汎血球減少症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

汎血球減少症の概要

汎血球減少症 (はんけっきゅうげんしょうしょう) とは、血液中の赤血球、白血球、血小板の3つがすべて少なくなってしまう状態のことを指します。汎血球減少症は病気や薬剤が原因となって生じ、血球産生に問題がある場合血球が壊れたり消費されたりする場合とに分けられます。汎血球減少症を治療するためには原因となっている病気に対する治療や薬剤の中止が重要となります。血液がんなどが原因となる場合には、造血幹細胞移植が必要になることもあります。 (参考文献1)

汎血球減少症の原因

汎血球減少症が起こる理由は、大きく分けて2つあります。

1. 血球が作られにくくなる
2. 血球がたくさん壊れたり、消費されたりする

血球が作られにくくなる場合

まず血球が作られにくくなる原因としては、感染症や栄養障害によって血球を作る「骨髄 (こつずい) 」が上手く形成されなくなったり、悪性腫瘍に占拠されてしまったりすることがあげられます。具体的には以下のような病気や栄養障害が関係しています。

  • 再生不良性貧血:骨髄が血球を作れなくなる病気
  • 感染症:HIVやウイルス性肝炎は造血幹細胞に感染し正常な血球産生を妨げることがある
  • ビタミンB12や葉酸の不足:これらの栄養は血球産生に必要不可欠のため、不足すると血球を作る力が弱まる
  • 薬剤:抗がん剤などの一部の薬剤は骨髄の働きを抑えてしまうことがある
  • 骨髄異形成症候群:異常な血球が過剰に産生されるようになり、正常な血球がうまく作られなくなる
  • 急性白血病:血液のがんの一種で、異常な造血幹細胞が大量に増えることで骨髄が正常な血球を作れなくなる
  • 悪性リンパ腫の骨髄浸潤やがんの骨転移:がん細胞が骨髄に入り込無事で、血球が作れなくなる

血球がたくさん壊されたり、消費されたりする場合

また、血球が作られても、それが普通より早く壊れたり、体のどこかでたくさん使われたりすると、汎血球減少症になります。具体的には以下のような病気が関係しています。

  • 播種性血管内凝固症候群:小さな血栓が全身の血管に発生することで血球を使い果たしてしまう
  • 自己免疫疾患:免疫の異常により脾臓 (古い血球を壊す臓器) の機能を過剰に亢進してしまうことがある
  • 肝硬変:肝臓が機能不全に陥り、代わりに脾臓への血流が増加することにより過剰に血球が破壊されることがある
  • 血球貪食症候群:マクロファージが正常な血球を壊してしまう

(参考文献1)

汎血球減少症の前兆や初期症状について

汎血球減少症では、赤血球・白血球・血小板のすべてが減るため、それぞれに関係する症状が現れます。

赤血球が減ることにより、めまい、頭痛、倦怠感、動悸などの貧血の症状が現れます。白血球が減る影響としては、通常かからないような感染症にかかりやすくなることなどがあります。そして血小板が減ることで血が止まりにくくなるため、あざができやすくなったり鼻血が出やすくなったりします。他にも発熱や寝汗、体重減少、胸痛、吐き気、嘔吐、黄疸 (皮膚が黄色くなること) などの症状が見られることもあります。 (参考文献1)

汎血球減少症の検査・診断

汎血球減少症の原因を調べるためには、まず血液検査を行います。血液検査では主に赤血球・白血球・血小板の数や種類を調べます。異常な血球の有無も確認します。また、血液の凝固能力や、肝臓や脾臓に問題がないかも確認します。
そして、必要に応じて骨髄の細胞を調べる「骨髄検査」を行うこともあります。これは腸骨という腰の骨から針を刺すことで骨髄を採取し、がん細胞および血液疾患の有無や血液を造る機能を確認する検査です。 (参考文献1,2)

汎血球減少症の治療

汎血球減少症の治療は血球が減少している状態への対処と根本原因に対する治療があります。
血球が減少している状態に対しては、まず赤血球についてはヘモグロビン (Hb) の値が 7g/dL 以上になるように赤血球輸血を行います。また、好中球が 500/μL 以下に減少していたり感染症を併発している場合は G-CSF という好中球産生を促す薬を使用します。ただ、血小板に関しては血小板輸血を行うと余計な抗体が産生されてしまうため、血小板輸血は通常行いません。
汎血球減少症の原因に対する治療としては、それぞれの病気に対する治療を行うことで正常な血球産生の回復を目指します。
また、ビタミンB12や葉酸の不足が疑われる場合は、不足する栄養素を補う治療が行われます。薬剤性に汎血球減少症をきたしていると疑われる場合は、原因となっている可能性のある薬を中止し、血球の数が回復するかを確認します。そして、血液がんや再生不良性貧血が原因となる場合には造血幹細胞移植が必要になることもあります。 (参考文献1,3,4)

汎血球減少症になりやすい人・予防の方法

汎血球減少症の統計は集計されていませんが、代表的な原因となる再生不良性貧血は年間100万人あたり8人前後と推定されています。性差はなく、年齢別では10歳代と70~80歳代に発症のピークがあります。また、白血病は年間10万人あたり6人前後と推定されており、やや男性に多いです。高齢になるほど罹患しやすい急性骨髄性白血病と、子どもに多く見られる急性リンパ性白血病とがあります。
これらの病気の予防方法は現在のところ明らかになっていません。 (参考文献4)


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