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肺動脈血栓塞栓症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

肺動脈血栓塞栓症の概要

肺動脈血栓塞栓症は、肺に血液を送る血管(肺動脈)に、血栓(血のかたまり)が詰まってしまう病気です。

主な原因は、足の深部静脈にできた血栓が血流に乗り肺に到達することです。長時間の座位や手術後の安静状態、妊娠・出産などは血栓ができるリスクを高めるため、注意が必要です。

2006年時点における日本での発症数は100万人あたり62人と少ないものの、10年間で2.25倍に増加していると報告されています。
(出典:Venous thromboembolism: deep vein thrombosis with pulmonary embolism, deep vein thrombosis alone, and pulmonary embolism alone|National Library of Medicine

症状は突然の息切れや胸の痛み、咳、血痰などが典型的で、重症化するとめまいや失神を伴ったり、血栓の大きさや肺の状態によっては、突然死をきたしたりする可能性があります。そのため、早期の発見と適切な治療が非常に重要です。

肺動脈血栓塞栓症の原因

肺動脈血栓塞栓症の主な原因は、静脈に血栓ができることです。

特に、足の太い静脈(深部静脈)にできることが多く、これを深部静脈血栓症といいます。長時間同じ姿勢でいたり、手術後などで身体を動かせない状態が続くと、足の血流が悪くなり、血液中の成分が固まりやすくなり、血栓ができやすくなります。

また、血液が固まりやすい病気を患っている方、妊娠中や出産後の女性はホルモンの変化や血液の変化によって血栓ができやすくなります。

これらの要因が重なると血栓ができやすくなり、肺動脈血栓塞栓症を発症するリスクが高まるため、注意が必要です。

肺動脈血栓塞栓症の前兆や初期症状について

肺動脈血栓塞栓症の症状は、血栓の大きさや詰まった場所、肺の状態などによって大きく異なります。

典型的な症状としては、突然の息切れや胸の痛みなどがありますが、人によっては症状が全くない場合もあります。

その他に、咳や血の混じった痰、めまい、失神などが起こることもあります。足の腫れや痛みは、血栓が足の静脈にある場合(深部静脈血栓症)にみられる症状です。

日本では心筋梗塞よりも、急性肺動脈血栓塞栓症の方が死亡率が高いという報告があります。突然の息切れや胸の痛みを感じた場合は、すぐに救急車を呼ぶなど、迅速な対応が必要です。

肺動脈血栓塞栓症でみられる症状は、風邪や他の呼吸器の病気などと似ているものも多いため、気になる症状があった際には自己判断せずに、医療機関を受診しましょう。

肺動脈血栓塞栓症の検査・診断

肺動脈血栓塞栓症の診断には、さまざまな検査がおこなわれます。

まず、患者の症状や病歴などを詳しく聴取するのとあわせて、身体診察で呼吸の状態や心臓の音などを確認します。

肺の状態を詳しく検査するために、胸部X線検査やCT検査が行われます。CT検査では、肺の血管を立体的に見ることができ、血栓の有無や位置、大きさを確認できます。

肺動脈造影検査は、カテーテルという細い管を血管に通し、造影剤という薬を注入して肺動脈をX線で撮影する検査です。より詳細な情報を得ることができますが、身体への負担が大きいため、CT検査などで診断が難しい場合に実施を検討します。

血液検査では、Dダイマーという物質の値を測定することがあります。Dダイマーは、血栓が溶けるときにできる物質で、数値が高い場合は血栓ができている可能性をあらわしています。

心電図検査や心エコー検査で心臓の状態を評価することもあります。これらの検査をおこなったうえで総合的に診断し、肺動脈血栓塞栓症の診断につなげます。

肺動脈血栓塞栓症の治療

肺動脈血栓塞栓症の治療は、検査の結果や患者の状態によって異なります。

薬物療法

肺動脈血栓塞栓症の治療は、血栓を溶かす薬(血栓溶解薬)や、血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬)などが中心です。

血栓溶解薬は、血栓を直接溶かす作用があります。抗凝固薬は、新たに血栓ができたり、血栓が大きくなったりするのを防ぐ作用があります。

ワーファリンやヘパリン、直接経口抗凝固薬など、さまざまな種類の抗凝固薬があります。どの薬を使用するかは、患者の状態や他の病気の有無などを考慮のうえ選択されます。

カテーテル治療

カテーテルを使って血栓を直接取り除く場合もあります。

例えば、カテーテル的血栓溶解療法やカテーテル血栓除去術(血栓吸引術・血栓破砕術・流体力学的血栓除去術)などがおこなわれます。

手術

肺動脈血栓塞栓症の状況によっては、肺動脈血栓摘除術といった手術がおこなわれることもあります。

この治療は、専門的な設備が整った病院でおこなわれます。治療方法は、患者さんの状態によって異なるため、医師とよく相談し、適切な治療を受けるようにしましょう。

肺動脈血栓塞栓症になりやすい人・予防の方法

肺動脈血栓塞栓症は、誰にでも起こりうる病気です。

特に、長時間のフライトやデスクワークなど長時間同じ姿勢でいる方、手術後や病気で寝たきりの方、妊娠中や出産後の方などは肺動脈血栓塞栓症になりやすいとされています。

肺動脈血栓塞栓症の予防のためには、適度な運動やストレッチなどをおこない、長時間同じ姿勢でいないようにすることが大事です。飛行機に乗るときには立ち上がって歩いたり、足首を回したりするなどの軽い運動を心がけてください。

水分を十分に摂ることは、血液の流れを良くするために重要です。脱水状態になると血液がドロドロになり、血栓ができやすくなります。また、何らかの理由で動けない方は、弾性ストッキングの使用が推奨される場合もあります。

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