転移性肝がん

監修医師：
伊藤 喜介（医師）

転移性肝がんの概要

肝臓は腹腔内にある最も大きな臓器で、血液の流れが豊富な臓器となります。その肝臓の細胞ががん化したものを肝臓がん（肝細胞がん、肝内胆管がん）といいます。一方で、転移性肝腫瘍とは、肝臓以外の臓器で発生した腫瘍（特にがん）の細胞が血液の流れに乗って肝臓にたどりつき、細胞が定着し、増殖することで発生します。
もともとの腫瘍と同時に見つかることもありますが、手術などの治療後や、抗がん剤などでの治療中に転移がみつかることもあります。
また転移性肝腫瘍は肝臓がんとは異なり、もともとの腫瘍（原発巣）の特徴をもっています。そのため、治療についても原発巣の治療に基づいて選択していく必要があります。転移性肝腫瘍の治療や予後を考えるにあたってはその原因となる腫瘍の特徴や治療指針、予後などを考えなければいけません。

転移性肝がんの原因

ほぼすべてのがんや一部の腫瘍は肝臓に転移を起こす可能性があります。原発巣となりうるいくつかの例を紹介していきます。

• 消化器がん：大腸がん、胃がん、食道がん、膵がん、など
• 呼吸器がん：肺がん、など
• 泌尿器がん：腎がん、膀胱がん、前立腺がん、など
• 婦人科がん：子宮がん、卵巣がん
• 乳がん
• 皮膚がん：悪性黒色腫（メラノーマ）、など
• 神経内分泌腫瘍
• 消化管間質腫瘍（GIST）

このように、さまざまな臓器にできた腫瘍が肝臓に転移しうることがわかっています。いずれの腫瘍でも、肝臓への転移は遠隔転移となるためステージ4となります。

転移性肝がんの前兆や初期症状について

転移性肝腫瘍では腫瘍による初期症状はとくに見られないことが多いです。一方で、がんの非特異的症状である体重減少や食欲不振、また原発巣に伴う症状（例：大腸がんによる黒色便、乳がんによるしこり、など）が生じることがあります。
また、腫瘍が大きくなってくると体外からでも肝臓のしこりを触れるようになったり、腫瘍が胆管を閉塞することで黄疸を起こしたりすることがあります。

診療科は消化器内科となります。

転移性肝がんの検査・診断

転移性肝腫瘍を疑った場合は次のような検査を行い診断をつけていきます。

採血

CEAなどといった腫瘍マーカーの値は進行度や治療効果を把握する一助となる場合があります。そのため、それぞれの原発巣に特徴的な腫瘍マーカーを測定します。
また、肝機能（AST、ALT）検査も行われますが、特徴的な所見ではありません。治療として肝切除術が検討される腫瘍である場合には切除に耐えれるかどうかを調べるために詳細な検査を行うこともあります。

腹部超音波検査

診察室で簡易的に行うことができる検査です。肝臓にある腫瘍の大きさ、個数などを確認することができます。また、原発性肝腫瘍と区別できる場合があります。より診断能力に優れているCTやMRIを続けて行っていきます。

腹部造影CT検査

腹部造影CT検査では腫瘍の場所、大きさ、個数、血管や胆管などとの関連性を調べることができます。これらは治療方針を決定するために重要な要素となります。また、原発巣や腹膜、肺、リンパ節などへの転移も確認することができます。

腹部造影MRI検査

EOB・プリモビスト造影剤を用いてMRI検査を行うことで、腫瘍の場所、大きさ、個数、血管や胆管などとの関連性を調べることができます。CT検査ではわからない腫瘍も描出できることがあるため、CT検査だけでなく併用することが望まれます。

PET-CT検査

放射性フッ素と付加したブドウ糖液を注射して撮影するCT検査となります。ブドウ糖ががん細胞に多く取り込まれることを利用して、がんの広がりを確認することができます。CTやMRI検査だけでは評価できない場合や、手術を目的としてほかの臓器に転移がないことを確認するために用いられます。

転移性肝がんの治療

転移性肝腫瘍の治療はその原発巣によって異なります。大腸がん、神経内分泌腫瘍、その他のがん・腫瘍に分けて説明していきます。

大腸がん肝転移の治療

転移性肝腫瘍の中で最も多くみられる原因が大腸がんとなります。大腸がんの肝転移に対してはほかの臓器に転移がなく、肝切除可能な場合（がんをすべて取り切れる場合）に対しては肝切除術が推奨されています。
手術では腫瘍に肝臓の一部をつけて取り除く肝部分切除術から、肝臓の半分以上を取り除くような右（左）葉切除術などを腫瘍の分布と肝臓の機能を考慮して選択していきます。近年では腹腔鏡下手術やロボット手術も適応となってきており、より低侵襲な手術を選択できるようになってきました。

一方で、手術で切除できないと判断された場合には抗がん剤治療の対象となります。大腸がんのガイドラインに沿った治療選択を行っていきます。

このように、転移の個数や場所によって治療方針が異なりますが、抗がん剤と手術を組み合わせて治療を計画していく必要がありますので、治療方針の決定には慎重な検討が必要となります。

また、肝切除後に再度肝臓に転移性腫瘍ができることがありますが、大腸がんの転移については再度手術を行うことが検討されます。

神経内分泌腫瘍肝転移の治療

神経内分泌腫瘍とは、ホルモンなどの物質を分泌する役割がある神経内分泌細胞から発生した腫瘍のことを指します。この腫瘍は全身に発生する可能性がありますが、特に消化管に多くみられ、転移する場合は肝臓が多いことが分かっています。
神経内分泌腫瘍肝転移に対しても大腸癌と同様に、ほかの臓器に転移がなく、肝切除が可能と判断された場合には肝切除術が行われます。
切除不能と判断された場合には、抗がん剤、ホルモン療法などの一般的な神経内分泌腫瘍の治療を選択することとなります。

その他のがん・腫瘍の肝転移の治療

胃がん、肺がん、乳がん、GISTなどの肝転移に対しては原則手術を行うことはなく、それぞれの病気の治療方針に準じて抗がん剤、ホルモン剤、放射線治療などの治療を行うこととなります。
病変が肝臓のみであり抗がん剤が効かない場合や、肝腫瘍による症状が強い場合などでは、十分な治療効果の検討を行ったのちに手術を選択することがあります。ただし、この手術については標準治療ではないため注意が必要です。

転移性肝がんになりやすい人・予防の方法

転移性肝腫瘍になりやすい人はもちろん、転移する可能性のあるがんや腫瘍を持つ方となります。特に進行した状態で見つかっている方は早期に発見された方に比べて肝臓に転移するリスクは高くなります。

そのため、がんの治療中や切除後の経過観察中の方は、定期的な画像検査によって転移の有無を確かめていく必要があります。それぞれのがんにおいて検査の頻度や経過観察期間の推奨がありますので、それに沿った形でのフォローアップが必要となります。
また、何よりも原発がんを早期に発見することが重要な要素となります。定期的な検診を受診することで、早期の段階でがんを発見、治療することは、最終的に転移性肝腫瘍を引き起こす可能性を低下させることができます。