

監修医師:
前田 広太郎(医師)
自己免疫性膵炎の概要
自己免疫性膵炎は、リンパ球と形質細胞の高度な浸潤を線維化が特徴で、しばしば閉塞性黄疸で発症し、時に膵腫瘤を形成する特有の膵炎です。1型と2型に病型が分類され、本邦では1型が多く、IgG4関連疾患の膵病変とされます。特異的な症状はなく、無症状か、腹痛もしくは背部痛を認める程度です。閉塞性黄疸や糖尿病など、随伴する膵外病変による症状を呈することがあります。腹部超音波検査、CT検査、MRI検査などの膵画像検査では、びまん性あるいは限局性膵腫大や膵腫瘤を指摘され発見されることが多いです。ステロイド治療に劇的に反応することが特徴ですが、再燃率も高く、ステロイド投与の維持や長期投与が行われます。
自己免疫性膵炎の原因
原因は不明ですが、高ガンマグロブリン血症、高IgG血症、高IgG4血症や自己抗体の存在、ステロイド反応性などから、自己免疫機序の関与が考えられています。血清 IgG4 の上昇とIgG4 陽性形質細胞の著しい浸潤を伴う膵外病変(硬化性胆管炎、硬化性唾液腺炎、後腹膜線維症、腹腔・肺門リンパ腺腫大、慢性甲状腺炎、間質性腎炎など)が特徴的で、1型自己免疫性膵炎は IgG4関連疾患の膵病変と考えられています。
自己免疫性膵炎の前兆や初期症状について
1型自己免疫性膵炎に特徴的な症状はありません。無症状か、腹痛もしくは背部痛を認める程度です。腹痛はあっても軽度であることが多いです。他に食思不振、全身倦怠感、便通異常があります。膵外病変をしばしば合併するため、その症状が出現することがあります。半数以上の症例で合併する硬化性胆管炎による閉塞性黄疸は33~59%と最も多いとされます。硬化性涙腺・唾液腺炎では口腔乾燥や眼球乾燥感が認められることがあります。糖尿病を合併した場合、多飲多尿や倦怠感を認めます。一方、2型自己免疫性膵炎では、急性膵炎の様な症状を認めることがあります。自己免疫性膵炎が発見されるきっかけとしては、自覚的には軽度の腹痛、全身倦怠感、黄疸、口渇を契機に受診されることが多いとされます。
自己免疫性膵炎の検査・診断
自己免疫性膵炎に特異的な検査所見はありませんが、血液検査で胆道系酵素上昇(60~82%)、総ビリルビン上昇(39~62%)が多いです。膵酵素の上昇(36~64%)は、他の膵炎とは異なり、異常高値になることは少ないです。高IgG4血症(62~92%)は、最も診断価値が高いですが疾患に特異的ではありません。時にCA19-9高値や、高ガンマグロブリン血症、高IgG血症、高IgE血症、抗核抗体、リウマトイド因子、抗カルボニックアンヒドラーゼⅡ抗体、抗ラクトフェリン抗体などが認められます。1型自己免疫性膵炎では約80%に膵外分泌障害、約70%に膵内分泌障害(糖尿病)を合併します。
腹部超音波検査ではソーセージ様の膵びまん性腫大が特異度の高い所見です。胆管壁肥厚(38~94%)や胆嚢壁肥厚(52~56%)を認めることがあります。膵癌との鑑別が重要であり、造影超音波検査が施行されることがあります。
CTでは、びまん性あるいは限局性の膵腫大を認めます。ダイナミックCTでは被膜様構造もしくは均一な遅延性濃染を認めれば自己免疫性膵炎である可能性が高く、疾患特異的な所見です。
MRIや、ダイナミックMRIで特定の造影パターンを示したり、ガリウムシンチグラフィ、FDG-PETで病変に集積を認めることがあります。
ERP(内視鏡的逆行性膵管造影)では、特徴的な膵管狭細像が主膵管にびまん性、あるいは限局性に認められます。ERC(内視鏡的逆行性胆管造影)では胆管狭窄を伴うことがあります。
超音波内視鏡下で穿刺吸引・生検を行い病理診断をする場合があります。IgG4関連疾患において、本邦や国際コンセンサス診断基準では、3 つ以上の特徴的な病変が認められれば、病理所見のみで診断が確定します。
最終的には、悪性疾患の否定を行い、画像所見、血液所見、病理所見、膵外病変、ステロイドに対する反応性などにより総合的に診断します。
自己免疫性膵炎の治療
ステロイドによる治療が奏功しますが、一部の自己免疫性膵炎は自然軽快する例も報告されています。胆管狭窄による閉塞性黄疸、腹痛や背部痛を有する場合、膵外病変を合併する場合はステロイド治療の適応となります。また、閉塞性黄疸に対する胆道ドレナージを行ったり、糖尿病合併例では血糖コントロールを開始します。ステロイド治療による寛解率は98%程度です。高用量プレドニゾロンの内服を開始し、2~4週間の継続投与後に漸減します。臨床症状に応じて、1~2週毎に減量します。再燃予防目的に、維持量として低用量プレドニゾロンの内服を継続することが多いです。完全寛解が得られた例では3年程度でステロイド投与を終了することもありますが、再燃も少なくないことからコンセンサスは得られていません。再燃した場合はステロイド治療の再導入や、初回投与量への増量を行います。
自己免疫性膵炎になりやすい人・予防の方法
発症年齢の平均は68歳で高齢者に多く、男性に多い(男女比3:1)とされます。予防の方法は確立されていません。腹部超音波検査は腹部症状を有する患者に対して行う画像診断であり、自己免疫性膵炎が発見されるきっかけになることが多いです。また、検診や人間ドックなどで自己免疫性膵炎が発見されることも報告されています。定期的な画像検査や血液検査を受けることで、早期発見される場合があります。
参考文献
- 日本膵臓学会・厚生労働省 IgG4 関連疾患の 診断基準並びに治療指針を目指す研究班.自己免疫性膵炎診療ガイドライン 2020. 膵臓 35:465~550,2020 3:465
- Up to date:Autoimmune pancreatitis: Clinical manifestations and diagnosis
- Up to date:Autoimmune pancreatitis: Management




