

監修医師:
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)
目次 -INDEX-
大動脈炎症候群の概要
大動脈炎症候群は、血管炎の一種であり、特に大動脈(体の中で最も大きな動脈)やそこから分岐する主要な動脈に炎症が生じます。この病気は1908年に金沢医学専門学校の眼科医である高安右人(たかやすみきと)によって、眼底変化(花冠状吻合)を伴う22歳女性の症例として報告されたこともあり、「高安動脈炎」という名称もあります。
血管の炎症によって、血管の壁が厚くなったり、狭くなったり、あるいは拡張したりすることがあります。これにより、血流が妨げられ、さまざまな症状が現れることがあります。大動脈炎症候群は、若年女性に多く見られる疾患ですが、男性や高齢者にも発症することがあります。
大動脈炎症候群の原因
大動脈炎症候群の正確な原因は、まだ解明されていません。しかし、いくつかの要因が関連していると考えられています。
免疫系の異常
免疫システムが自身の血管を攻撃する自己免疫疾患と考えられています。
遺伝的要因
特定の遺伝子(HLA-Bw52, Dw12, DR2, DQw1など)との関連が示唆されていますが、全ての人に当てはまるわけではありません。
感染症
過去に結核菌にさらされたこととの関連がメキシコ人の患者さんで報告されています。
その他
環境要因なども関与している可能性が示唆されています。
大動脈炎症候群の前兆や初期症状について
大動脈炎症候群の症状は、発症する部位や炎症の程度によって異なります。初期症状は、ほかの疾患と区別がつきにくい場合もあるため、注意が必要です。
全身症状
- 発熱:微熱から高熱までさまざまです
- 倦怠感:体がだるく、疲れやすいといった症状が出ます
- 食欲不振:食欲がわかない
- 体重減少:特に理由もなく体重が減る
- 寝汗:寝ているときに大量の汗をかく
血管症状
- 腕や脚のしびれや痛み:運動時に起こりやすいです(間欠性跛行)
- 脈の左右差:腕や首で脈を触れるときに左と右で触れ方に違いがある
- 血圧の左右差:左右の腕で血圧を測ると差がある(10mmHg以上)
- 頸部の痛み:頸動脈の炎症によって痛みが生じることがあります
神経症状
- めまい:立ちくらみのようなめまいがする
- 視力障害:物がかすんで見える、視野が狭くなる
- 頭痛:慢性的な頭痛が続く
- 脳卒中:力の入りにくさや感覚の異常など、さまざまな症状が起こりえます
心臓症状
- 胸痛:胸が締め付けられるような痛みを感じる
- 息切れ:動いたときに息切れがする
- 心不全:心臓の機能が低下し、足がむくんだり息苦しさが出たりする
その他
- 関節痛:関節が痛む
- 筋肉痛:筋肉が痛む
上記のような症状が見られる場合は、まず内科を受診してください。とくにリウマチ膠原病内科や循環器内科の専門医がいる病院を受診するのが望ましいです。また必要に応じて、眼科や脳神経内科などのほかの診療科と連携して治療を行なうこともあります。
大動脈炎症候群の検査・診断
大動脈炎症候群の診断は、以下の検査を組み合わせて行います。
血液検査
炎症反応
赤血球沈降速度(ESR)やC反応性タンパク(CRP)の値が上昇しているかを確認します。ただし、これらの値が正常でも大動脈炎症候群である場合があります。
画像検査
造影CT検査
CTスキャンで血管を詳細に観察します。造影剤を使用することで、血管の狭窄や拡張をより明確に確認できます。
MRI検査
MRIで血管の形状や炎症の有無を調べます。より詳細な評価を行うために造影剤を使用することもあります。
血管造影検査
カテーテルを用いて血管に直接造影剤を流すことで行う検査です。CTやMRIに比べてより詳細な情報を得ることができますが、侵襲的な検査のため、必要に応じて行います。
超音波検査
血管壁の肥厚や炎症の程度を調べることができます。
PET検査
血管の炎症の程度を評価するのに役立ちます。
その他の検査
生検
可能な場合は、炎症がありそうな部分の血管の組織を採取して顕微鏡で観察します(病理検査)。大動脈炎症候群の確定診断には必ずしも必要ではありませんが、ほかの血管炎との鑑別に役立つことがあります。
眼底検査
血管の炎症による所見がみられることがあります。
大動脈炎症候群の治療
大動脈炎症候群の治療の目的は、炎症を抑え、症状を改善し、血管の損傷を最小限に抑えることです。
おもな治療法は以下の通りです。
薬物療法
グルココルチコイド(ステロイド)
炎症を抑えるために最もよく使われる薬です。プレドニゾロンなどが用いられます。通常は高用量から開始し、症状が安定したら徐々に減量します。
免疫抑制薬
ステロイドの効果が不十分な場合や、副作用が問題となる場合に用いられます。メトトレキサート、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチルなどがあります。
生物学的製剤
特定の炎症に関わる物質を標的とする薬です。トシリズマブ(抗IL-6受容体抗体)が大動脈炎症候群の治療薬として日本でも承認されています。
血管内治療・手術
血管形成術
血管が狭くなっている部分を風船やステントで広げる治療です。
バイパス手術
血管の狭窄や閉塞が重度な場合、別の血管を用いて血流を確保する手術です。
大動脈炎症候群になりやすい人・予防の方法
大動脈炎症候群になりやすい人
大動脈炎症候群は、以下の要因を持つ人がなりやすいと考えられています。
年齢
40歳未満で発症することが多いですが、40歳以上で発症することもあります。
性別
女性に多い疾患です。
人種・民族
日本人を含むアジア人に多く見られますが、ほかの地域の人々も発症することがあります。
遺伝的要因
特定の遺伝子を持つ人に発症しやすい傾向があります。
大動脈炎症候群の予防
大動脈炎症候群の明確な予防法は、現在のところ確立されていません。なぜなら、原因が完全に解明されていないからです。
しかし、以下の点に注意することで、発症リスクを下げたり、早期発見につなげたりすることができます。
健康的な生活習慣
バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけることが大切です。
感染症予防
手洗いやうがいを徹底し、風邪やインフルエンザなどの感染症を予防しましょう。
早期発見・早期治療
少しでも異変を感じたら、早期に医療機関を受診し、適切な検査と治療を受けることが大切です。
定期的な健康診断
健康診断や人間ドックを定期的に受け、血管の状態を確認しましょう。
大動脈炎症候群は、大動脈とその主要な枝に炎症が起こる疾患であり、原因は完全には解明されていません。若年女性に多いですが、発症年齢や性別に関わらず注意が必要です。
早期発見と適切な治療により、症状をコントロールし、合併症を防ぐことが可能です。気になる症状がある場合は、専門医に相談し、適切な治療を受けることが大切です。
関連する病気
- 大動脈解離
- 高安病
参考文献
- Giant Cell Arteritis, Polymyalgia Rheumatica, and Takayasu’s Arteritis. David B. Hellmann Firestein & Kelley's Textbook of Rheumatology 11th, 93, 1595-1616.
- https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/takayasudomyakuen/




