

監修医師:
大坂 貴史(医師)
肝膿瘍の概要
肝膿瘍とは、肝臓に膿がたまる病気のことを指します。膿とは、細菌や寄生虫などの感染によって白血球が集まり、組織が破壊されて生じたものです。肝臓は体の解毒作用を担う重要な臓器であり、血液の流れが豊富なため、感染症が広がりやすい環境にあります。そのため、何らかの原因で細菌や寄生虫が肝臓に侵入すると、炎症が起こり、膿がたまることがあります。
肝膿瘍は、大きく分けて細菌感染による「化膿性肝膿瘍」と、寄生虫の一種であるアメーバが原因となる「アメーバ性肝膿瘍」の2種類に分類されます。化膿性肝膿瘍は胆嚢炎や胆管炎などの消化器系の感染症が原因となることが多く、一方でアメーバ性肝膿瘍は、主にアメーバ赤痢という感染症に関連して発生します。
発熱や倦怠感、右上腹部の痛みなどの症状が現れることが特徴です。放置すると膿が破裂し、腹膜炎や敗血症といった命に関わる合併症を引き起こす可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。適切な抗生物質や、場合によっては膿を排出する処置を行うことで、多くの患者は回復が見込めます。
肝膿瘍の原因
肝膿瘍の原因として、主に細菌や寄生虫による感染が挙げられます。細菌による肝膿瘍(化膿性肝膿瘍)は、胆管や腸管、血液を通じて細菌が肝臓に侵入し、炎症を引き起こすことで発症します。特に胆管炎や胆石症、胆道がんなどの胆道系疾患を持つ人は、細菌が胆管を通じて肝臓に到達しやすく、肝膿瘍のリスクが高くなります。また、虫垂炎や大腸憩室炎などの消化器系の炎症が原因となることもあります。これらの病気によって腸管の細菌が血流に入り込み、肝臓へ運ばれることで感染が広がります。
一方、アメーバ性肝膿瘍は、腸管に寄生する「赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)」が原因で発症します。この寄生虫は、感染者の便を介して口から体内に入り込み、腸で増殖した後、血流を通じて肝臓に達します。アメーバは肝細胞を破壊しながら増殖し、膿瘍を形成します。発展途上国や衛生環境が整っていない地域で感染することが多く、日本国内では海外渡航歴のある人に発症しやすい傾向があります。
肝膿瘍の前兆や初期症状について
肝膿瘍の初期症状は、発熱や倦怠感などの全身症状から始まることが多く、風邪のような体調不良と勘違いされることがあります。特に、38〜40℃の高熱が続き、悪寒や震えを伴うことが特徴です。感染によって体が炎症反応を起こしているため、食欲不振や吐き気、体のだるさを感じることもあります。
進行すると、右上腹部に痛みが現れます。これは、肝臓が炎症によって腫れ、周囲の組織を圧迫することで生じるものです。痛みは持続的で、体を動かすと悪化することがあります。また、右肩や背中にまで痛みが広がることもあり、肝臓が原因だと気づきにくいことがあります。
アメーバ性肝膿瘍では、症状がゆっくりと進行することが多く、長期間の体調不良や軽度の発熱が続くことが特徴です。一方で、化膿性肝膿瘍は急激に症状が悪化しやすく、放置すると敗血症を引き起こすこともあるため、早期の対応が重要です。
肝膿瘍の検査・診断
肝膿瘍の診断には、まず血液検査が行われます。炎症が起きている場合、白血球の増加やCRP(C反応性タンパク)の上昇がみられます。また、肝機能に異常がないかを調べるためにAST(GOT)やALT(GPT)、ビリルビンなどの値も測定されます。
画像検査としては、腹部超音波検査(エコー)やCT検査が有効です。超音波検査では、肝臓内の膿瘍の有無を確認することができます。CT検査では、膿瘍の位置や大きさ、数をより詳細に評価できるため、診断の精度が高まります。MRI検査が必要になることもあり、特に肝膿瘍と他の肝疾患(肝腫瘍など)を区別するために有用です。
さらに、膿の原因を特定するために、細菌培養検査やアメーバ抗体検査が行われることがあります。膿のサンプルを採取し、培養して原因菌を特定することで、適切な抗生物質の選択につなげます。
肝膿瘍の治療
肝膿瘍の治療は、感染の原因に応じて異なります。細菌が原因の化膿性肝膿瘍では、抗生物質の投与が基本となります。治療初期は点滴で抗生物質を投与し、症状が改善したら経口薬に切り替えます。治療期間は数週間から数カ月に及ぶこともあり、完治するまでしっかりと抗菌薬を続けることが重要です。
膿の量が多い場合や抗生物質のみでは治療が難しい場合には、膿を体外へ排出する「ドレナージ(排膿)」という処置が行われます。これは、皮膚に針を刺して膿を抜き取る方法で、超音波やCTを使って正確な位置を確認しながら行われます。
アメーバ性肝膿瘍では、抗生物質ではなく、アメーバを殺す薬(メトロニダゾールなど)が使用されます。多くの場合、薬の投与のみで治癒しますが、膿が大きい場合には排膿処置が必要になることもあります。
肝膿瘍になりやすい人・予防の方法
肝膿瘍は、胆道疾患や消化器疾患を持っている人、高齢者、免疫力が低下している人に発症しやすいとされています。糖尿病の人は感染症にかかりやすく、肝膿瘍のリスクが高まることが知られています。また、アメーバ性肝膿瘍は、発展途上国での感染が多いため、衛生状態の悪い地域へ渡航する際には十分な注意が必要です。
予防のためには、胆嚢や消化器の病気を適切に治療し、感染症を防ぐことが重要です。特に、手洗いや食事の衛生管理を徹底し、感染リスクを減らすことが効果的です。また、発熱や腹痛などの症状が長引く場合は、早めに医療機関を受診し、適切な診断を受けることが大切です。




