造血器腫瘍
鎌田 百合

監修医師
鎌田 百合(医師)

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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。

造血器腫瘍の概要

造血器腫瘍とは、血球(赤血球、白血球、血小板など)の元となる造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)が、何らかの原因により成長の途中で腫瘍になる病気の総称です。体中をめぐる血液が腫瘍となるため、早い時期から全身に拡散しやすいという特徴があります。
血液を作る骨髄で血液腫瘍細胞が異常に増殖すると、正常な血球は減少します。どの血球が腫瘍化するかで症状や経過が異なり、病気の種類や、その人の状態に応じて治療方法が選択されます。

造血器腫瘍には、以下のような種類があります。

  • 急性白血病
  • 悪性リンパ腫
  • 多発性骨髄腫
  • 骨髄増殖性疾患(真性赤血球増加症、本態性血小板血症など)

造血幹細胞とは

造血幹細胞は、すべての血球(赤血球、白血球、血小板など)に成長できる能力をもつ細胞のことで、骨髄に存在しています。骨髄は、骨(成人では主に背骨、胸骨、骨盤などの骨)の中心にある柔らかい組織です。
赤血球と血小板は、骨髄の中で成長した後、血液中に放出されます。白血球には5つの種類があり、その中のTリンパ球(T細胞)だけは骨髄で生まれた後、未熟な状態で心臓の上にある胸腺という臓器に移動し、成長します。

血球には以下の種類があります。

血球の種類 役割
赤血球 全身の組織に酸素を運ぶ
血小板 出血した時に血を止める
白血球 好中球 細菌や真菌など異物の侵入を防ぎ、感染から体を守る
好酸球 寄生虫など異物を攻撃し、感染から体を守る
アレルギー反応にも関係する
好塩基球 アレルギー反応に関係する
単球 異物を取り込み免疫システムにその情報を伝えて、体の防御反応を調整する
リンパ球 異物や病原体を見つけ攻撃し、免疫反応も調整する。リンパ球には3つの種類があり、それぞれ異なる方法で体を守る。

  • Tリンパ球(T細胞)
  • Bリンパ球(B細胞)
  • ナチュラルキラー細胞(NK細胞)

造血器腫瘍の原因

造血器腫瘍では、まだ原因が特定されてない病気があります。原因が特定されているものでは、遺伝子変異(染色体転座)による要因と、環境的な要因が関係していると考えられています。

遺伝子の変異による要因

遺伝子変異による原因が特定されているものはいくつもありますが、たとえば以下のようなものがあります。

  • 小児急性リンパ性白血病(ALL):TEL-AML1融合遺伝子
  • 急性前骨髄球性白血病(APL):PML-RARA融合遺伝子

遺伝子には、遺伝情報の保管と伝達の役割があります。これらに異常が生じることで、異常な細胞が増殖するようになります。

環境の要因

一部の化学物質や、放射線の被ばく、特定のウイルス感染は、造血器腫瘍のリスクを高めます。

  • 化学物質:ベンゼン、喫煙、一部の抗がん剤など
  • 放射線:放射線治療など
  • ウイルス感染:HTLV-1(成人T細胞白血病、リンパ腫)、EBウイルス(バーキットリンパ腫)など

造血器腫瘍の前兆や初期症状について

一般的に造血器腫瘍の初期には、以下のような症状がみられる場合があります。

  • 疲労感:休んでも疲労感や、倦怠感が続く
  • 貧血: 顔色が悪くなり、動悸や息切れが起こる
  • 出血しやすくなる:鼻血や歯茎からの出血がみられたり、あざができやすくなる
  • 感染しやすくなる: 風邪やインフルエンザなど、感染症にかかりやすくなる
  • 体のしこり:悪性リンパ腫では、首や足の付け根、わきの下などにしこりができる場合があります

こうした症状が続く場合は、血液内科血液腫瘍科を受診しましょう。

造血器腫瘍の検査・診断

造血器腫瘍の検査では、疑われる病気に応じて複数の検査が行われます。以下に、代表的な検査を示します。

  • 血液検査
    白血球、赤血球、血小板の数や形態のほか、白血球分画や、異常な抗体、血液成分などを調べます。
  • 骨髄穿刺、生検
    骨髄の組織を採取し、異常細胞の有無を確認します。
  • 遺伝子検査
    特定の遺伝子変異や染色体異常を調べます。
  • 画像診断
    CTスキャンやMRI、PETスキャンなどを行い、内臓や骨の状態を調べます。必要に応じてレントゲン検査も行われます。
  • リンパ節生検
    悪性リンパ腫では、腫れたリンパ節から組織を採取し、顕微鏡で見て診断します。

造血器腫瘍の治療

病気の分類や進行状況に合わせ、複数の方法を組み合わせた治療が行われます。
造血器腫瘍の治療には、以下のようなものがあります。

  • 化学療法
    抗がん薬を使って異常な血液細胞を破壊します。急性白血病では、初回に白血病細胞が骨髄中に5%以下(寛解)になるよう、抗がん剤を使用した寛解導入療法が行われます。急性リンパ性白血病や、急性骨髄性白血病では、病状に応じて抗がん剤を髄腔内に注射する治療が行われます。
  • 放射線療法
    放射線を照射してがん細胞を攻撃します。多発性骨髄腫では腫瘍のある骨全体に照射したり、悪性リンパ腫では進行の程度により化学療法と併用したりします。造血幹細胞移植では、移植された造血幹細胞が、移植先の体内で適切に機能できるよう、放射線を全身に照射(TBI)します。
  • 骨髄移植
    健康な骨髄を移植して、正常な血液細胞の産生を促します。自家移植(本人の造血幹細胞を使用する)と、同種移植(ドナーの造血幹細胞を使用する)に分かれます。自家移植では、治療を始める前に本人から採取しておいた造血幹細胞を凍結保存しておき、治療が終わった後に移植します。
  • 免疫療法
    患者さんの免疫システムを強化して、がん細胞を攻撃します。急性リンパ性白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、多発性骨髄腫などでは、CAR-T細胞療法(カーティーさいぼうりょうほう)が行われることがあります。CAR-T細胞療法とは、治療を受ける本人の白血球(T細胞)を採取し、がん細胞を攻撃する能力を持たせた後、体内に戻し腫瘍を攻撃させる治療法です。
  • 分子標的療法
    特定の分子を標的にして、がん細胞を攻撃します。
    悪性リンパ腫では、抗がん剤と分子標的療法を組み合わせた多剤併用療法(たざいへいようりょうほう)が行われています。
  • 瀉血療法(しゃけつりょうほう)
    過剰な血液成分を減らすため、血液の一部を取り除きます。真性赤血球増加症による症状(赤ら顔、目の充血、頭痛、手足の冷えや痛みなど)が見られた場合、赤血球の数を減らす目的で瀉血されます。
  • 薬物療法
    真性赤血球増加症では薬を使って血球の増殖を抑えたり、本態性血小板血症では血管内に血栓(けっせん:血管内にできる血のかたまり)ができないようにしたりします。

造血器腫瘍になりやすい人・予防の方法

造血器腫瘍には多くの種類があり、原因が解明されていない病気もあります。不調が続く場合は、早めに病院を受診するようにしましょう。

造血器腫瘍になりやすい人

  • TEL-AML1融合遺伝子、PML-RARA融合遺伝子など遺伝子の変異がある人
  • ベンゼン、喫煙など、日常的に化学物質に触れる機会が多い人、抗がん剤治療を受けた人
  • 放射線治療を受けた人
  • 特定のウイルス( HTLV-1、EBウイルスなど)に感染した人

予防の方法

  • 定期的に健康診断を受け、異常の早期発見に努めましょう。
  • 化学物質や放射線など有害なものに触れる可能性がある場合、適切な防護対策を取りましょう。
  • バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、禁煙、適正な飲酒量を守るなど健康に配慮した生活習慣を心がけましょう。
  • 手洗い、うがい、など基本的な感染症対策を行いましょう。
  • HTLV-1に感染している人で授乳を希望する場合、感染対策が必須です。授乳する前に、医師に相談してください。


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