の原因

本態性低血圧症は、特定の病気が原因ではなく、遺伝や体質によるものと考えられています。以下のような要因が影響していると考えられています。

遺伝的要因

本態性低血圧症は、家族内で低血圧の方が多い傾向があります。これは、血圧を調節する自律神経の働きや血管の収縮能力が遺伝的に低いことが関係していると考えられています。

自律神経の働き

自律神経は、心拍数や血圧の調節を行う神経系です。本態性低血圧症の方はこの機能が関連して、血圧が低くなりやすい可能性があると言われています。

生活習慣

運動不足や栄養不足、過度なストレスなども血圧の低下を引き起こす可能性があります。特に、塩分摂取が極端に少ないと血圧が下がることがあります。

本態性低血圧症の前兆や初期症状について

本態性低血圧症は、急に発症することは少なく、若い頃から徐々に症状が現れることが一般的です。特に女性や若年者に多く見られると言われています。加齢とともに血圧が上がることで症状が軽減することもあります。 本態性低血圧症のおもな症状は、脳や全身の血流が低下することによって引き起こされます。特に、立ち上がったときや長時間の立位で症状が悪化することがあります。多彩な自覚症状が特徴です。

めまい・立ちくらみ

血圧が低いため、脳に十分な血液が届かず、脳が酸欠状態になると一時的にめまいや立ちくらみを感じることがあります。

倦怠感・疲れやすさ

血流が低下すると、身体全体へのエネルギー供給が減り、慢性的な疲労感が生じます。

冷え性

血圧が低いため、身体の末端まで十分な血液が届かず、手足が冷えやすくなります。

動悸・息切れ

心臓が血液を送り出すために頑張ろうとする結果、動悸や息切れが生じることがあります。

頭痛

血流が悪くなることで頭痛を感じることがあります。

朝の不調

朝になってもなかなか起き上がれず、午前中は調子が悪く、急に起立すると立ちくらみを訴え、午後になると元気になる方が多いと言われています。

本態性低血圧症を疑う状況の場合は、内科や循環器内科を受診する必要があります。原因や全身の状態によって必要な治療が異なります。

本態性低血圧症の検査・診断

本態性低血圧症の診断には、単に血圧が低いだけでなく、低血圧による症状があることが重要です。以下のような検査が行われ、明らかな診断基準はないため、総合的に評価され診断されます。

診断基準

  • 収縮期血圧(うえの血圧)が 100 mmHg以下
  • 低血圧に関連する症状がある
  • 低血圧の原因となるほかの病気(心疾患、内分泌疾患など)がない

検査方法

血圧測定

複数回の測定で慢性的な低血圧を確認します。

起立試験

仰向けから立ち上がった際の血圧変動を測定し、低血圧の影響を評価します。

血液検査

本態性低血圧症の場合に特化して上昇する血液データはないため、貧血や電解質、ホルモンの値など、低血圧の原因となる異常がないかを調べるために行われます。

本態性低血圧症の治療

本態性低血圧症は、特定の病気が原因ではないため、生活習慣の改善がおもな治療になります。生活習慣の改善によって効果が得られない場合は薬物療法を検討する必要があります。

生活習慣の改善

規則正しい生活

過労を避け十分な睡眠をとり規則正しい生活を送ることで、昼・夜の活動リズムにメリハリをつけることは、低血圧の改善に効果的だと言われています。

適度な塩分摂取や水分摂取

塩分不足によって血圧低下をきたすことがあります。そのため1日10~20gの塩分摂取や、脱水を予防するために適度な水分摂取をすすめる場合があります。また、カフェインを多めに摂取すると症状が改善することが多いので食後にコーヒーを飲むことをすすめることがあります。

有酸素運動

本態性低血圧症者は、運動習慣がなく座位生活を送る方が多いと言われています。そのためウォーキングなどの軽度な有酸素運動によって改善する場合があります。 また、運動療法によって下肢筋力がつくことで下肢の筋ポンプカ(心臓に血液を送り返す力)が増すことは低血圧に有効です。

急に立ち上がらない

立ちくらみを防ぐため、ゆっくりと立ち上がる習慣をつけることが重要です。

薬物療法

交感神経刺激薬などの昇圧効果を得るような以下の薬物を試してみることがあります。

神経作動性薬剤

ミドドリン塩酸塩
末梢血管を収縮させる作用で血圧を上昇させる、また起立時の血圧低下を抑えます。心臓や中枢神経系への直接作用がない薬剤です。動悸や頭痛がある場合には、横になると血圧が上昇する可能性があるため、 頭部を高くすることで症状を調節できることがあります。
ドロキシドパ
ノルアドレナリン前駆物質と呼ばれています。閉塞性隅角緑内障(へいそくせいぐうかくりょくないしょう)や重篤な末梢血管病変のある透析患者さんには投与が禁忌とされています。
アメジニウム
交感神経を刺激する薬です。ノルアドレナリンの再取り込みを抑制することで、ノルアドレナリンの血中半減期を延長します。狭隅角緑内障(きょうぐうかくりょくないしょう)や残尿を伴う前立腺肥大には使用できません。
フルドロコルチゾン
ステロイド作用をもつため体液を保持する目的で使われることがあります。体重やむくみを目安に用量をコントロールします。
インドメタシンナトリウム
血管拡張を防ぐことで、血圧を維持する作用を期待します。

本態性低血圧症になりやすい人・予防の方法

本態性低血圧症は、特定の病気や明らかな原因によるものではありません。 遺伝や体質による慢性的な低血圧の状態ですが、適切な生活習慣によって症状を改善または軽減することが期待できます。日常生活での工夫を取り入れ、必要に応じて薬物療法を行い健康的な血圧を維持しましょう。

なりやすい方

  • 女性
  • 遺伝的に低血圧の傾向がある方
  • 痩せ型の方
  • 運動不足の方
  • 水分摂取や塩分摂取が少ない方

予防策

バランスの取れた食事を心がけ、こまめに水分を摂ることが大切です。 また、規則正しい生活を送り、睡眠不足を避け、ストレスを溜めないようにするようにしましょう。

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