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肝炎
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

肝炎の概要

肝炎とは、アルコールやウイルス、薬剤、自己免疫などの原因によって肝臓に炎症をきたす疾患です。

原因によってアルコール性、ウイルス性、薬剤性、自己免疫性に分類され、さらに症状の経過から急性肝炎、急性肝障害、慢性肝炎に分類されます。
中でもウイルス性肝炎が最も発症頻度が高く、肝臓病全体の約8割を占めます
(出典:岩手県肝疾患診療連携拠点病院 岩手医科大学附属病院内 岩手県肝疾患相談センター

肝臓は生命を維持する上で重要な役割を担っており、食べ物から取り込んだ栄養を吸収しやすいように変化させたり、有害物質を解毒させたりする機能があります。

肝炎を発症すると、肝臓を構成する細胞が壊されて肝臓の機能が低下します。その結果、栄養の代謝や有害物質の解毒などが正常に行われなくなり、全身の倦怠感や黄疸などさまざまな症状が出現します。

しかし、肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、肝炎を発症しても無症状で経過し、何らかの症状を認める頃には既に病状が進行してしまっているケースも少なくありません。

肝炎が進行すると、肝臓が硬くなる「肝硬変」に進展し、やがて「肝がん」を発症する恐れがあります。そのため、気になる症状がなくても定期的に健康診断を受けて肝炎の早期発見に努め、早期治療を開始することが重要です。

肝炎の原因

肝炎の原因には以下のものが挙げられます。

  • ウイルス(A型・B型・C型・D型・E型肝炎ウイルス)
  • アルコール
  • 薬剤
  • 自己免疫

ウイルス性肝炎

A型肝炎ウイルスは、ウイルスに汚染された水や食べ物の摂取により感染することがあります。
B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスは、血液や体液を介して感染が広がります。母子感染のほか、性行為、輸血などの医療行為、医療機関での針刺し事故などが原因となります。
D型肝炎は血液を介し、既にB型肝炎に感染している人にのみウイルスが伝播します。
E型肝炎は、ウイルスで汚染された水や、豚、イノシシ、シカなどの肉を食べることで感染することがあります。

アルコール性肝炎

アルコール性肝炎は、日頃飲酒をする人が大量にアルコールを摂取した際に発症することがあります。しかし、必ずしも多量のアルコール摂取がアルコール性肝炎の発症に関与するとは限らず、特に女性ではより少ない量で発症するケースもあります。また、一度アルコール性肝炎を発症した人がその後飲酒を繰り返すことで再発しやすくなり、やがて肝硬変へと進行することもあります。

薬剤性肝炎

解熱消炎鎮痛薬、抗真菌薬、総合感冒薬(かぜ薬)、漢方薬、糖尿病治療薬、抗がん薬、睡眠薬、抗うつ薬、脂質異常症治療薬などの薬剤を内服することで肝炎を発症することがあります。
発症のきっかけには個人差があり、たくさん飲んで初めて症状が出るケースや、量に関係なく突然発症するケース、体質などにより発症するケースなどさまざまです。

自己免疫性肝炎

本来ウイルスや細菌などの異物を攻撃するはずの「抗体」が誤って自分自身の肝臓の細胞を攻撃する「自己免疫」によって発症します。自己免疫性肝炎のはっきりとした原因は解明されていないものの、何らかの遺伝的要素が関係しているのではないかと考えられています。

肝炎の前兆や初期症状について

肝炎を発症しても、多くの場合無症状で経過します。症状がみられる頃には既に病状が進行しているケースも少なくありません。
肝炎としてみられる初期症状には、発熱や頭痛、全身倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐、皮膚や眼球結膜が黄色く変色する「黄疸」などが挙げられます。

肝炎の検査・診断

肝炎の診断では、問診や血液検査が中心に行われます。
問診では、主に自覚症状を確認します。血液検査では、肝機能の状態を示す検査項目を中心に確認します。ウイルス性肝炎の診断では、それぞれの肝炎ウイルスを特定するための検査(HCV抗体検査、HBV抗体検査など)が行われます。

肝炎の治療

肝炎の治療は原因や病態によって異なります。

ウイルス性肝炎

A型ウイルス性肝炎など、特別な治療をしなくても自然治癒するものもあります。一方、B型ウイルス性肝炎やC型ウイルス性肝炎は慢性化や肝がん移行のリスクがあるため、ウイルスの活動を抑える「核酸アナログ製剤」や「直接作用型抗ウイルス剤」や「インターフェロン」などを用いた薬物療法が行われます。

アルコール性肝炎

アルコール性肝炎では、アルコールの摂取量を制限する必要があります。軽症の場合には、アルコールの摂取量を制限したり断酒したりすることで改善が期待できるケースがあります。
アルコール性肝炎の背景にアルコール依存症がある場合には、専門医による治療やアルコールの離脱症状に対する治療も必要です。また、急激に肝機能が低下している場合などは、副腎皮質ステロイド薬を用いた薬物療法が行われることもあります。さらに、肝硬変に進展している場合には、肝移植の適応となるケースもあります。

薬剤性肝炎

薬剤性肝炎では、多くの場合原因となる薬剤の使用を中止することで軽快します。重症の「劇症肝炎」に移行している場合や黄疸がなかなか改善しない場合などは、副腎皮質ステロイド薬などを用いた薬物療法が行われることもあります。より重症で意識障害などを認める場合には、人工透析や血漿交換療法などの「人工肝補助療法」や肝移植が考慮されるケースもあります。

自己免疫性肝炎

自己免疫性肝炎では、「免疫抑制薬」を中心とした薬物療法が行われます。一般的に、副腎皮質ステロイド薬の「プレドニン」を充分量内服する治療から開始し、症状や検査データをみながら内服量を減らしていきます。また、プレドニンと併用して免疫抑制薬の「アザチオプリン」を使用することもあります。

肝炎になりやすい人・予防の方法

普段アルコールを常飲している方は、アルコール性肝炎を発症するリスクがあります。節度ある適度な飲酒量を守るほか、アルコール依存症の可能性がある場合は専門医に相談しましょう。

また、薬剤性肝炎はさまざまな薬剤を内服している全ての人に発症する可能性があります。薬は医師の指示のもと正しく内服し、内服中に気になる症状がみられた場合には速やかに医療機関を受診しましょう。

このほか、ウイルス性肝炎は、感染対策をすることで予防できるケースがあります。日常生活上で感染する可能性は低いものの、以下のことに注意しましょう。

  • カミソリや歯ブラシなど他人の血液が付着している可能性があるものは共有しない
  • 入れ墨やピアスを開けるときなどは清潔な器具を使用する(他人に使ったものを使用しない)
  • 献血をしない
  • 性行為の際はコンドームを正しく使用する
  • 不特定多数の相手との性行為を避ける
  • 出産を控える女性がウイルス性肝炎を発症している場合や肝炎ウイルスのキャリアである場合には、ワクチン接種(B型肝炎の場合)、帝王切開などによる母子感染対策を行う


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