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起立性低血圧
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

起立性低血圧の概要

起立性低血圧(orthostatic hypotension: OH) とは、立位をとった際に生じる過度の血圧低下 を特徴とする状態です。その定義は、起立後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下し、持続した状態であることです。OHの主な特徴と症状は、立ちくらみ、めまい、失神などで、自律神経系の機能低下が原因で起こります。正常では起立時に下肢や体幹の静脈に血液が貯留し、心拍出量が低下し、血圧が下がると圧受容器反射により血圧は速やかに正常化しますが、OHではこの調整機能が障害されています。治療は非薬物療法と薬物療法があります。OHは日常生活に支障をきたす可能性があるため、適切な診断と治療が必要です。

起立性低血圧の原因

神経原性OH(圧受容器反射の破綻)非神経原性OH(心拍出量の低下)に分けられます。一般的に、神経原性の場合には起立性低血圧以外の症状を伴うことが多いです。

(1)神経原性

1)原発性自律神経不全症
  • パーキンソン病
  • レビー小体型認知症
  • 多系統萎縮症
  • 純粋自律神経不全症
2)自律神経ニューロパチー
  • 糖尿病性ニューロパチー
  • アミロイドニューロパチー
  • 自己免疫性自律神経調節障害
(2)非神経原性

1)中毒
  • 薬物(降圧薬、利尿薬など)
  • アルコール
2)心拍出量減少
  • 心疾患
  • 循環血液量減少(脱水、出血など)
3)内分泌疾患

4)廃用(長期臥床・宇宙旅行)

起立性低血圧の亜型

遅延型OH 起立後しばらくしてから徐々に血圧が低下し、失神に至るタイプです。長時間の立位で症状が悪化します。 起立直後性低血圧 起立直後の一過性の血圧低下が特徴的です。小児に多い傾向があります。

起立性低血圧の前兆や初期症状について

脳虚血や筋虚血による症状やそのほかの症状がみられます。

  • 脳虚血による症状(失神、立ちくらみ、起立時めまい感、認知機能低下)や視覚症状 (眼前暗黒感、眼前白濁)
  • 筋虚血による症状(coat hanger痛、緊張型頭痛様頭痛、腰痛)
  • そのほか(脱力感、易疲労性、倦怠感、呼吸苦、狭心痛様胸痛、転倒)

起立性低血圧の病院探し

循環器内科や神経内科(脳神経内科)の診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。

起立性低血圧の経過

原因や個人の状況によって異なりますが、一般的には初期段階(OHの症状は一過性であり、回復も早い)から進行期(症状が頻繁に起こるようになり日常生活に支障をきたす、めまい立ちくらみに加えて、頭痛や倦怠感、食欲不振などの症状も現れる)、重症期(立ち上がったときに失神や転倒のリスクが高まり、症状が長引き回復に時間がかかる)となります。OHは原因疾患の治療や、加齢に伴う生理的変化への対応が重要です。定期的な診察を行いながら、個々の患者さんの状態に応じて適切な治療を継続することが重要です。

起立性低血圧の検査・診断

1)問診 症状の確認、既往歴、服薬歴などを聴取します。OHの症状チェックリスト(立ちくらみ・めまいが起こる頻度や立ち続けていると気分が悪くなる、朝起き上がることが困難、頭痛や倦怠感、食欲不振、動悸・息切れなど)を用いることもあります。

2)神経学的診察 小脳症状(体幹・四肢の運動失調や企図時振戦、眼球運動障害など)や錐体外路症状(筋強剛や静止時振戦、動作緩慢など)、自律神経症状(排尿障害や発汗障害など)、末梢神経症状などの有無を確認します。

3)能動的起立(Schellong:シェロング)試験 最も重要な検査です。ベッドサイドで起立性低血圧の有無を判定する検査で、血圧計を用意するだけで簡易に実施できます。患者さんが仰臥位から立位に姿勢を変えた際の血圧変化を測定します。起立後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下した場合に起立試験陽性と診断します。

4) Head-up tilt(ヘッドアップティルト)試験 高い感度と特異度を持つ検査法であり、特に原因不明の失神や重症のOHの評価が必要な場合に行います。ただし、専門的な設備と技術が必要なため、主に専門医療機関で行われます。

5)画像検査 頭部MRI画像で小脳や脳幹などの異常(萎縮など)を確認し、原発性自律神経不全の有無を診断します。場合によっては頭部CT画像も実施します。

6) 血液検査 貧血や内分泌疾患などの除外のために行います。

7) 生理学的検査 心電図や心臓エコーを行い、心疾患を除外するために行います。

起立性低血圧の症状チェックリスト

  • 立ち上がったときや姿勢を変えたときにめまいや立ちくらみを感じる
  • 長時間立っていると気分が悪くなる
  • 朝起きるのがつらい、起床困難がある
  • 午前中に調子が悪く、午後になると回復する
  • 全身倦怠感や疲れやすさがある
  • 頭痛がある(特に起床時や体位を変えたとき)
  • 動悸や息切れを感じる
  • 食欲不振がある
  • 顔色が悪い、青白い
  • 集中力が低下する
  • 視覚の変化(かすみ目や一時的な視野狭窄など)を感じる
  • 失神や失神寸前の経験がある
  • 入浴時に気分が悪くなる
  • 車酔いしやすい

これらの症状のうち、複数の項目に該当する場合はOHの可能性があります。ただし、これらの症状はほかの疾患でも起こりうるため、正確な診断には医療機関での検査が必要です。

起立性低血圧の治療

治療の目標は、症状の改善と日常生活の質の向上であり、患者さんの状態に応じて非薬物療法と薬物療法があります。治療の選択は、患者さんの年齢、症状の重症度、原因疾患などを考慮して個別に行われます。特に高齢者では、合併症やほかの薬剤との相互作用に注意が必要です。

1)一般的な原則

  • 高温環境、熱い湯への入浴の回避
  • 日中の長時間の臥床、特に朝・起床時の急激な起立の回避
  • 大量の食事、特に炭水化物とアルコールの回避(食事性低血圧の予防)
  • 運動訓練(水泳、エアロビクス、可能ならサイクリングやウオーキング)
  • 臥位高血圧への対策(例えば、就寝時の降圧薬内服やニトログリセリン舌下錠)

2)非薬物療法

  • ゆっくりした起立(起立前にしばらく座位をとったり、ストレッチをしたりする、特に朝の起床時)
  • 重力に抵抗する身体動作(足組み、筋肉の緊張、しゃがみ込み、折り畳み式のイスの携帯など)
  • 弾性ストッキングや腹部緊縛
  • 夜間睡眠時の頭部挙上(20-30cm)
  • 適度の食塩(最低限、8g/日以上)・水分(2-2.5リットル)の摂取
  • 500mLの飲水で即時の昇圧効果あり
  • 心臓ペースメーカー植え込みは推奨されない

3)薬物療法

  • 循環血液量増加作用を有する薬物(フルドロコルチゾン、デスモプレシン、エリスロポエチンなど)
  • 血管収縮作用を有する薬物(エチレフリン、ジヒドロエルゴタミン、ミドドリン、アメジニウムなど)
  • 血管拡張抑制作用を有する薬物(プロプラノロール/ピンドロール、インドメタシン/イブプロフェン、オクトレオチド) *フルドロコルチゾン、デスモプレシン、ジヒドロエルゴタミン、プロプラノロール、ピンドロール、インドメタシン、イブプロフェン、オクトレオチドは日本では保険適用未承認

起立性低血圧になりやすい人・予防の方法

高齢者神経原性疾患(パーキンソン病や多系統萎縮症、末梢神経障害など)、降圧剤(クロニジン、メチルドパ、プラゾシンなど)や抗パーキンソン病薬(レボドパ、カルビドパ)などの薬物を内服、脱水や出血などの血液量の低下、糖尿病などの内分泌代謝障害ストレス長期臥床などの患者さんはOHを合併しやすいです。

予防には以下があります。

  • 十分な水分摂取:1日1.5-2リットルの水分摂取
  • 塩分摂取:適度な塩分摂取
  • 運動療法:適度な歩行などの運動を行い、血流を促進する
  • 睡眠習慣の改善:就寝時間を一定に保ち、十分な睡眠をとる
  • 起立時の注意: ・頭を下げてゆっくりと起立する ・静止状態からの起立は1-2分以上続けない ・起立中は足を交差し、下半身への血流移動を防ぐ
  • ストレス管理
  • 弾性ストッキングの使用:下肢の血流貯留を防ぐ
  • 食生活の改善:バランスの取れた食事を心がけ、特に朝食をしっかり摂取する
  • 姿勢の工夫:同じ姿勢で長時間立ち続けることを避ける
  • 身体を動かしてからの起立:立ち上がる前に足踏みなどで血流を良くする

関連する病気

  • パーキンソン病
  • 糖尿病性神経障害

参考文献

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