

監修医師:
長田 和義(医師)
目次 -INDEX-
肝内結石の概要
肝内結石は、肝臓内の胆管に結石が形成される疾患であり、胆石症の一種です。肝臓は消化液の一種である胆汁を産生し、胆汁は胆管といわれる管を流れて十二指腸まで運ばれます。胆管は部位によって名前が変わり、肝臓内の胆管を肝内胆管といいます。この胆管の中に結石が発生すると、さまざまな症状や合併症を引き起こします。肝内結石は、胆石症全体の中で発生頻度が低く、日本では比較的稀とされています。胆管結石には成分によっていくつかの種類があり、肝内結石はビリルビン結石やコレステロール結石が多いとされます。
肝内結石の原因
肝内結石の形成にはさまざまな因子が関与しており、以下の要因が主な原因として挙げられます。
- 胆汁うっ滞
胆汁の流れが滞る状態を、胆汁うっ滞といいます。胆汁が滞ることで、胆汁中の成分が沈殿しやすくなり、結石の形成につながります。胆汁うっ滞は、主に胆管の狭窄や閉塞が原因で起こります。 - 胆道感染
胆管内の細菌感染により、胆汁中のビリルビンが分解されて析出し、結石が形成されます。このような感染は、胆道狭窄・閉塞による胆汁うっ滞を起こしている場合、または内視鏡や手術などの治療後などで胆管に腸内細菌が逆流する状態になっている場合などで、発生しやすいと考えられます。 - 食生活や遺伝的要因
高脂肪・高コレステロールの食事を習慣的に摂取することは、胆汁中のコレステロール濃度を上昇させ、結石形成のリスクを増加させます。また、家族に胆石症の既往がある場合や特定の遺伝的背景を持つ場合、肝内結石が発生しやすいことも知られています。 - 胆管の解剖学的異常
先天的な胆管異常や胆道拡張症がある場合、肝内結石のリスクが高いことが報告されています。
肝内結石の前兆や初期症状について
肝内結石は無症状であることが多く、健康診断やほかの理由で行われた検査で偶然発見される場合がほとんどです。しかし、結石が大きくなったり慢性的な炎症で胆管が狭窄するようになると、以下のような症状や合併症が現れます。
肝内結石による症状
- 右上腹部痛: 肝臓のある部位に痛みを感じることが多く、特に食後に胆汁産生が増えることで痛みが増す傾向があります。
- 黄疸: 胆汁が正常に排出されなくなることで、ビリルビンが血液中に増加し、皮膚や眼球が黄色くなります。
肝内結石による合併症
- 胆管炎:結石により流れが滞った胆管に細菌感染がおき、発熱や腹痛、食欲低下などの症状を起こします。
- 肝膿瘍:胆管炎から肝臓の組織に感染がおよんで化膿し、肝臓の一部が壊死して膿が溜まった状態になります。
- 胆管癌:肝内結石による炎症が長期間続くことで、その部位の胆管に癌が発生する場合があります。
肝内結石の検査・診断
肝内結石の診断には、以下の検査が用いられます。
- 血液検査:肝機能や炎症反応、また腫瘍の存在が疑われる場合には腫瘍マーカーの検査が行われます。
- 腹部超音波検査:非侵襲的で安全な検査方法で、胆管の拡張や結石の有無を評価します。肝内結石を含む、肝臓や胆管についての初期スクリーニングや経過観察によく使用されます。ただし、肥満や消化管の影響でよく観察できない場合があります。
- CT検査:結石の位置や大きさ、胆管や肝臓内の詳細な構造を把握するために有用です。また、胆管炎や肝膿瘍などの合併症の評価にも用いられます。より詳細な評価を行う場合は、造影剤を注射して行う造影CTが用いられますが、造影剤に対するアレルギーや高度の腎機能障害がある人では、行えない場合があります。
- MRI検査(MRCP):胆管の詳細な構造を描出するのに適しています。非侵襲的であり、胆管狭窄や結石の評価に広く用いられています。ただし、ペースメーカーなどの体内金属がある人、安静が保てない人、閉所恐怖症の人などでは行えない場合があります。
- 内視鏡検査(ERCP):特殊な内視鏡を用いて、胆汁の出口である十二指腸乳頭から検査器具を胆管の中に挿入し、X線写真(レントゲン)と造影剤を使って胆管の走行や形を評価したり、胆管の組織を採取したりします。
肝内結石の治療
肝内結石の治療は、胆管と腸管と繋ぐ手術(胆道再建術)を受けているか否か、胆管癌の有無、結石の部位や大きさ、症状の有無などによって異なります。
保存的治療
胆道再建術を行っておらず、自覚症状や胆管の狭窄および上流の拡張がない場合には、保存的治療を行いながら経過観察となります。胆汁のうっ滞や胆汁内の固まりやすい成分を多くしないため、規則正しく3食摂取する、脂質の多い食事を避けるなどの工夫をしてもらいます。また、結石が溶けて小さくなることを期待して、ウルソデオキシコール酸の内服を行う場合もありますが、薬物療法の適応については、医師の専門的な判断が必要です。
内視鏡治療(ERCP)
内視鏡を用いたERCPという手法で、胆管内の結石を直接除去する方法が広く行われています。肝内胆管についてはその手前に胆管の狭窄がある場合が多く、内視鏡による結石除去は困難な場合も多いです。結石が大きいことで除去が困難な状況であれば、ERCPでさらに細い経口胆道鏡というスコープを胆管内に挿入し、衝撃波で結石を砕くEHLという治療を行うことで、除去可能になる場合があります。
胆管の狭窄により胆管炎を繰り返している場合は、ERCPで問題となっている胆管にプラスチック製のステントを入れ込んで、胆汁の流れを確保する治療を行う場合があります。このステントは後に詰まってしまうため、繰り返し交換することが必要です。ステントを入れておくことで狭窄が広がり、追加の治療が可能になる場合もあります。また、ERCPで胆管の組織や胆汁内の細胞を採取して、癌の有無を調べることも可能です。
特殊な結石除去法
皮膚から肝臓内の胆管を直接刺して長いチューブを入れ込み、定期的にチューブのサイズを大きくするように交換して十分な太さの瘻孔(管状の交通)を作り、そこから処置具や経口胆道鏡を入れて結石を除去するPTCSLと呼ばれる手法があります。近年では、超音波内視鏡を用いて胃から肝内胆管を刺して金属製のステントを埋め込み、そこから処置具を入れて結石を除去する方法も可能となっています。
結石が大きいために除去が困難な場合は、体外から衝撃波を当てて結石を破砕するESWLという方法が有効な場合があります。ESWLを行うためには、あらかじめ内視鏡で腸管から、または皮膚からの穿刺で標的の胆管にチューブを留置し、体外までチューブを出して胆管を造影できる状態にしておく必要があります。これらの手法は、結石のサイズや部位、胆管の拡張の有無や走行などの条件によって、適応できる場合とできない場合があり、高度に専門的な判断が必要です。
外科的治療(手術)
肝内結石と胆管の狭窄があり、その部分の肝臓が萎縮している(小さくなっている)場合、胆管癌が発生するリスクがあり、しかも肝内胆管癌は早期診断や進行した場合に完治させることが難しいため、あらかじめ肝臓の一部を切除する手術が行われます。ただし、手術は侵襲が大きいため、高齢や全身状態不良、また切り取らずに残せる肝臓の大きさや機能が足りない状況など、手術が行えない場合があります。
肝内結石になりやすい人・予防の方法
以下のような要因を持つ人は肝内結石のリスクが高いと考えられ、食生活や体重に問題がある場合は、それらの改善が望まれます。
胆管の異常や治療後の影響がある人は、定期的に診療を受けることで問題の早期発見・早期治療をすることが望まれます。
- 高脂肪・高コレステロールの食事を摂る習慣がある人。
- 肥満や運動不足の人。
- 胆道感染や胆石症の既往がある人。
- 胆管の解剖学的異常を持つ人や、胆管と消化管を繋ぐ手術が行われた人。
関連する病気
- 胆管炎
- 肝外結石
- 胆汁うっ滞
- 胆管癌