監修医師:
岡本 彩那(淀川キリスト教病院)
胆石症の概要
胆石症とは、胆管とよばれる胆汁の流れ道に石(胆石)ができる病気のことです。
胆石が存在する部位によって3つに分類されます。胆嚢(たんのう)の中にあれば「胆嚢結石」、肝臓外の胆管にあれば「総胆管結石」、肝臓の中にあれば「肝内結石」と呼ばれます。胆石症のうち約80%は胆嚢結石であり、総胆管結石は約20%、肝内結石は約2%といわれています。
胆石症になっても、胆嚢結石では8割、総胆管結石では2〜3割の人は自覚症状がない無症状胆石です。無症状胆石の場合はがんが疑われる所見がなければ経過観察となるケースが多いですが、症状がない場合でも胆石が胆管に落ちてしまい、総胆管結石を発症した場合は残りの石も落ちてしまう可能性があるため手術の適応となります。
一方で総胆管結石は腹痛や胆管炎などの炎症を起こすことがあり、胆管炎は重症化することもあるため、主に内視鏡による治療が行われます。
肝内結石は、胆管炎、総胆管結石、胆管癌などを発症するリスクがあるため基本的に内視鏡治療の適応となります。内視鏡治療が困難であった場合、状況に応じて外科手術が検討されます。
胆嚢がんの約70〜90%に胆石が合併しているといわれています。胆嚢結石と診断された場合には、がんの合併がないか評価することが重要です。また胆嚢がんでない場合も、定期的に経過を見ていく必要があります。
胆石症の原因
胆石は胆汁に含まれる成分が固まることが原因で生じます。石の成分の違いでコレステロール胆石、色素胆石、まれな胆石の3つに分けられます。コレステロール胆石は、胆汁に含まれるコレステロール濃度が高いときに作られます。色素胆石はビリルビンカルシウムと呼ばれる胆石が多く、胆汁に細菌が感染する胆道感染が原因といわれています。
胆石が作られやすい胆汁となる原因としては、高カロリーな食事や動物性脂肪のとりすぎ、脂質異常症、肥満、急激な体重減少などがあります。
またホルモン補充療法や妊娠、長期間の経口避妊薬の使用、絶食、胃を切除した後も胆石ができやすくなるといわれています。
胆石症の前兆や初期症状について
胆石症は、胆石がある場所によって出現する症状が異なります。
胆嚢結石
胆嚢(たんのう)結石では約8割の人は自覚症状がありません。症状としては右肋骨下の痛みや違和感があります。
胆嚢の出口に胆石が引っかかることによる発作が起こると、みぞおちに激しい腹痛が起こることが特徴です。発作時には約60%において右の肩甲骨から肩にかけて痛みを生じ、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
このような発作は脂肪分の多い食事をとった後の数時間以内に起こることが多いです。
胆嚢は胆汁と呼ばれる脂肪の消化を助ける消化液を貯める役割があります。脂肪を多く含む食事をとると、胆嚢が縮むことで石で詰まっている部分に圧がかかり痛みを生じます。
また胆嚢の出口を胆石がふさぐことにより、胆嚢内に淀みができ、細菌感染を起こすことがあります。胆嚢炎になった場合は痛み以外に発熱や黄疸などの症状が出ることがあります。
さらに、胆嚢の出口付近に石が詰まってしまった場合、胆管も圧迫して塞いでしまうことがあります。その場合は感染、肝機能障害、胆管炎などを起こすことがあります。
総胆管結石
総胆管結石の症状は腹痛や背部痛、発熱、白目や皮膚が黄色くなる黄疸(おうだん)、吐き気・嘔吐などが挙げられます。一方で約2〜3割の人は自覚症状がありません。
黄疸は胆石が胆汁の流れ道を塞ぎ、胆汁の流れが悪くなることで起こります。胆汁は通常便と混じって体の外へでていきますが、胆石により胆汁の流れがせき止められると血液中に入るようになり、血液中のビリルビン濃度が上がります。
ビリルビンは黄色い色素をもつため、皮膚や目などの粘膜に張りつくと黄色く見えるようになります。また黄疸になると皮膚にかゆみが出たり、褐色から黒色の尿(ビリルビン尿)が出たりします。
また胆汁の流れが停滞したままの状態が続くと肝障害や急性胆管炎による発熱、膵液の流れが滞ると急性膵炎を合併するリスクがあります。
胆管と膵臓の消化液を流す管(膵管)は出口が同じため、出口付近で石が詰まると膵液の流れも塞いでしまい、膵炎を起こすことがあります。膵炎は腹痛、背部痛などを起こし、お腹全体に炎症を引き起こします。いわばお腹の中の大やけどのようなもので、重症であれば命にかかわることもあります。
肝内結石
肝内結石の症状は、腹痛や発熱、黄疸があります。いずれも胆汁の流れが滞ることで起こる胆管炎症状が多いですが、無症状の場合もあります。
胆石症の検査・診断
胆石症を疑われた場合は、腹部超音波検査、CT(コンピューター断層法)、MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮像法)、EUS(超音波内視鏡検査)などの画像診断検査がおこなわれます。胆石がある場所に合わせて検査を使い分け、胆石症を診断していきます。
腹部超音波検査
お腹の上からプローブと呼ばれる装置を当てて、お腹の中の画像を映し出す検査です。胆嚢(たんのう)や胆管の中にある胆石(胆嚢結石)を見つけることができます。同時に胆嚢炎が起こっているかどうかもわかります。腹部超音波検査で結石がはっきりしない場合は、CTやMRCPをおこなっていきます。
CT (コンピューター断層法)
X線を利用して腹部内を画像として表示する検査です。必要に応じて造影剤を使うこともあります。
MRCP (磁気共鳴胆管膵管撮像法)
磁力を利用して胆管・胆嚢・膵管(すいかん)の画像を同時に映し出す検査です。MRIとよばれる筒状の装置のなかに入って検査をおこないます。X腺の被爆がなく負担は少ない検査ですが、閉所恐怖症や刺青、体内に金属が入っている方は受けられない場合があります。
EUS (超音波内視鏡検査)
超音波装置がついた内視鏡を口から挿入し胃や十二指腸の壁を通して、胆石の有無や胆嚢・胆管の壁に異常がないかを調べる検査です。特に小さな結石や十二指腸乳頭付近の結石の診断にはEUSが有効とされていますが、他の画像検査で診断がついた場合は実施しないことも多いです。
胆石症の治療
胆石症は、胆石の大きさやできている場所によって治療法が異なります。
胆嚢結石
胆嚢(たんのう)がんの合併がなく、症状もない場合は、経過観察することが多いです。
胆嚢結石で何らかの症状がある場合は、手術による治療を行います。石だけを取り除いても、胆嚢内に繰り返し胆石ができる可能性があるため、胆石と一緒に胆嚢を取り除く手術をします。胆嚢の切除は腹腔鏡手術とよばれる、腹部に小さな穴をあけて内視鏡などを挿入する手術が一般的です。胆嚢炎を繰り返し癒着のひどい場合や胆嚢がんが疑われる場合は開腹手術の適用となります。
胆嚢は肝臓で作られた胆汁を貯める働きがありますが、胆嚢をとってしまっても胆管が拡張しそこに胆汁をためるため、脂肪分やビタミンの消化・吸収には影響はないといわれています。胆嚢を取り除くことで治るため、再発のリスクはなく、治療後は通院の必要はありません。
総胆管結石
総胆管結石は症状があることが多く、重症となるリスクもあるため原則治療が必要です。治療はERCP (内視鏡的逆行性胆管膵管造影法)という、内視鏡治療を行うことが多いです。
治療後は再発することがあるため、定期的な通院が必要です。
また胆嚢結石を併発している場合は、再発予防のために胆嚢を摘出することが推奨されます。
肝内結石
肝内結石の治療は基本的には内視鏡治療が第一選択肢となります。ただし内視鏡治療が困難な場合や、結石を含めた周りの肝臓の切除が必要な場合、もしくは癌などの可能性がある場合などは外科手術が検討されます。
治療後も再発や合併症が起こるリスクがあるため、定期的な通院が必要です。
胆石症になりやすい人・予防の方法
胆石症は生活習慣とも大きく関わりがある疾患です。高カロリーな食事や動物性脂肪の取りすぎ、極端な体重減少、肥満、脂質異常症などの人は、胆汁に含まれる成分が固まりやすくなるため、胆石症になりやすいと考えられます。
また、腸の切除やクローン病、肝硬変、胃の切除後、妊娠、長期間の経口避妊薬の服用なども胆石ができやすくなる要因といわれています。
胆石症予防のためには、暴飲暴食や油っぽい食事を避け適度な運動をおこない、肥満や脂質異常症に気をつけるようにしましょう。
関連する病気
- 胆嚢炎(たんのうえん)
- 胆管炎
- 胆嚢がん
- 黄疸(おうだん)
- 急性膵炎(きゅうせいすいえん)
参考文献