

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
目次 -INDEX-
リンパ形質細胞性リンパ腫の概要
リンパ形質細胞性リンパ腫は血液がんの一種で、白血球の中のリンパ球のうちBリンパ球ががん化する疾患です。
Bリンパ球ががん化して「リンパ形質細胞」「形質細胞」という細胞が異常に増殖することが特徴です。患者さんの約9割に「MYD88L265P」という遺伝子の変異が確認されており、この遺伝子が異常な細胞増殖を引き起こす一つの要因とされています。
出典:日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版) 第Ⅱ章 リンパ腫
リンパ形質細胞性リンパ腫は、年単位でゆっくり進行していき、生存期間は5〜10年と報告されています。年齢とともに発症率は上がっていき、特に70歳代の高齢者に多くみられています。
初期には症状がほとんどない場合が多いですが、病気が進行すると、首やわきの下、足の付け根などに腫れやしこりが現れることがあります。さらに、骨髄に病変が及ぶと貧血や血小板の減少が起こります。また、合併症として過粘稠度症候群(かねんちゅうどしょうこうぐん)を引き起こし、血流障害が生じることがあります。
診断には、問診や触診、血液検査、画像検査のほか、必要に応じてリンパ節や骨髄の検査を実施します。
治療は、病気の進行が遅い場合は経過観察を行い、進行している場合には分子標的薬や抗がん剤を用いた治療が行われます。血液の粘度が上昇している場合には、血漿交換療法が行われることもあります。

リンパ形質細胞性リンパ腫の原因
リンパ形質細胞性リンパ腫のはっきりした原因は解明されていませんが、遺伝子の異常により、リンパ球の寿命や増え方に異常が起こることが一因として考えられています。
特に、MYD88L265P遺伝子に変異が生じるケースが多く報告されており、この遺伝子の異常が細胞の異常増殖を引き起こすと考えられています。
リンパ形質細胞性リンパ腫の前兆や初期症状について
リンパ形質細胞性リンパ腫は、初期のうちはほとんど症状が出ないこともあり、約4分の1の患者さんは無症候性であるとされています。しかし、病気が進行するとリンパ節が腫れるために、部位によってさまざまな症状が現れます。
リンパ節の腫れやしこりが最も一般的な症状として挙げられます。リンパ節は、首やわきの下、足の付け根など体の表面に近い位置に存在するため、それらの部位に腫れが目立つのが特徴です。腫れていても、痛みがほとんどありません。
また、がん細胞が増殖すると、がん細胞を攻撃するためにサイトカインという物質が増加し、全身に炎症が起きます。それにより、発熱や体重減少、大量の寝汗などがみられることもあります。
病気が進行し、リンパの腫れやしこりがさらに拡大すると、臓器が圧迫されさまざまな症状が出現します。尿管や静脈、脊髄などの臓器が圧迫されると、水腎症を引き起こします。水腎症は尿管が圧迫されることで体の外へ尿を出せなくなり、腎臓に尿がたまって腎臓が大きくなる状態です。この状態になると、むくみや麻痺などで、緊急で治療が必要となる場合もあります。
骨髄への浸潤が高い場合は、血球を作る力が弱まり貧血や血小板の減少が生じます。貧血が進行すると、息切れしやすくなり、倦怠感を強く感じることがあります。また、血小板の減少により出血しやすい状態となり、鼻血が出たり、皮下出血が起こったりすることもあります。
合併症として過粘稠度症候群を引き起こした場合は、IgMたんぱく(細菌やウイルスに感染したときに作られる抗体)が過剰に産生され、血液がドロドロになり、血流が悪くなります。さまざまな部位で血流障害が生じると、頭痛や視力障害、脳血管障害などを引き起こすこともあります。
リンパ形質細胞性リンパ腫の検査・診断
リンパ形質細胞性リンパ腫の診断では、問診や触診、血液検査、画像検査のほか、骨髄検査やリンパ節生検などの病理組織検査が必要になります。
まず、問診にて既往歴や治療中の疾患、症状等を確認します。あわせて触診で、リンパ節の腫れや肝臓や脾臓の腫れがないかを確認します。
その後、血液検査によって、白血球や赤血球、血小板などの値や、腎臓や肝臓などの機能を調べます。また、リンパ形質細胞性リンパ腫の特徴でもある、IgMの量も確認します。
画像検査では、CTやMRIなどを行い、病変の大きさや臓器への広がりをチェックします。
確定診断のためには、病理組織検査が必要になります。リンパ節生検によって病変の一部または全体を切除して、顕微鏡でくわしく調べます。
骨髄組織にリンパ腫が入り込んでいる場合は、骨髄検査を行います。麻酔下で腰の骨に針を刺して骨髄組織を採取し、顕微鏡で状態を調べます。
リンパ形質細胞性リンパ腫の治療
リンパ形質細胞性リンパ腫の治療は病状の進行度や患者さんの体調に応じて異なりますが、主に化学療法や血漿交換療法を行います。
症状が軽い場合や、病気の進行が遅い場合には、治療の効果よりも副作用のデメリットの方が大きいと判断されます。そのやめ、治療をすぐに開始せず、定期的に検査をしながら経過観察することもあります。
一方で、症状が進行している場合には、分子標的薬を単独で使用したり、抗がん剤と組み合わせたりするのが一般的です。抗がん剤はがん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃します。一方で分子標的薬は、病気の原因となる特定の分子だけを選んで攻撃するため、がん細胞の異常な分裂や増殖を抑えることが期待できる治療薬です。
過粘稠度症候群を合併した場合には、速やかに血漿交換療法を行います。血漿交換療法では、機械で体から血液を取り出し、IgMたんぱくが含まれていた血漿を新しい血漿と交換します。血漿交換療法を行うことで、ドロドロになった血液をサラサラした状態に戻すことができます。
これらの治療の効果がみられ、症状が改善した場合には、経過観察を行います。症状改善がみられない場合や、症状がひどくなる場合は、造血幹細胞移植などが検討されます。造血幹細胞移植とは、ドナーまたは患者さんの骨髄などから血液をつくる元となる造血幹細胞をとり出し、患者さんに移植する治療法です。
治療は外来治療が中心となるため、仕事を続けながら治療を続ける患者さんもいます。治療によって病変が消えても、再発することがあるため、治療後も通院して定期検査を受けることが重要です。
リンパ形質細胞性リンパ腫になりやすい人・予防の方法
リンパ形質細胞性リンパ腫になりやすい人は明らかになっていませんが、悪性リンパ腫は高齢者に多く、特に70歳代の人に多く発症しています。性別による違いも報告されており、男女比は3:2と男性の方が多いといわれています。
リンパ形質細胞性リンパ腫は、原因が解明されていないため、予防法は確立されていません。そのため、健康診断を定期的に受け、血液検査で異常がないかチェックすることが重要です。加えて、栄養バランスの取れた食生活や適度な運動習慣、十分な睡眠時間の確保など、日頃から健康管理に気を配ることが大切です。
また、首やわきの下に腫れやしこりを発見した場合には、早めに医療機関を受診することが推奨されます。
参考文献




