脾臓損傷
吉川 博昭

監修医師
吉川 博昭(医師)

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医学博士。日本ペインクリニック学会専門医、日本麻酔科学会専門医・指導医。研究分野は、整形外科疾患の痛みに関する予防器具の開発・監修、産業医学とメンタルヘルス、痛みに関する診療全般。

脾臓損傷の概要

脾臓損傷は、腹部の左上に位置する脾臓が外傷によって損傷を受ける状態を指します。
脾臓は胃や左の腎臓に隣接し、体の免疫系に重要な役割を果たす臓器です。
高所からの転落や交通事故、刺創、銃創などで腹部や背中に強い外力が加わることが主な原因です。

脾臓損傷の主な症状として、左上腹部の強い痛みや吐き気、左肩への放散痛などが現れます。
損傷が重度の場合や脾臓が破裂した場合、大量出血によりショック状態におちいり、血圧低下や意識障害などが起こり、命の危険にさらされることがあります。

脾臓損傷の診断は、患者の重症度に応じて輸血などの治療をおこないながら、造影CT検査や超音波検査などの画像診断を実施します。
造影CT検査の結果は臓器損傷分類を用いて評価され、治療方針の決定に重要な役割を果たします。

造影CT検査で造影剤の漏出を認める場合や、輸血や止血術をしても血圧が安定しない場合は手術が検討されます。
手術では脾臓縫合術や部分的切除などで可能な限り脾臓を温存しますが、救命のために、脾臓の摘出が必要になることもあります。

脾臓損傷は手術をおこなわない場合でも、症状が一時的に落ち着いた後に破裂する危険性があるため、慎重な経過観察が重要です。
脾臓損傷の管理には、適切な診断と迅速な治療介入、継続的なモニタリングが不可欠になります。

脾臓損傷の原因

脾臓損傷の主な原因は外傷です。
高所からの転落や交通事故などで腹部や背中に強い衝撃を受けることで発生するケースが多く、特に左上腹部への直接的な打撃が発症リスクを高めます。

刺創や銃創などの穿通性外傷(せんつうせいがいしょう)も脾臓が損傷する可能性があります。
さらに間接的な原因として、事故などで左の肋骨が骨折し、折れた骨が脾臓を傷つけることで損傷するケースもあります。

脾臓損傷の前兆や初期症状について

脾臓損傷の初期症状として顕著に認められるのは、左上腹部の強い痛みです。
脾臓の腫れにより胃が圧迫されると、吐き気などの消化器症状も現れます。
周囲の神経が刺激されることで左肩に痛みが生じることもあります。
左側の肋骨骨折を合併しているケースも多く認められます。

脾臓の損傷が重度の場合、腹腔内出血により腹部膨満感や圧痛が生じます。
大量出血時には血圧低下が起こり、ふらつきや視界のかすみ、錯乱、意識消失などの症状が現れます。
これらの症状は急速に進行し、早期に適切な処置を受けないとショック状態におちいり、生命の危険につながる可能性があります。

脾臓損傷の検査・診断

脾臓損傷の診断は主に画像診断に基づいておこなわれます。
全身状態が比較的安定している場合は、造影CT検査が有用な診断ツールになります。
造影CT検査では、脾臓の損傷の程度や周囲の出血の有無のほかに、造影剤が血管外に漏れ出ている状況などを詳細に評価できます。

全身状態が不安定な場合は、ベッドサイドで迅速に実施できる腹部超音波検査が選択されます。
どちらの場合でも、左側の肋骨骨折がある場合は脾臓損傷のリスクが高いため、特に注意深い検査が必要です。

造影CT検査の結果は臓器損傷分類を用いて重症度が評価され、重症度に基づいて治療方針が決定されます。
血圧が安定せず、全身状態が極めて不安定な場合は、詳細な画像検査をおこなわずに緊急手術を始めることもあります。

脾臓損傷の治療

脾臓損傷の治療方針は、損傷の重症度に応じて決定されます。
軽度の損傷で出血が認められない場合は、経過観察が選択されることがあります。
しかし、症状が一時的に落ち着いたように見えても、後に破裂するリスクがあるため、慎重な観察が求められます。

造影CT検査によって造影剤が血管外に漏れ出したり、明らかな出血が確認されたりする場合は、輸血や経カテーテル動脈塞栓術がおこなわれます。
経カテーテル動脈塞栓術は血管内に塞栓物質を挿入して出血を止める方法で、脾機能を温存しながら止血できる方法になっています。

輸血や経カテーテル動脈塞栓術をおこなっても血圧が安定しない場合は、緊急開腹手術が検討されます。
手術では可能な限り脾臓を温存する方針が取られ、脾臓の縫合術や部分切除などが試みられます。

出血のコントロールが困難で生命の危険が差し迫っている場合は、最終手段として脾臓摘出術がおこなわれます。
脾臓の摘出は免疫機能の低下につながるため、可能な限り回避されますが、患者の生命を守るためには必要な処置になることがあります。

脾臓を摘出した後は、あらゆる疾患の感染リスクが高くなるため、肺炎球菌ワクチンや髄膜炎菌ワクチンの接種など、感染予防策を徹底する必要があります。

脾臓損傷になりやすい人・予防の方法

トラック運転手や高所作業者、ボクシングなどの激しい接触スポーツをおこなう選手などは、脾臓損傷のリスクが高くなる可能性があります。
転倒しやすい高齢者なども階段から転落することで外傷につながる可能性があるため、注意が必要です。

脾臓損傷の完全な予防法はありませんが、交通事故などの外傷を避けることが重要です。
自動車を運転する際は安全運転を心がけ、シートベルトの着用を徹底しましょう。
道路を歩いて渡るとき、もしくは自転車で通行する場合は必ず交通ルールを守ってください。
高所作業や激しいスポーツ活動をおこなう際は、適切な安全装備を使用し、十分な注意を払うことも重要です。


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