

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
新生児溶血性黄疸の概要
新生児溶血性黄疸(しんせいじようけっせいおうだん)は、赤ちゃんの赤血球が過剰に壊されることによって、血液中のビリルビン濃度が上昇し、皮膚や白目が黄色くなる病気です。
原因は母親と赤ちゃんで赤血球のRh抗原(アカゲザルと共通の抗原)の有無やABO型血液型(A型、B型、O型、AB型)が異なることです。Rh抗原の不適合の方が重症化しやすく、初産よりも2回目以降の妊娠で発症リスクが高まります。
主な症状は、皮膚や白目が黄色くなる黄疸です。通常の生理的黄疸とは異なり、出生後24時間以内に現れるのが特徴です。重症の場合、ビリルビンが脳に沈着して核黄疸を引き起こし、痙攣や難聴、脳性麻痺などの後遺症が残る可能性があります。
検査は妊娠中と出産後に行われ、妊娠中の血液検査で新生児溶血性黄疸の発症リスクを評価します。出生後は視診や血液検査、クームステストを実施し、診断を確定していきます。
治療法は重症度によって異なりますが、主に光線療法、免疫グロブリン療法、交換輸血があります。さらに、妊娠中に胎児が重症であった場合には、子宮内胎児輸血が行われることもあります。
新生児溶血性黄疸は母子の血液型不適合に起因することが多いものの、適切な診断と治療により予後は良好であるケースがほとんどです。定期的な妊婦健診と早期の医療介入が、赤ちゃんの健康を守る鍵となります。
新生児溶血性黄疸の原因
新生児溶血性黄疸は、ABO式血液型とRh式血液型(Rh抗原の有無によって区別される血液型)の不適合がみられる場合に発症します。
また、ABO式血液型の不適合よりもRh式血液型の不適合の方が発症頻度は高く、重症例が多いと報告されています。
ABO式血液型の不適合では、母親がO型で赤ちゃんがA型またはB型の場合に発症しやすいといわれています。
Rh式血液型の不適合の場合、母親がRh陰性で赤ちゃんがRh陽性の際に起こります。母親の免疫系が赤ちゃんの赤血球を異物と認識し、抗体が赤ちゃんの血球を攻撃することで、新生児溶血性黄疸を引き起こします。
Rh陰性の母親が初産時にRh陽性の赤ちゃんを出産すると、分娩時に赤ちゃんの血液が母体に混入し、母親の体にRh陽性の血球に対する抗体が作られます。
2回目以降の妊娠で赤ちゃんがRh陽性の場合、前回の出産で作られた抗体が赤ちゃんの赤血球を攻撃し、新生児溶血性黄疸を発症する可能性が高まります。そのため初産よりも2回目以降の妊娠で発症する可能性が高くなると言われています。
新生児溶血性黄疸の前兆や初期症状について
新生児溶血性黄疸の主な症状は、皮膚や白目が黄色くなる黄疸です。通常の生理的黄疸は出生後2〜3日目から肉眼で確認できるのに対し、新生児溶血性黄疸は出生後24時間以内に出現することが多いのが特徴です。
赤血球が破壊されると、ビリルビンという物質が生成されます。通常ビリルビンは肝臓で処理されて体外に排出されますが、新生児は肝臓の機能が未熟なため、処理が追いつかず黄疸が発生します。
黄疸は顔から始まり、胸部や腹部、大腿部、足先へと徐々に広がっていきます。
また黄疸以外の症状として、元気がなかったり、哺乳力が低下したり、眠り続けたりすることがあります。
重症化すると、ビリルビンが脳に沈着して神経細胞が壊され、核黄疸(ビリルビン脳症)と呼ばれる状態を引き起こす可能性が上がります。
核黄疸を発症すると、痙攣や筋肉の硬直、難聴、脳性麻痺など、長期的な後遺症が残る危険性があります。
新生児溶血性黄疸の症状は出生後に見られることが多いですが、重症例では母親のお腹にいる時点で胎児水腫(胎児の全身にむくみがでる病気)が起こることもあります。
新生児溶血性黄疸の検査・診断
はじめに、妊娠時の血液検査によって、新生児溶血性黄疸の発症リスクを評価します。
妊婦健診時の血液検査で、母親の血液型がRh陽性か陰性かどうかを調べます。母親がRh陰性で抗Rh抗体陽性であった場合は、さらに父親の血液を調べRh陽性かどうかを確認します。
出生後の新生児に対する主な検査は、視診や血液検査、クームステストが挙げられます。その他、羊水検査が必要になることもあります。
まず視診で新生児の皮膚の色を観察します。黄疸は顔から始まり、体幹、腹部、大腿部、足先へと進行します。足の裏に黄疸を認める場合は、ビリルビン値が高値であることが多いといわれています。
次に、血液検査で血清ビリルビンの濃度を調べます。併せてヘマトクリット、IgMなどを調べ、他疾患の鑑別を行います。
最後に、新生児の血液型に対するクームステスト(自己抗体の有無を調べる検査)を実施します。クームステストが陽性で新生児の赤血球に母親由来の抗体が付着している場合は、新生児溶血性黄疸が疑われます。新生児の血液型も確認し、ABO型またはRh式の不適合があるかを判断します。
黄疸の発症時期も重要で、出生後24時間以内に始まった黄疸は新生児溶血性黄疸の可能性が高く、早急な診断と治療が必要となります。出生後2週間以上経過してからみられるものは母乳性黄疸、胆道系の閉塞、肝炎などを疑います。
これらの検査をもとに、診断が確定されます。
新生児溶血性黄疸の治療
新生児溶血性黄疸主な治療法には光線療法、免疫グロブリン療法、交換輸血、子宮内胎児輸血が挙げられます。血清ビリルビン値の濃度によって、どの治療法を行うか選択されます。
妊娠中の羊水検査で胎児水腫が疑われる場合は、妊娠30週を過ぎていれば帝王切開などで赤ちゃんを出産します。
光線療法
光線療法とは、特殊な光を新生児に当てる治療法です。光を当てることで、ビリルビンの構造が変化し、体外へ排出されやすくなります。原則として24時間治療し、ビリルビン値の改善がみられれば治療を中断します。改善が見られない場合は、24時間追加で照射することもあります。
免疫グロブリン療法
Rh陰性の母親が抗体を持っていない状態(未感作)でRh陽性の赤ちゃんを出産した場合、出生後72時間以内に母親に免疫グロブリンを投与します。免疫グロブリンを投与することで、母体に抗体がつくられるのを防ぎ、次回妊娠時の新生児溶血性疾患の発症を予防できます。出生後に加えて、次回の妊娠中にも免疫グロブリンを投与します。
交換輸血・子宮内胎児輸血
重症例で赤ちゃんに貧血や全身のむくみがある場合は、出生直後に交換輸血を行うことがあります。出産時期でなければ、母親のお腹にいる状態で子宮内胎児輸血を選択することもあります。
交換輸血は、新生児の血液を入れ替える治療法です。子宮内胎児輸血には、胎児の血管内に直接輸血する方法や、子宮内の胎児の腹腔内にRh陰性の濃厚赤血球を注入する方法があります。
血液を入れ替えることで、ビリルビン濃度を迅速に下げるとともに、母親の抗体を除去します。赤血球の補充や、その他溶血毒性副産物の除去もできます。
新生児溶血性黄疸になりやすい人・予防の方法
新生児溶血性黄疸は、母親がO型で赤ちゃんがA型またはB型の場合、母親がRh陰性で赤ちゃんがRh陽性の場合、過去に新生児溶血性黄疸の赤ちゃんを出産した経験がある場合に発生リスクが高まると考えられています。
主な予防法としては、Rh陰性の母親に対する抗D免疫グロブリンの投与が挙げられます。妊娠中および出産後に投与することで、母親の体内で抗体が作られるのを防げます。抗D免疫グロブリンの予防投与が普及したことで、新生児溶血性黄疸の発症率は減少しています。
また、妊婦健診を受けることで発症リスクを早期に把握し、適切な対応をとることが可能です。妊婦健診は必ず受けるようにしましょう。
参考文献