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巨細胞性動脈炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

巨細胞性動脈炎の概要

巨細胞性動脈炎は何らかの原因で活性化した免疫細胞によって、比較的太めの動脈が攻撃されてしまい、血管が詰まってしまう病気です (参考文献 1)。
発熱や倦怠感などの全身症状に加えて、頭痛や顎跛行、視力低下、四肢の虚血症状といった血管が詰まることによる症状があります (参考文献 2, 3)。
治療ではステロイドを使います。初めは高容量で、症状の経過をみながら少しずつ減らしていきます (参考文献 3) 。
診断では血液検査のほか、側頭動脈の生検をすることで、顕微鏡で巨細胞性動脈炎の所見がないか目で見て確かめます (参考文献 4) 。
症状が再燃してステロイドを減らせない場合や、ステロイドでは症状のコントロールができない場合には、トシリズマブなどの免疫抑制剤を併用して治療します (参考文献 5, 6) 。

巨細胞性動脈炎の原因

巨細胞性動脈炎は名前の通り、動脈が炎症を起こす病気です。血管の炎症が特徴である「○○血管炎」「○○動脈炎」という病気は多くありますが、巨細胞性動脈炎では大動脈や、頸動脈に代表されるような大動脈から直接枝分かれするような血管、顔周辺に血液を送る外頸動脈や側頭動脈などの、比較的太めの血管で炎症が起こることが知られています。
巨細胞性動脈炎では、免疫細胞の活性化により血管がダメージを受け、血管のダメージの修復をするなかで血管の壁自体が分厚くなり、結果的に血管が詰まってしまいます (参考文献1)。なにをきっかけに免疫細胞が活性化されるのかははっきりと分かっていません。

巨細胞性動脈炎の前兆や初期症状について

巨細胞性動脈炎の症状は徐々に進行していくことが多いですが、数日で急に症状がひどくなることもあります (参考文献 2) 。
次のような①全身で炎症が起きることによる症状と②血管が詰まることによる特異的な症状があります (参考文献 2, 3) 。

全身症状

  • 発熱
  • 倦怠感
  • 体重減少

血管が詰まることによる症状

  • 頭痛
    こめかみ近くの血管が詰まることによって、3人中2人の患者が頭痛を自覚します。
  • 食べるときに顎が疲れる
  • 視力低下
    眼に血液を送る血管が詰まることによって視力が低下、場合によっては失明します。
    視覚を司る脳の部位に血液を送る経路が詰まることが原因になる場合もあります。

  • 脳虚血による症状 (めまい、失神、体の動かしづらさ、話しづらさ)
  • 腕や足の症状
    痛み、冷たくなる、だるくなる
    足に行く血管が詰まりだすと、歩くと足が痛くなるので「休み休み歩く」という方もいます

巨細胞性動脈炎の症状の中でも、全身症状・頭痛・顎の疲れやすさ (顎跛行) を自覚することが多いです (参考文献 2) 。放置すれば失明や大血管系の異常 (大動脈瘤など) を引き起こしうる病気なので、これらの症状があればお近くの内科を受診しましょう。

巨細胞性動脈炎の検査・診断

診断のための検査には次のようなものがあります (参考文献4) 。

  • 血液検査
    炎症性のマーカーの測定をします
  • こめかみ近くの動脈 (側頭動脈) の評価
    側頭動脈の一部を採取 (生検) して、顕微鏡で炎症の有無や特徴を確かめたり、エコーでの検査をします
  • これらの検査で診断がつかない場合には、CTやMRIといった画像検査で全身の血管の状況を視覚的に調べることもあります (参考文献 4)。
    似たような症状を呈する高安動脈炎や他の血管炎、感染症や関節炎と間違わないように慎重に診断していきます。

    巨細胞性動脈炎の治療

    巨細胞性動脈炎ではステロイドを中心に治療を組み立てていきます。
    無治療で放置する期間が長引けば長引くほど失明や大動脈瘤、大動脈解離などの重症合併症のリスクが高まっていくため、診断が確定していなくても疑った段階でステロイド投与を開始することがあります (参考文献 5, 6)。
    高容量のステロイド投与を開始した後、症状が再燃しないか確認しながら少しずつ投与量を減らしていきますが、おおよそ3人に1人から2人に1人の患者はステロイド減量中に症状が再燃してしまうことが知られています (参考文献 3) 。
    ステロイドだけでは症状を抑えられない、症状の再燃によりステロイドを減らすことができない場合にはトシリズマブなどの免疫抑制剤を併用して疾患の管理を目指します (参考文献 3, 5) 。

    巨細胞性動脈炎になりやすい人・予防の方法

    巨細胞性動脈炎になりやすい人

    巨細胞性動脈炎患者の40%が「リウマチ性多発筋痛症」という別の病気を合併しているといわれています (参考文献 3) 。リウマチ性多発筋痛症は首や肩、腰、太ももなどに痛みや ”こわばり” といった症状が出る炎症性疾患です (参考文献 7) 。
    リウマチ性多発筋痛症に対して定期的に診察・治療を受けている方は、今回の記事で紹介したような症状が新しく出ていないか確認された経験があるのではないでしょうか。

    予防の方法

    リウマチ性多発筋痛症患者は巨細胞性動脈炎の発症・合併リスクが高いので、定期的な診察を受けることはもちろん、気になる症状があれば遠慮せずに担当の医師へ言うことが、早期発見・早期治療・重症化予防につながるでしょう。
    リウマチ性多発筋痛症以外の方も、今回紹介したような症状があれば早めに内科を受診して、適切な治療をすることが重症化予防にとって重要です。


    関連する病気

    • ポリミヤルジア・リウマチ
    • 自己免疫疾患
    • アテローム性動脈硬化症
    • リウマチ性多発動脈炎

    参考文献

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