監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
慢性膵炎の概要
慢性膵炎とは長期にわたりすい臓に炎症が続くことで、すい臓の正常な細胞が少しずつ壊れて硬くなってしまう病気です。進行するにつれてすい臓の働きが弱くなり、食べ物の消化吸収や血糖値のコントロールがうまくできなくなります。
慢性膵炎は、お酒が原因で起こるアルコール性慢性膵炎と非アルコール性慢性膵炎(特発性、遺伝性、家族性など)の2つのタイプがあります。アルコール性慢性膵炎は、慢性膵炎のなかでもっとも多く、長期間にわたるお酒の飲み過ぎによって発症します。
症状はお腹や背中の痛みがありますが、痛みが全くないまま進行するケースもあります。慢性膵炎の治療は、薬をつかったり、内視鏡を使ったりして痛みを和らげる方法や、断酒・禁煙などの生活習慣を改善する方法があります。場合によっては手術を検討されることもあります。
炎症が続くとすい臓に石ができたり(膵石)、膵液とよばれる消化液の通り道である膵管とよばれる管が狭くなり(膵管狭窄)、膵液がうまく流れなくなります。さらに病気が進むと、すい臓の働きが弱くなり、痛みは軽くなる、あるいはなくなっていきます。しかし食べ物がうまく消化吸収できなくなるため、栄養障害や体重減少、また糖尿病を発症します。慢性膵炎が進むと、すい臓がんになるリスクも高くなります。
慢性膵炎はゆっくり進行する病気で、一度硬くなったすい臓は元に戻らないといわれています。そのため長い間、病気と付き合っていくことになります。できるだけ病気の進行を遅らせるためには、痛みが出ないように断酒や禁煙を心がけ、食事にも気をつけ生活することが必要です。
慢性膵炎の原因
主な原因は大量の飲酒(アルコール性)であり、慢性膵炎のおよそ7割を占めるといわれています。
またアルコール以外にも、喫煙や遺伝性、自己免疫性(IG4関連を含む)、閉塞性(膵管狭窄を含む))などが関与し、原因が特定できない特発性もあります。
すい臓には食べ物を消化するための膵液をつくる働きと、血糖値を下げるインスリンといわれるホルモンをつくる働きがあります。すい臓で作られた膵液は十二指腸に送られて、食べ物の消化を助けます。慢性膵炎では長い間炎症が続くため、すい臓の細胞が壊れて硬くなってしまいます。
すい臓が硬くなると膵液が流れる道が狭くなり、「膵石」という石ができることもあります。さらに膵液の流れが滞るとすい臓やその周りに膵液が漏れだし、膵仮性嚢胞(すいかせいのうほう)という袋ができることもあります。
すい臓の消化機能が弱くなると、体重が減ったり栄養が足りなくなります。またインスリンの分泌機能に障害を起こすと血糖値のコントロールができなくなり、糖尿病を発症します。
慢性膵炎の前兆や初期症状について
初期の段階では、お腹と背中の痛みが最も多くみられます。腹痛は、お酒を飲んだあとや脂肪分が多い食事をとりすぎたときに起こりやすいです。慢性膵炎を発症すると5年から10年と長期間にわたり、お腹や背中の痛みや急性膵炎を繰り返します。
まれに、痛みがなく症状が出ないまま進行することもあります。病気が進むとすい臓の働きが悪くなり、痛みはだんだん軽くなってやがて消えてしまうこともあります。
また食べ物の消化吸収機能が落ちると、脂肪が多い食べ物をうまく消化できず、便が黄色っぽくなって油が浮いたような便がでます(脂肪便)。また栄養状態が悪くなることで、体重が減少します。さらに血糖値がうまくコントロールできなくなると糖尿病を発症し、のどの渇きや尿量が増えるといった症状が現れます。
慢性膵炎の検査・診断
慢性膵炎の診断は、主に診察・血液検査・画像検査によって行われます。
診察
お腹や背中の痛みなどの症状から慢性膵炎を疑います。次に血液検査や画像検査で慢性膵炎の特徴的な所見があるかどうかをくわしく確認していきます。
血液検査
すい臓の細胞が壊れているかどうかを示す「アミラーゼ」という酵素の値を調べます。
画像検査
①腹部単純X線検査
膵石症の診断に使われます。痛みを感じず検査できますが、膵石のある進行した慢性膵炎の診断しかできません。
②腹部超音波検査(US)
すい臓の形や大きさ、膵管の太さ、膵石の有無、膵仮性嚢胞(すいかせいのうほう)の有無を確認します。
③ CT検査
腹部全体を確認できます。慢性膵炎に合併しやすい膵臓がんの診断もできます。
④MRI
磁気を使った検査です。進行した慢性膵炎の診断ができます。
④超音波内視鏡検査(EUS)
超音波装置がついた内視鏡を使って、胃や十二指腸の壁からすい臓に超音波を当て、すい臓全体、胆管や胆のうなどの周囲の臓器をくわしく観察します。EUSは早期の慢性膵炎を診断できます。
⑤内視鏡的逆行性水胆管造影法(ERCP)
内視鏡を使い、十二指腸にある胆管の出口から膵管内に造影剤を注入し、膵管や胆管の形に異常がないかくわしく確認できる検査です。膵液をとり、膵臓がんの診断にも使われます。
慢性膵炎の治療
慢性膵炎は病状の変化によって、「潜在期」「代償期」「移行期」「非代償期」の4つの段階に分けられます。
代償期ではお腹や背中の痛みを繰り返しますが、移行期になるとすい臓の働きが徐々に低下し痛みはしだいに和らいでいきます。
非代償期ではすい臓の機能は失われ、痛みはさらに軽減し消えることもあります。しかし次は食べ物の消化不良による栄養不足や糖尿病を発症するなど新たな問題が起こります。治療は各段階に合わせておこなっていきます。
代償期の治療
代償期では、お腹の痛みを抑える治療が中心となります。痛み止めや痛みの原因となる炎症を抑える薬を内服します。
腹痛はお酒を飲んだ後や脂っこい食事を摂りすぎたときに出やすいので、断酒や短期的に低脂肪食にします。しかし長期間脂肪を控えすぎると栄養が足りなくなる可能性があるため、注意が必要です。痛みが消えない場合は、内視鏡や手術による治療を検討します。
非代償期の治療
①消化吸収不良に対する治療
非代償期になると、食べ物の消化吸収不良の症状がでてきます。すい臓の働きが悪くなると、脂肪を中心とした食べ物をうまく消化できず、栄養が便として逃げてしまい、十分なカロリーを摂取できず体重が減ります。
そのため治療として、食事の前に食べ物の消化吸収を助ける消化酵素を補充できる薬を内服します。非代償期では栄養不良にならないように、脂肪を控えた食事はしません。
②血糖値のコントロール不良に対する治療
非代償期では、血糖値の調整がうまくできなくなり、糖尿病を発症しやすくなります。この場合は、血糖値を下げるためにインスリン注射や糖尿病の薬の内服が必要になります。
慢性膵炎になりやすい人・予防の方法
慢性膵炎のうち7割は、お酒の飲みすぎが原因でおこるアルコール性慢性膵炎だといわれています。予防のためには、禁酒またはお酒の適量摂取が重要です。
お酒の適量は1日純アルコール約20gまでといわれています。ビールなら中瓶(500ml) 1本以下、日本酒なら1合以下、焼酎なら200mlのコップ半分以下の量となります。適正な飲酒量を守ることで慢性膵炎の発症を予防することができます。少しずつお酒の量を減らしていき、適量に近づけていきましょう。またタバコも慢性膵炎の発症に関連しているため、禁煙を心がけましょう。
参考文献