本態性高血圧症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

本態性高血圧症の概要

本態性高血圧症とは、特定の原因が明らかでない高血圧のことを指し、日本人の高血圧患者の約90%を占めます。 このタイプの高血圧は、遺伝的な要因や食塩の過剰摂取、肥満など、複数の要因が組み合わさって発症します。高血圧は、血圧が収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上の場合に診断され、そのまま放置すると脳卒中や心臓病、腎臓病などの重大な疾患を引き起こすリスクが高まります。 日本では約4300万人が高血圧と推定されており、そのうち適切に血圧がコントロールされているのは約1200万人にとどまります。残りの約3100万人の中には、自分が高血圧であることを知らない人や、知っていても治療を受けていない人が多く含まれます。本態性高血圧症の予防と管理には、減塩、適度な運動、体重管理などの生活習慣の改善が重要です。

本態性高血圧症の原因

本態性高血圧症は高血圧症のうち高血圧の原因となる疾患が特定できないものを指します。本態性高血圧症は複数の要因が絡み合って発症すると考えられています。

一つは、遺伝的な要因です。血のつながった家族に高血圧の人がいるような人の方が高血圧になりやすいことが知られています。

次に、生活習慣も重要な要因となります。塩分の過剰摂取、肥満や運動不足、アルコールの過剰摂取や喫煙、野菜摂取不足、精神的ストレスや加齢などが要因として挙げられます。
まず、塩分を摂りすぎると血液中のナトリウム濃度が上がり、水分が血管内に引き込まれて血液量が増加し、結果的に血圧が上がります。また、肥満運動不足は血管や心臓に負担をかけ、血圧を高める要因となります。アルコールの過剰摂取や喫煙も、血管を収縮させたり硬化させたりすることで血圧を高める可能性があります。 一方で、野菜や果物などの栄養素を適切に摂取することも重要です。さらに、ストレスが続くと交感神経が過剰に働き、血管が収縮し血圧が上昇します。また、加齢に伴い血管の弾力性が失われることも高血圧の原因になります。 (参考文献1,2)

本態性高血圧症の前兆や初期症状について

本態性高血圧症は多くの場合、明確な自覚症状がないまま進行します。血圧が慢性的に高い状態が続くと、頭痛やめまい、疲れやすさや倦怠感を感じる場合もありますが、多くの人は自分が高血圧であることに気づくことができません。

血圧が非常に高い状態が続くと、動悸や息切れ、視力のかすみなどが起こることがあります。血圧の上昇により心臓や血管に過剰な負担がかかり、全身の循環がうまくいかなくなるためです。 さらに進行すると、脳卒中や心筋梗塞、腎不全などの重大な合併症を引き起こすリスクが高まります。(参考文献1)

本態性高血圧症の検査・診断

本態性高血圧症の診断の基本は、血圧測定です。血圧測定は診察室で行われる場合と自宅で行われる場合があり、それぞれ「診察室血圧」と「家庭血圧」と呼ばれています。家庭血圧は日常の状態に近い血圧が分かるため、診察室血圧と組み合わせることでより正確な評価ができます。

診察室血圧で高血圧症の診断を行う場合は、降圧薬を飲んでいない状態で、少なくとも2回以上の異なる機会に血圧を測定することが推奨されています。それぞれの機会における血圧測定は、間隔を空けて血圧を複数回計測し、安定した値の平均を取って血圧値を求めます。診察室血圧を用いて診断する場合は一般的に、収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上の場合、高血圧症と診断されます。

家庭血圧では診察室血圧よりもリラックスした状態で血圧測定ができるため、高血圧の診断基準がやや低く設定されています。家庭血圧を用いて診断する場合は、5~7日分の朝晩それぞれ血圧を測定した平均値のデータを用いて、収縮期血圧が135mmHg以上または拡張期血圧が85mmHg以上の場合、高血圧症と診断されることが多いです。

加えて、本態性高血圧症を診断するためには何らかの疾患が原因で高血圧となる「二次性高血圧」との区別が重要です。そのため、高血圧症であると診断された場合、
血液検査や尿検査で腎臓やホルモンの異常がないかを確認します。また、心臓や血管の状態を調べるために心電図や胸部X線、エコー検査などが行われることもあります。

これらの検査や情報を総合的に判断し、本態性高血圧症であると診断されます。(参考文献1)

本態性高血圧症の治療

本態性高血圧症の治療は、大きく「生活習慣の改善」と「薬物療法」の2つに分けられます。これらは、血圧をコントロールし、脳卒中や心臓病などの重大な合併症を予防するために行われます。

まず、治療の基本となるのが生活習慣の改善です。減塩を中心とした食事の改善、運動、肥満の改善、アルコール制限や喫煙、ストレス管理などが挙げられます。
減塩に関しては、1日6g未満を目標に塩分を控えることが推奨されています。また、野菜や果物、多価不飽和脂肪酸や低脂肪乳製品を積極的に取り入れ、一方で飽和脂肪酸やコレステロールを控えることが勧められています。
そして、適度な運動も大切です。ウォーキングや軽いジョギングなど、有酸素運動を定期的に行うことで血圧を下げる効果が期待できます。さらに、体重管理も大切です。肥満は高血圧のリスクを高めるため、適正体重を維持することが勧められます。
飲酒に関しては、男性はおおよそエタノール換算で1日に20−30mL(ビール中瓶1本、日本酒1合、焼酎半合、ウイスキーダブル1杯、ワイン2杯に相当)、女性はその約半分以下に制限することが勧められています。
喫煙は交感神経活動を亢進し血管収縮につながる他、長期的な影響としては動脈硬化を引き起こすことが知られています。そのため、禁煙することが大切です。
その他には、寒冷ストレスや精神的なストレスへの対処も大切です。冬季には血圧が高くなることが知られているので、防寒対策をしっかりと行いましょう。また、心理的・社会的ストレスは高血圧につながるかもしれないと言われているため、自分をリラックスさせる方法を見つけておくことも大切です。
生活習慣の改善は低コストで安全に合併症のリスクを下げることができるので、特に糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病も持っている人において重要です。

しかし、生活習慣の改善だけでは血圧が十分に下がらない人は少なくありません。そのような場合、薬物療法が行われます。血圧を下げる薬にはさまざまな種類があり、患者さんの年齢や症状、合併症の有無などに応じて適切な薬が選ばれます。主な薬剤には、血管を広げる薬や、心臓の負担を軽減する薬、体内の余分な塩分や水分を排出する薬などがあります。

ここで、薬物療法を行っている人でも生活習慣の改善は重要です。食事療法や運動療法を少しでも実施することで、降圧薬の効果を高めて薬剤の量を減らすことができるためです。(参考文献1)

本態性高血圧症になりやすい人・予防の方法

日本の高血圧有病率は2016年時点で40〜74歳で男性60%、女性41%で、75歳以上では男性74%、女性77%であり、その多くが本態性高血圧症です。この疾患は加齢とともに増加する傾向があり、特に中高年以降で発症率が高くなります

予防の第一歩は、生活習慣を整えることです。治療の項に記載したような生活習慣の改善に努めることは、高血圧症の予防にもなります。本態性高血圧症は自覚症状が少なく放置されがちな疾患ですが、日々の生活習慣を見直し、健康的な行動を積み重ねることでリスクを下げることができます。定期的な血圧測定を行い、早期発見と対策を心がけましょう。(参考文献1)


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