監修医師:
山本 佳奈(ナビタスクリニック)
ファンコニ貧血の概要
ファンコニ貧血は、生まれつき細胞内の「DNA」を修復するタンパク質に異常があることで、低身長などの形態異常や、血液が正常に作られない「再生不良性貧血」、「白血病」などの合併症が生じやすくなる疾患です。国内では出生100万人あたり約5人に発症すると言われており、国の指定難病に指定されています。
DNAとは、人間の体を構成する細胞の核に存在する遺伝情報の本体です。「A(アデニン)」「T(チミン)」「G(グアニン)」「C(シトシン)」という文字列(塩基配列)の二重らせん構造で構成されています。
DNAは私たちの体の設計図のようなもので、4種類の文字列の一部が欠けたり増えたりすると、さまざまな病気を引き起こすことがあります。
DNAは、放射線や環境中の発がん性物質、タバコ、活性酸素などによって傷つけられることがあります。しかし、細胞にはDNAを修復する機能があるため、私たちは常日頃さまざまな病気を発症することなく過ごすことができています。
一方、ファンコニ貧血では、生まれつきDNAを修復するタンパク質に異常があり、放射線や発がん性物質にさらされることでDNAが傷つき、修復されずに染色体が切れてしまうことがあります。その結果、ファンコニ貧血を発症して低身長や貧血などさまざまな症状が現れます。
ファンコニ貧血は無症状で経過することもあれば、再生不良性貧血によって感染症にかかりやすくなったり、出血が止まりにくくなったりすることもあります。さらに、進行すると、白血病や、内臓や組織に発症するがん(固形がん)を発症するリスクもあります。
発症を認める場合には、症状に応じた薬物療法や外科的治療、「同種造血幹細胞移植」などが考慮されます。
出典:厚生労働省難治性疾患政策研究班 難病情報センター「ファンコニ貧血(指定難病285)」
ファンコニ貧血の原因
ファンコニ貧血の原因は、遺伝子の異常(変異)によるものだと考えられています。
ファンコニ貧血の原因となる遺伝子はDNAの修復に大きく関わることが分かっています。
原因となるいずれかの遺伝子によって損傷を受けたDNAが修復されないことが、ファンコニ貧血の発症につながります。
原因となる遺伝子はこれまでに22種類確認されており、特に国内では「FANCG」と「FANCA」によるものが多く確認されています。しかし、未だ発見できていないものもあると考えられています。
なお、一部の原因遺伝子を除き、ファンコニ貧血は「常染色体劣性遺伝」という遺伝形式で親から子供へと遺伝することがわかっています。両親ともにファンコニ貧血の原因遺伝子を保有している場合、その遺伝子を両親から受け継ぐことで1/4の確率でファンコニ貧血を発症します。
ファンコニ貧血の前兆や初期症状について
ファンコニ貧血の初期症状は人によってさまざまで、中には無症状で経過する人もいます。しかし、生まれつき心臓や腎臓などの内臓に異常を認めたり、低身長や皮膚の色素沈着、目や耳の形態異常、骨格の異常などを認めたりすることもあります。
また、ファンコニ貧血の一症状として知られる「再生不良性貧血」も、生後すぐに認めることもあれば、成人になってからみられるケースもあります。
再生不良性貧血では、全身に酸素を運ぶ赤血球や、出血を止める血小板、感染防御として機能する白血球が正常に作られなくなります。そのため、息切れやめまい、動悸などの貧血症状のほか、皮膚や粘膜から出血しやすくなったり、感染症にかかりやすくなったりします。
ファンコニ貧血の検査・診断
ファンコニ貧血を診断するためには、血液検査や身体診察などが行われます。
血液検査では、赤血球や白血球、血小板の数などを確認します。また、血液を用いて原因となる遺伝子変異を確認するための遺伝子検査が行われることもあります。
身体診察では、視診や触診などで皮膚の色素沈着や関節の異常の有無などを確認します。さらに、身体の形態異常の有無を調べるため、X線検査などの画像検査が行われることもあります。
ファンコニ貧血の治療
それぞれに認める形態異常や合併症に対する治療が行われます。
身体の形態異常に対しては、対応する診療科で連携の上外科的手術が考慮されます。
再生不良性貧血を認める場合には、不足する赤血球や白血球、血小板を補うための輸血や、造血因子の投与などが行われます。白血球の減少により感染症を認める場合には、抗菌薬や抗ウイルス薬を用いて治療を行います。
白血病の前段階である「骨髄異形成症候群」や白血病を発症している場合には、「同種造血幹細胞移植」が考慮されます。同種造血幹細胞移植は、血液細胞を健康なドナーの血液細胞と入れ替える治療法です。
治療前には白血病の原因となる血液中の腫瘍細胞を減らすため、抗がん剤や放射線による治療(前処置)を行います。ファンコニ貧血の患者さんは放射線や薬剤によってDNAが損傷されると修復されにくいため、抗がん剤や放射線治療の副作用が重くなりやすい傾向があります。そのため、通常よりも少量の薬剤・放射線量で前処置を行います。
固形がんを認める場合には、第一選択として外科手術が考慮されます。
ファンコニ貧血になりやすい人・予防の方法
ファンコニ貧血は遺伝子の異常によって発症するため、確実に予防する方法はありません。しかし、両親ともにファンコニ貧血の原因となる遺伝子を持っている場合には、1/4の確率で子供に遺伝することがわかっています。
そのため、遺伝子の異常を指摘されていて子供を持つことを考えている場合には、専門医に相談すると良いでしょう。
参考文献