目次 -INDEX-

原発性マクログロブリン血症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

プロフィールをもっと見る
京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

原発性マクログロブリン血症の概要

原発性マクログロブリン血症は IgM という種類の抗体が無秩序に産生される、リンパ形質細胞性リンパ腫の亜型です (参考文献 1, 2) 。
リンパ腫としての初期症状であるリンパ腫腫脹やB症状 (発熱・体重減少・ひどい寝汗) に加えて、腫瘍細胞が直接臓器を侵すことによる症状 (正常な血球の現象、肝脾腫など) 、血中の IgM 濃度が上がることによる症状 (疲労感、体重減少、鼻や歯茎からの出血、視力障害、頭痛、けいれん) が現れることがあります (参考文献 1, 2, 3) 。
無症状の場合には予後良好であることが知られており、治療の副作用とバランスを考えて経過観察することが多いです (参考文献 1, 4) 。
IgMが増えてくることによる病態である「過粘稠度症候群」の症状が出てきた場合には、重症合併症のリスクがあるため、免疫抑制剤や分子標的薬を用いて治療をしていきます (参考文献 1, 4) 。

原発性マクログロブリン血症の原因

原発性マクログロブリン血症は IgM という抗体の種類の1つが無秩序に産生されてしまうことを特徴とした病態です。
この IgM を作るリンパ球が腫瘍化する「リンパ形質細胞性リンパ腫」という病気の一部が原発性マクログロブリン血症にあたります (参考文献 1, 2) 。
原発性マクログロブリン血症の原因ははっきりとはしていませんが、患者が多く有する遺伝子異常がいくつか知られています (参考文献 1, 2) 。

原発性マクログロブリン血症の前兆や初期症状について

原発性マクログロブリン血症患者は大きく分けて以下の2つの症状に悩まされます。

  • 腫瘍細胞が直接臓器や器官を侵すことによる症状
  • IgM の濃度が上昇することによる症状
  • 腫瘍細胞が直接臓器や器官を侵すことによる症状

    腫瘍細胞浸潤による症状としてはリンパ節腫脹のほか、骨髄に腫瘍細胞が浸潤して正常な造血機能が障害されることによる正常な血球の減少、肝臓や脾臓に浸潤することによって、これらの臓器が腫れるという肝脾腫が代表的です (参考文献 1, 2) 。

    IgM の濃度が上昇することによる症状

    IgM が増えることによる症状には、脱力や疲労、体重減少、鼻や歯茎からの出血、視力障害、頭痛、けいれん等があります (参考文献 1, 2) 。

    原発性マクログロブリン血症の患者を調査 (参考文献 3) では、診断時に次のような症状が多かったと報告されています。

    • リンパ節腫脹: 25%
    • B症状: 23%
      リンパ腫の患者に多い症状で、「発熱・体重減少・寝汗」の3つの症状が含まれます。発熱は 38 ℃ 以上、体重減少は半年で 10% 以上の減少 (50 kg の体重が半年で 45 kg まで減少) 、寝汗は「寝ているときに汗をかきすぎて、パジャマや寝具を変えなければいけない程度の寝汗」が目安とされています。
    • 出血: 23%
    • 神経症状: 22%
      感覚異常 (しびれ・痛みの感じにくさ等) や、筋力低下といった症状が、ゆっくりと進行していくことが多いです (参考文献 2) 。
    • 診断時には無症状の患者も25%いるようで (参考文献 2) 、これらの患者さんは他の理由で行われた検査で異常を指摘され、原発性マクログロブリン血症であることが判明したものと思われます。

      原発性マクログロブリン血症では、血液中の IgM 濃度が上がりすぎてしまうことにより「過粘稠度症候群」という状態に陥ることがあります。過粘稠度症候群には次のような症状が含まれます (参考文献 2) 。

      • 視力低下 視界のかすみ
      • 頭痛・めまい
      • 耳鳴り・難聴
      • 運動失調
      • 先ほどの報告 (参考文献 3) によると 31% の患者さんで診断時に過粘稠度症候群の症状が出ていたとされています。

        過粘稠度症候群が悪化すると意識障害や脳卒中、昏睡状態、心不全にもつながり得ることが知られており、症状のある過粘稠度症候群は医学的な緊急事態といえるでしょう (参考文献 2) 。
        詳しい検査をしなければ診断のつけようがない疾患であり、放置すれば命にも関わる疾患なので、気になる症状があればお近くの内科を受診してください。

        原発性マクログロブリン血症の検査・診断

        原発性マクログロブリン血症の診断・評価においては、血液検査、血液に含まれるタンパク質の構成を調べる検査、骨髄生検、CTやMRIといった画像検査、眼の合併症を併発していないか確かめるための眼底検査などの所見が重要になります (参考文献 1, 2) 。
        他の造血器系腫瘍との区別をするにあたって、生検で採取した組織に含まれる腫瘍細胞がどのような系列のものかを確かめることが特に重要です。細胞の表面に出ているマーカーを調べることによってはじめて、患者の病態を正確に把握し、適切な治療戦略を立てることが可能になります。

        原発性マクログロブリン血症の治療

        無症状の原発性マクログロブリン血症患者は経過観察されることが多いです。
        無症状の場合には治療をしなくても予後が良好であることが知られており、副作用や長期の治療をすることによるデメリットが、治療によって得られるメリットを上回ると考えられているためです (参考文献 1, 4) 。
        症状がある場合には免疫抑制剤分子標的薬とよばれる種類の薬剤を使用して病勢のコントロールを目指します (参考文献 1, 4) 。

        原発性マクログロブリン血症になりやすい人・予防の方法

        日本では年間700-800人程度が新たに原発性マクログロブリン血症・リンパ形質細胞性リンパ腫と診断されていると考えられます (参考文献 1) 。
        原発性マクログロブリン血症の原因ははっきりしていませんが、血縁者に原発性マクログロブリン血症患者がいる方での発症率が高いことを示唆する報告があります (参考文献 5) 。
        原因がはっきりしていない稀な疾患のため、発症予防は現実的ではないかもしれません
        紹介したような症状がある場合には他の疾患の場合もあります。早めに病院を受診して、早期発見・早期治療による重症化予防をするようにしましょう。

        関連する病気

        参考文献

        • 参考文献1:棟方理. “原発性マクログロブリン血症の病態・診断・治療”. 日内会誌 112:1237~1243,2023
        • 参考文献2:UpToDate. Epidemiology, pathogenesis, clinical manifestations, and diagnosis of Waldenström macroglobulinemia
        • 参考文献3:García-Sanz R et al; Spanish Group for the Study of Waldenström Macroglobulinaemia and PETHEMA (Programme for the Study and Treatment of Haematological Malignancies). Waldenström macroglobulinaemia: presenting features and outcome in a series with 217 cases. Br J Haematol. 2001 Dec;115(3):575-82. doi: 10.1046/j.1365-2141.2001.03144.x. PMID: 11736938.
        • 参考文献4:UpToDate. Treatment and prognosis of Waldenström macroglobulinemia
        • 参考文献5:Sud A et al. Analysis of 153 115 patients with hematological malignancies refines the spectrum of familial risk. Blood. 2019 Sep 19;134(12):960-969.

        この記事の監修医師