監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
多発性骨髄腫の概要
多発性骨髄腫は、骨髄にある形質細胞が「がん化」して異常細胞になる血液のがんです。形質細胞は、体内に入ってきた病原菌やウイルスに対する抗体を作る役割がありますが、この病気では異常細胞が大量に産生され、正常な血液細胞の生成を阻害します。代表的な症状として、造血機能の抑制・Mタンパクの増加・骨破壊があり、骨が脆くなって骨折、造血機能の抑制により貧血、腎機能障害などの症状が現れます。
多発性骨髄腫は比較的進行が緩やかで、初期には自覚症状が乏しい場合もあります。進行とともに高カルシウム血症や腎不全、貧血、骨病変などの症状が現れるため、定期的な検査で経過観察が必要です。
多発性骨髄腫の原因
多発性骨髄腫では形質細胞に遺伝子異常や染色体異常が見られますが、明確な原因はまだわかっていません。高齢になるほど発症率が増加しており、人口10万人に対して男性は6.6例、女性は5.5例と発症率は男性の方がやや高いです。発症原因として放射線被ばくの可能性が示唆されています。現時点では遺伝的要因はないと考えられていますが、20〜30%に染色体の異常が報告されています。これらの要因が組み合わさることで、骨髄中の形質細胞が「がん化」して多発性骨髄腫を発症する恐れがあります。
多発性骨髄腫の前兆や初期症状について
多発性骨髄腫の初期には自覚できる症状がほとんどなく、血液検査や尿検査で異常が判明する場合があります。進行すると貧血や骨折、骨の痛み、関節痛などがあらわれます。代表的な症状は以下の表の通りです。
原因 | 症状 |
---|---|
赤血球・白血球・血小板の減少 | 骨髄腫細胞による造血機能の抑制により、息切れ、動悸、倦怠感の症状が現れる。また、正常な抗体を生成できないため、細菌やウイルスに感染しやすくなる |
免疫機能低下 | 免疫が低下し、尿路感染症や肺炎になりやすくなる |
腎機能障害 アミロイドーシス |
Mタンパクの沈着による腎臓機能低下により、食欲不振・むくみ・尿量低下の症状が現れる。また、アミロイドの沈着によりさまざまな機能障害が現れる。 |
高カルシウム血症 病的骨折 |
骨髄腫細胞による破骨細胞の活性化により、カルシウムが血中に溶け出し、口喝・吐き気・嘔吐・食欲不振・倦怠感の症状や腰の骨折脊髄症状が現れる |
これらの症状がみられた場合、まずは貧血、骨折、腎不全などについて内科や整形外科で精密検査を行い、その後必要に応じ血液内科を受診することとなります。
多発性骨髄腫の検査・診断
多発性骨髄腫の診断には、血液・尿検査、骨髄検査、画像診断が用いられます。
血液検査
血液検査では、造血機能を調べるために赤血球・ヘモグロビン・白血球・血小板の数値を測定し、造血機能が低下しているとこれらの数値に異常が見られます。また、骨髄腫の進行や腎機能を調べる項目に、免疫グロブリン・Mタンパク・カルシウム・アルブミンなどがあります。骨髄腫が進行するとタンパク質が過剰に産生されるため、血液中のタンパク質濃度が高まり、多発性骨髄腫と判断されるのです。
尿検査
尿検査では、Mタンパク・クレアチニン・尿素窒素の量や腎機能の状態を測定します。通常では尿中にタンパク質が排出されることはありませんが、多発性骨髄腫ではMタンパクが沈着して腎臓の働きに影響するため、尿からタンパク質が検出されます。また、24時間の尿を集めてMタンパクを調べる全尿検査もあり、より正確な検査が可能です。
骨髄検査
骨髄検査では、骨髄穿刺(こつずいせんし)で採取した骨髄を顕微鏡で観察し、がん細胞の種類や悪性度を調べます。腸骨(骨盤の骨)から骨髄液を採取し、造血機能やがん細胞の有無などから治療の選択・効果判定をする検査方法です。検査部位には局所麻酔を行うため、痛みを最小限にし、患者さんの負担を抑えることができます。
画像診断
画像診断では、X線やMRI、CTなどを用いて行われます。X線検査で全身の骨病変や病的骨折の有無を調べ、より細かい病変やがん骨髄腫細胞の範囲を調べるためにCTやMRI検査が有用です。また、骨髄外の病変に対しては、PET検査(陽電子放出断層撮影法)を実施します。
多発性骨髄腫の治療
多発性骨髄腫は難治性の血液がんであり、完治より病状をコントロールすることが目標になります。進行は比較的緩やかで、無症候性多発性骨髄腫のように症状がない場合は、経過観察でフォローしていきます。症状が現れた際に抗がん剤による薬物療法や放射線療法、手術療法を併用していきます。
薬物療法
薬物療法は、がん細胞の増殖を抑え、再発や転移を防ぐ効果があります。薬物療法には化学療法やホルモン療法、分子標的療法などがあり、薬物の種類によってがん細胞に作用する手段が異なります。
放射線療法
放射線療法は、がん細胞に対して放射線を照射し治療を行います。骨髄腫細胞は正常細胞と比べて放射線の感受性が高く、腫瘍の縮小や疼痛緩和の目的で実施します。放射線の照射によって正常細胞も影響を受けますが、がん細胞ほどはダメージを受けません。放射線治療の時間は症状の程度によって変わってきますが、10〜30分が一般的です。ほとんどの方は通院して治療を受けられるため、仕事や趣味など日常生活を継続できるでしょう。
手術療法
手術療法とは、腫瘍ができた箇所や転移が疑われる箇所を切除する治療法です。がん細胞は周囲の組織に広がる浸潤性のものもあり、がん細胞を取り除くため、大きめに臓器を切除します。手術によって正常な臓器の機能を失いかねない場合、再建手術によって臓器の機能回復を目指します。
造血幹細胞移植
造血幹細胞移植は、抗がん剤や放射線治療の効果が出やすいがんに対して行われる治療です。治療から経過観察の流れは以下のようになります。
移植前処置(移植の約1週間前) | 大量化学療法、全身放射線治療などの治療 |
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輸注(移植当日) | 造血幹細胞が含まれる細胞液を点滴で注入(輸注) |
生着(移植後約10日〜2週間後) | 白血球(好中球)数が増え始め、3日続けて500/μL以上 |
退院(移植後約1〜3ヶ月後) | 再発や移植片対宿主病(GVHD)などの合併症に注意しながら定期的に通院 |
経過観察 | QOL(生活の質)を重視し、貧血や痛み、精神的な負担の緩和を治療 |
移植前の処置は、移植の当日約1週間前から実施されます。目的としては、がん細胞の働きを抑え込み腫瘍の縮小をすること、患者本人の免疫作用を抑制し造血幹細胞の拒絶反応を予防することです。この時期には、通常の数倍量の薬剤を投与する「大量化学療法」と患者さんの年齢や体の状態によって照射量を調整する「全身放射線治療」を併用します。
多発性骨髄腫になりやすい人・予防の方法
多発性骨髄腫の明確な原因はわかっていませんが、いくつかのリスク要因を紹介します。
多発性骨髄腫になりやすい人
まず、高齢者は多発性骨髄腫の発症リスクが高く、平均年齢66歳の高齢者に多く見られます。これは高齢化が影響していると言われていますが、稀に30〜40代の若い方も発病することがあります。
予防方法
多発性骨髄腫の効果的な予防法は分かっていません。ですが、定期的に健康診断を受け、早期に異常を発見することでスムーズに治療が開始できます。もし、検査で異常が見つかった場合は、放置せず精密検査を受けましょう。
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参考文献