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監修医師:
林 良典(医師)
目次 -INDEX-
血友病Aの概要
血友病Aは、血液凝固に必要な第VIII因子(FVIII)の活性が低下することで、血液が止まりにくくなる遺伝性の出血性疾患です。FVIIIは血液の凝固反応で重要な役割を果たしており、この因子が不足すると、出血を止めるのが難しくなります。血友病Aは、出生男子10万人あたり約7〜10人が発症し、日本には約5,000人の患者さんがいるとされています。
血友病Aの原因
遺伝子の変異による血液凝固因子の不足
血友病Aは、血液が固まりにくくなる遺伝性の病気です。この病気は「血液凝固第VIII因子(FVIII)」と呼ばれるタンパク質が体内で十分に作られない、またはその機能が低下することが原因です。具体的には、FVIIIを作る「F8遺伝子」の変異によって、FVIIIが不足したり、正常に機能しなくなったりします。
遺伝の仕組み
血友病Aは、X染色体に関連する「X連鎖劣性遺伝」という形式で遺伝します。このため、通常は男性が発症します。女性にはX染色体が2本あるので、1本に異常があっても発症しにくく、血友病Aの遺伝子を持っているだけの「保因者(キャリア)」となることが多いです。キャリアの女性でも約3分の1は出血しやすくなることがあります。
F8遺伝子の変異の種類
F8遺伝子には以下のような変異が見られます。
逆位(inversion)
重い症状を引き起こす変異で、重症型の血友病Aの約40%に見られます。F8遺伝子の一部が通常の配列と逆に並ぶことで起こります。
ミスセンス変異、ナンセンス変異、欠失、挿入
逆位以外にも、遺伝子の配列が変わったり、欠けたり、余分な部分が入るなど、様々な変異があります。
これらの変異によって、FVIIIがうまく作られなくなったり、正常に働かなくなったりし、結果として血液が固まりにくくなり、出血しやすくなります。
血友病Aの前兆や初期症状について
血友病Aは、血液が固まりにくくなる遺伝性の病気で、特に「血液凝固第VIII因子(FVIII)」が不足していることが原因です。そのため、軽微な外傷や刺激でも出血が止まりにくくなることが特徴です。出血しやすい状態にあることを理解しておくことが重要です。
初期症状
血友病Aの初期症状は、赤ちゃんが少しずつ活発に動き始める乳児期に見られることが多いです。
皮下出血
つかまり立ちやハイハイなどが始まると、太ももやお尻、額などに、軽くぶつかっただけで青あざができやすくなります。
口腔内出血
歯が生え始めるときや歯磨きをするときに、歯ぐきから出血しやすくなります。
鼻出血
鼻血が出やすく、なかなか止まらないことがあります。
これらの症状はほかの病気でも見られるため、すぐに血友病Aと気づかれないこともあります。しかし、出血が長引いたり繰り返したりする場合は、医療機関を受診し、検査を受けることが大切です。
関節内出血
血友病Aの特徴的な症状の一つが「関節内出血」です。これは、1歳を過ぎて歩き始める頃から見られることが多いです。
初期症状
関節に出血が起こると、むずむずした感じや腫れ、熱感、痛み、動かしにくさなどの症状が現れます。
反復による影響
同じ関節で出血が繰り返されると、関節の内部に炎症が起こったり、関節が変形して動きにくくなったりする「血友病性関節症」という状態に進行することがあります。
その他の出血
血友病Aでは、関節だけでなく、筋肉や頭の中など、様々な場所で出血が起こることがあります。
筋肉内出血
筋肉に出血が起こると、痛みや腫れ、動きにくさが出ることがあります。
頭蓋内出血
頭の中に出血が起こると、頭痛、嘔吐、意識がもうろうとするなどの症状が現れ、命に関わることもあります。
早期診断の重要性
血友病Aは、早めに診断して治療を開始することで、重い合併症を防ぐことができます。特に関節内出血を繰り返すと、関節の機能が大きく低下する可能性があるため、気になる症状があれば早めに内科、血液内科を受診して検査を受けることが重要です。
血友病Aの検査・診断
血友病Aは、出血の症状、家族に同じ病気の人がいるかどうか、そして血液検査の3つのポイントで診断されます。特に血液凝固の検査が診断と治療の効果を確認するために重要です。
スクリーニング検査
血友病Aが疑われる場合、まず以下のスクリーニング検査が行われます。
出血時間
血液が止まるまでの時間
血小板数
出血を止める働きをする血小板の数
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)
内因性凝固系の機能を見る検査
プロトロンビン時間(PT)
外因性凝固系の機能を見る検査
血友病Aでは、血管や血小板には異常がないため、出血時間と血小板数は正常です。しかし、血友病Aは内因性の凝固因子の問題なので、APTTが延びます。一方、PTは正常値を示します。
確定診断
スクリーニング検査で「APTTが延長」「PTが正常」「血小板数と出血時間が正常」の結果が出た場合、血友病Aの確定診断を行うために「FVIII活性」の測定を行います。
FVIII活性が低いと診断された場合、さらにvon Willebrand因子(VWF)も測定し、von Willebrand病(VWD)と区別します。VWF抗原量が正常であれば、通常は血友病Aと診断されます。ただし、VWDの一部(タイプ2N)ではFVIIIの活性が低下することがあるため、この場合は注意が必要です。
もし高齢者など、遺伝的な病気と考えにくいケースでは、クロスミキシング試験という検査を行い、後天性血友病と区別します。
その他の検査
遺伝子解析
血友病Aの原因遺伝子(F8遺伝子)に変異があるかを調べることで、より確実な診断ができます。遺伝子解析は、血友病Aの遺伝子を持つキャリア(保因者)や出生前診断にも役立ちます。
画像検査
関節や筋肉の出血を確認するために、超音波やCT、MRIなどが使われることもあります。
血友病Aの治療
血友病Aの治療は、体内で不足している「第VIII因子(FVIII)」という血液の凝固に必要な成分を補うことが中心です。この治療法には、出血した時に対応する「オンデマンド療法」と、出血を予防する「定期的な補充療法」があります。
出血時治療(オンデマンド療法)
出血時の治療では、出血している部位やその重さに合わせて、必要なFVIII製剤の量や頻度を調整します。手術が必要な場合や大きな出血があるときには、治療で血液の凝固力がしっかり保てるようにします。
FVIII製剤の量は、目標の凝固因子レベルに基づいて決定されます。
軽症や中程度の場合には、個々の凝固因子の数値を見ながら、投与量を調整します。
出血予防治療(定期補充療法)
出血を防ぐために、出血がないときでも定期的にFVIII製剤を体に補充する治療方法です。特に重症の血友病では、関節のダメージを防ぐために早い段階からこの治療を始めることが推奨されています。
定期補充療法により、年間の出血回数が減り、関節のダメージも防げます。
近年、半減期を延ばした製剤が登場し、投与頻度を減らすことが可能になっています。
新しい治療法;エミシズマブ
2018年からは、エミシズマブという薬も使用されています。エミシズマブは、第IX因子と第X因子をつなぐことでFVIIIの機能を代わりに果たす薬で、皮下注射で投与でき、体内にFVIIIを妨げる抗体があっても使えます。
その他のサポート
血友病の治療は一生続くため、子どもから大人への移行をスムーズに行うことが大切です。治療には費用がかかることが多いので、助成制度の活用も必要です。
このように、血友病Aの治療はさまざまな方法で行われ、患者さんの生活の質を保つサポートがされています。
血友病Aになりやすい人・予防の方法
血友病Aは主に遺伝によるもので、以下のような場合に発症するリスクが高くなります。
血友病Aの家族歴がある場合
特に母方に血友病の家族歴があると、遺伝する可能性が高まります。
遺伝的突然変異
稀に、家族に血友病の患者さんがいない場合でも、遺伝子の突然変異によって血友病が発症することがあります。
予防の方法
現在、血友病A自体を根本的に予防する方法はありません
関連する病気
- 血友病B
- フォン・ヴィレブランド病
- 後天性血友病
- 全身性エリテマトーデス
- 筋肉内血腫
- 播種性血管内凝固症候群
- 深部静脈血栓症
- ターナー症候群
- カウデン症候群
- 血小板減少症
参考文献
- 小倉妙美,堀越泰雄:Ⅱ診断 1.臨床症状.みんなに役立 つ血友病の基礎と臨床 改訂版(白幡聡,福武勝幸編),医 薬ジャーナル社
/li> - <酒井道生ほか:日本血栓止血学会 インヒビター保有先天性血友病患者に対する止血治療ガイドライン:2013 年 改訂版.日本血栓止血学会誌 2013