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肝臓損傷
伊藤 喜介

監修医師
伊藤 喜介(医師)

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名古屋卒業後、総合病院、大学病院で経験を積む。現在は外科医をしながら、地域医療に従事もしている。診療科目は消化器外科、消化器内科。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医・消化器がん外科治療認定医、日本消化器病学会専門医、日本腹部救急医学会認定医、がん治療認定医。

肝臓損傷の概要

肝臓損傷とは、胸部や腹部の鈍的な外傷によって肝臓が損傷してしまうことを指します。 肝臓が損傷を受けると肝臓の組織の挫滅と出血が起こります。肝臓を覆っている被膜が破れてしまうような強い外傷を受けてしまった場合には腹腔内に血が漏れ出し腹腔内出血をきたします。出血量が多くなると出血性ショックとなり、重篤な状態になる場合もあります。 また、肝臓損傷をおこすような強い外傷においては、骨折、気胸、ほかの腹腔内臓器の損傷を伴っていることが多いため、総合的な治療を要します。

日本外傷学会の肝損傷分類2008によると肝臓損傷は損傷の程度によりⅠ型からⅢ型のグレードに分けられます。

Ⅰ型肝損傷:被膜下損傷 肝臓の被膜が保たれているような損傷を指します。Ⅰ型肝損傷はさらに、被膜直下に損傷部位や血腫があるⅠa型(皮膜下血腫)と、肝臓(実質)内に損傷部位や血腫があるⅠb型(実質内血腫)に分類されます。

Ⅱ型肝損傷:表在性損傷 肝臓の被膜まで障害されているような損傷を指します。被膜に加えて、肝実質の損傷も起こりますが、3㎝未満の場合に表在性損傷と分類されます。被膜が損傷しているため、腹腔内出血を引き起こしていることが多く、早期の治療を要することが多くなります。

Ⅲ型肝損傷:深在性損傷 肝臓損傷のうち最も重篤なものとなります。Ⅱ型と同じように、 肝被膜と肝実質に損傷を認めますが、肝実質損傷の深さが3cm以上のものが深在性損傷となります。Ⅲ型肝損傷はさらに損傷部位が比較的整っているⅢa型(単純深在性損傷)と損傷部位が複雑で広範囲に損傷が認められるⅢb型(複雑深在性損傷)に分類されます。

肝臓損傷の原因

肝臓損傷の原因は胸腹部の鈍的外傷です。 外傷の受傷起点としては

  • 交通事故
  • 転落
  • 外傷(殴られるなど)
が考えられます。 特段な外傷がなく生活をしていて、突然肝臓損傷が起こるということはありません。

肝臓損傷の前兆や初期症状について

肝臓損傷では次のような症状が見られます。

  • 腹痛 肝臓がある右上腹部を中心とした痛みや圧痛が生じます。
  • 出血性ショック 損傷の程度が激しい場合は肝臓から腹腔内に持続的な出血を起こします。全身をめぐる血液が失われることにより、血圧低下、顔面蒼白、冷汗、脈の減弱、意識障害、呼吸不全などのショック症状を引き起こします。
  • このような症状が見られた場合には命に関わるような重篤な状態と考えられ、早期治療介入が必要となります。受診すべき診療科は消化器内科または消化器外科です。

    肝臓損傷の検査・診断

    肝臓損傷が疑われるような外傷の患者さんでは以下のような検査を行い診断をつけていきます。

    血液検査

    血液検査ではヘモグロビン、肝酵素(ALT、AST)、クレアチニン、電解質、凝固機能、血液ガスなどをチェックします。

    腹部エコー検査

    診察室や救急室で簡易的に行うことができる検査です。肝臓周囲(肝腎境界)、脾臓周囲(脾腎境界)、ダグラス窩に血液が貯留しているかどうかを確認します。肝臓実質の損傷まで確認することもできますが、持続的に出血している可能性もあるため深追いをせず後述するCT検査を行うこととなります。

    腹部造影CT検査

    造影剤を用いてCT検査を行います。動脈相、(門脈相、)平衡相の 2相あるいは3相で撮影するダイナミックCT検査を行うことが好ましいです。腹腔内への出血、肝臓の損傷の状態、アクティブな出血、仮性動脈瘤、動静脈瘻があるかどうかなどを行うことができます。

    また、肝臓損傷を引き起こすような外傷では、腸間膜、膵臓、腎臓脾臓などといったほかの腹腔内臓器にも損傷を認めることが多いため、それらの損傷の有無も同時に確認を行います。

    肝臓損傷の治療

    肝臓損傷の治療は保存療法肝動脈塞栓術手術療法の3つに分けられます。損傷の程度や、循環動態の安定性によって治療法を選択していきます。それぞれの治療、合併症について説明していきます。

    保存療法

    循環動態が安定しており、造影CT検査で活動性出血、仮性動脈瘤、動静脈瘻がみられない患者さんに対しては安静、点滴、輸血等によって保存的に治療してきます。入院後は定期的にCT検査などを行い、出血が持続していないか、損傷に付随した新たな所見が見られないかを確認していきます。

    肝動脈塞栓術(TAE:transcatheter arterial embolization)

    造影CT検査で活動性出血、仮性動脈瘤、動静脈瘻がみられる患者さんで、循環動態がある程度安定している患者さんに対して行います。太ももの大腿動脈などからカテーテルを挿入して出血している血管にコイル等を詰めることで止血を得る方法となります。

    手術療法

    重度の出血性ショックを起こしているなどの循環動態が不安定な場合には、開腹手術によって止血をこころみます。出血している血管を止血したり、損傷した肝臓を直接縫い合わせて止血したりするなどの処置を行うこととなります。 緊急手術に至る患者さんの中には循環動態が安定しておらず、早期に止血を得る必要がある場合があります。そのような場合には、肝臓の周りにガーゼなどを詰めて圧迫して止血し、一旦おなかを仮閉鎖するダメージコントロール手術(DCS:Damage Control Surgery)を行うことが多いです。DCS後は、集中治療管理を行い点滴や輸血などで全身状態を整えます。全身状態が少しでも安定したところで再度開腹手術を行い止血処置を行っていきます。

    治療後の合併症

    肝臓損傷はいずれの治療後にも合併症や遅発性の変化が発生する場合があります。そのため1回の治療だけで終わることなく、複数回の治療介入が必要となることもあります。一部の病態を説明していきます。

    胆汁漏・胆汁腫(バイローマ) 肝臓が損傷した際に肝臓の中にある胆管も同時にちぎれてしまうと胆管から胆汁が漏れ出します。腹腔内に漏れ出すものを胆汁漏、肝臓内や被膜下に貯まるものを胆汁腫と呼びます。

    肝細胞壊死・肝膿瘍 肝臓の血管が障害を受けたり、塞栓術を行ったりすると肝臓の一部に血流が流れなくなります。肝細胞は壊死してしまい、感染を伴った場合には膿瘍を形成します。

    仮性動脈瘤・動静脈瘻 血管の内側の壁が破綻し、外側の壁のみでささえられてこぶ状になっているものを仮性動脈瘤と呼びます。また、破綻した動脈から静脈に直接血液が流れてしまうことを動静脈瘻と呼びます。いずれも出血のリスクがあるため、血管内治療を要することが多いです。

    肝臓損傷になりやすい人・予防の方法

    肝臓損傷は鈍的外傷が原因となります。事故を防ぐことは肝臓損傷を防ぐ大きな要因となります。一方で事故が起こってしまった際に、症状が弱いからといって放置することは肝臓損傷だけでなくほかの損傷も見つからなくなってしまいます。強い外傷を受けた際には病院を受診し、検査を受けることが重要となります。

    関連する病気

    参考文献

    • 日本外傷学会臓器損傷分類2008
    • 標準外科学
    • 肝外傷に対するIVRのガイドライン2016

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