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深層部静脈血栓症
吉川 博昭

監修医師
吉川 博昭(医師)

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医学博士。日本ペインクリニック学会専門医、日本麻酔科学会専門医・指導医。研究分野は、整形外科疾患の痛みに関する予防器具の開発・監修、産業医学とメンタルヘルス、痛みに関する診療全般。

深層部静脈血栓症の概要

深部静脈血栓症(DVT)は、脚や骨盤などの深部静脈に血栓が形成される病気です。血栓は、静脈の損傷や血液凝固を引き起こすことによって形成されることが多く、血栓が形成されると、血液の流れが阻害され、脚や腕の腫れや痛みを引き起こします。

深部静脈血栓症は、主に下肢で発生しますが、上肢でも発生することがあります。リスク要因には、手術後の安静、長時間の飛行機や車の移動、肥満、妊娠、高齢、がんなどがあります。

深層部静脈血栓症の原因

深部静脈血栓症(DVT)は、深部静脈に血栓が形成される病気で、その原因には主に3つの要因が関わっています。

静脈の内壁の損傷

静脈は、手術やけが、炎症、または閉塞性血栓血管炎などによって損傷することがあります。その結果として血栓が生じるリスクが高まります。

血液が凝固しやすい状態

がんや遺伝性の血液凝固障害など、一部の病気では血液が凝固しやすくなります。また、経口避妊薬やエストロゲン療法、タモキシフェンやラロキシフェンなどの薬剤や喫煙、高齢者の脱水も血液凝固が進む可能性があります。このような血液凝固の異常により血栓が形成されやすくなります。

血流速度の低下

手術後や長時間の飛行機旅行、脳卒中などで正常に脚を動かせない状態にあると、ふくらはぎの筋肉が収縮しないため、血液が心臓に戻りにくくなります。これにより、血流が遅くなり、血栓が形成されやすくなります。 上記の要因に加え、中心静脈カテーテルやペースメーカーの使用も、上肢DVTのリスクを高める要因となります。

深層部静脈血栓症の前兆や初期症状について

深部静脈血栓症の初期症状として、急に現れる片側の下肢の腫れ、疼痛、皮膚の色調変化、側副血行路の発達が挙げられます。これらのうち3つ以上が認められ、ほかの診断が否定される場合、深部静脈血栓症の可能性が高いとされます。

しかし、深部静脈血栓症は無症状の場合も多く、このような場合には肺塞栓症の胸痛や息切れが初めての症状となることもあります。 深部静脈血栓症を疑う症状が見られた場合は、血管外科の受診がおすすめです。

深層部静脈血栓症の検査・診断

深部静脈血栓症の診断は、痛みや腫れが軽微な場合、困難となります。そのため、疑わしい症状がある場合は迅速な検査が重要となります。

まずは、ドプラ超音波検査と血液検査が行われます。ドプラ超音波検査は非侵襲的で、静脈内の血栓を直接描出できます。この検査では、静脈の圧縮率や血流の障害を確認し、血栓の存在を確認します。なかでも大腿静脈や膝窩静脈は、感度90%以上、特異度95%以上の精度を持つため、高い信頼性があります。

血液検査では、Dダイマーという物質の濃度を測定します。Dダイマーは血栓が形成され、溶解された際に生じる物質であり、その濃度が上昇している場合、深部静脈血栓症の可能性が高まります。しかし、Dダイマーの上昇は肝臓病や外傷、妊娠などほかの要因でも引き起こされるため、陽性結果が出た場合は追加の検査が必要です。逆に、Dダイマー検査が陰性であれば、深部静脈血栓症の可能性は低いと判断されます。

肺塞栓症の症状が見られる場合には、CT血管造影検査や肺シンチグラフィーが用いられます。これにより、肺の血栓の有無を確認し、同時にドプラ超音波検査で脚の血栓を確認します。重症の場合や失神を伴う場合は、ただちに治療が必要です。

ほかの画像診断法として、造影CT検査やMR静脈造影(MRV)検査も有用です。静脈造影は確定診断に信頼性の高い方法ですが、身体への負担が大きいため、ほかの画像検査で診断が確定できない場合にのみ使用されます。

深層部静脈血栓症の治療

深部静脈血栓症の治療では、主に血栓の進展や再発の予防、肺塞栓症の防止、後遺症の軽減を目指します。治療の中心は抗凝固薬の使用です。抗凝固薬は血液の凝固を抑えることで、新たな血栓の形成を防ぎ、既存の血栓の拡大を抑制します。使用される抗凝固薬には、低分子ヘパリンやワルファリン、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)も含まれます。

抗凝固薬の投与期間は、患者さんのリスク要因に応じて異なります。手術や一時的な要因で深層部静脈血栓症が発生した場合、約3〜6ヵ月間の投与が必要です。一方で、原因が見つからない場合や再発した場合、血液凝固障害が原因の場合には、長期間あるいは生涯にわたって治療が継続されます。

また、既存の血栓を溶解するために血栓溶解薬が使用されることがあります。これらの薬剤は大量の血栓が急速に形成された場合や、生命を脅かす肺塞栓症のリスクがある場合に用いられます。ただし、出血のリスクが高いため、慎重に適用されます。

さらに抗凝固薬が使用できない場合や効果が不十分な場合は、下大静脈フィルターが挿入されることがあります。このフィルターは、血栓が肺に到達するのを防ぎますが、新たな血栓の形成は防げません。

深層部静脈血栓症のなりやすい人・予防の方法

深部静脈血栓症(DVT)は、血液が深部の静脈内で固まり、血栓が形成される状態です。この状態は、血液の凝固亢進によって血が固まりやすくなるとともに、血管の内側の内皮細胞が損傷されることによって引き起こされます。なかでも以下のような方々は注意が必要です。

まず、脱水状態やホルモン剤の使用、がんに対する化学療法を受けている方は、血栓ができやすいリスクがあります。抗がん剤を使用している患者さんも深部静脈血栓症の高リスク群に入ります。また、肥満や長期間の安静臥床も重要なリスク因子です。

さらに飛行機の長時間フライトや新幹線、夜行バスでの長時間の座位によるエコノミークラス症候群も深層部静脈血栓症のリスクを引き起こします。同じ姿勢で長時間座っていると、足の筋肉のポンプ作用が働かず、静脈の血液が淀みやすくなります。これにより血液の流れが悪くなり、血栓が形成されやすくなるのです。

ほかにも、手術後や外傷(骨折)の後、高齢者、悪性腫瘍患者、妊娠中の女性、経口避妊薬(ピル)を服用している方、糖尿病、心疾患、脳梗塞、ネフローゼ症候群の既往がある方なども深部静脈血栓症のリスクが高いとされています。 深部静脈血栓症(DVT)の予防には、日常生活のなかでいくつかのポイントを意識することが重要です。以下の方法を参考に、予防に努めましょう。

適度な歩行や足の運動

血流を促し、血液の淀みを防ぐためには、適度な歩行や足の運動が大切です。早期にベッドから起き上がる早期離床や、寝たままでできる足首や足の指の運動を取り入れるとよいでしょう。これらの運動により、下肢の筋肉ポンプが働き、血液の流れをスムーズにします。

適度な水分補給

水分を十分に摂取することで、血液が濃くなるのを防ぎます。そのため脱水状態にならないよう、日常的に水を飲むことが大切です。ただし、カフェインを多く含むコーヒーや紅茶の飲み過ぎには注意が必要です。カフェインには利尿作用があり、逆に脱水状態を引き起こす可能性があります。

医療用弾性ストッキングの使用

医療用弾性ストッキングを着用することで、下肢の深部静脈の血流を速め、血栓の形成を予防します。長時間の座位が避けられない場合や、手術後の安静時におすすめです。

下肢間欠的圧迫装置の利用

下肢間欠的圧迫装置は血液の流れを促し、血栓のリスクを軽減します。下肢間欠的圧迫装置は、出血リスクが高いために抗凝固薬が使用できない患者さんに推奨されます。

抗凝固薬の使用

医師の指示に基づき、抗凝固薬の注射や内服を行うこともあります。これにより血液が固まりにくくなり、血栓の予防に役立ちます。具体的には、低用量の未分画ヘパリン(UFH)や低分子ヘパリン(LMWH)、フォンダパリヌクス、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)などが使用されます。

これらの予防策を組み合わせることで、深部静脈血栓症の発症リスクの低減が期待できます。リスクの高い方は、医師と相談しながら適切な予防策を取り入れることが重要です。 関連する病気

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