目次 -INDEX-

脂肪肝
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

プロフィールをもっと見る
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

脂肪肝の概要

脂肪肝(しぼうかん)は、肝臓に過剰な脂肪が蓄積された状態を指し、肝細胞の30%以上に脂肪が蓄積されている状態は、肝生検における脂肪肝の診断基準の一つとされています。脂肪肝と診断される超音波所見は、肝細胞の脂肪含有量が20〜30%以上で高エコー像(明るく)になるとされています。CTによる定量評価では、肝脂肪含有量が30%以上で、肝−脾CT値差が−10 HUを超えることが多いと報告されています。肝臓は、エネルギー源として脂肪を生成し、肝細胞内に貯蔵しますが、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ると、過剰な脂肪が蓄積して脂肪肝を引き起こします。

脂肪肝の主な原因は、多量飲酒や肥満です。肥満指数(BMI)が25以上の方の20〜30%が脂肪肝を持っています。遺伝的要因や薬剤の影響でも脂肪肝が発症することがあります。

脂肪肝は放置すると肝炎や肝硬変、さらには肝癌へと進行するリスクがあるため、早期発見と対策が重要です。治療の基本は生活習慣の改善で、適切な食事管理、定期的な運動、禁酒が推奨されます。肥満が原因の場合、体重減少が推奨されています。

脂肪肝の原因

脂肪肝の原因は多岐にわたり、生活習慣や代謝異常薬剤などが関与します。主な原因は、以下のとおりです。

まず、多量の飲酒です。アルコールの分解過程で中性脂肪が生成され、肝臓に蓄積します。毎日3合以上の日本酒を飲む方に多く見られ、アルコール性脂肪肝と呼ばれます。

次に、肥満や過体重です。肥満になると肝臓での脂肪酸の燃焼が悪化し、中性脂肪が蓄積しやすくなります。インスリン抵抗性や脂質異常症も関与し、これらが同時に存在する場合はメタボリックシンドロームと呼ばれます。これらは脂肪の合成を増加させ、代謝や排泄を遅らせます。

また、毒性物質や薬剤(例:コルチコステロイド、タモキシフェン、一部の化学療法薬)も脂肪肝を引き起こします。さらに、遺伝性代謝疾患も脂肪肝のリスクを高めます。

妊娠中にも脂肪肝が発生することがあります。妊娠性脂肪肝と呼ばれ、脂肪肝とは異なります。

さらに、運動不足や過剰なカロリー摂取も原因となります。食事で摂取した脂質や糖質が消費されずに余ると、肝臓に中性脂肪として蓄積されます。運動不足の生活を送ると脂肪肝のリスクが高まります。

脂肪肝の前兆や初期症状について

脂肪肝は初期段階では自覚症状がほとんどなく、発見が難しい病気です。肝臓は沈黙の臓器とも呼ばれ、異常を痛みとして感じにくいため、健康診断や血液検査で偶然発見されることも少なくありません。

初期段階を超えて脂肪肝が進行すると、血流の低下により身体の細胞への酸素や栄養の供給が滞りがちになるため、疲れやすさやだるさを感じ始めることがあります。また、長時間同じ姿勢でいると肩こりが生じやすくなります。

さらに、脳への酸素供給が不足すると、集中力の低下や頭がボーっとする感覚が生じることがあります。進行すると、右側のお腹に引っ張られるような痛みを感じることがあります。加えて、食欲不振も脂肪肝の進行に伴って現れ、体重減少につながることがあります。

脂肪肝は早期発見と適切な対処で、肝臓の健康を保ち、生活習慣病の予防に役立ちます。疑わしい症状があった場合には、し、医師の診断を受けることが大切です。

脂肪肝の検査・診断

脂肪肝は、肝臓に過剰な脂肪が蓄積される状態で、適切な診断と検査が重要です。以下に、脂肪肝の診断に用いられる各検査方法を説明します。

血液検査 血液検査は肝機能の異常を検出するために行われます。主な検査項目にはAST(GOT)やALT(GPT)があり、これらの値が高い場合、脂肪肝またはその予備軍の可能性があります。さらに、炎症やウイルス性肝炎など、ほかの肝臓の異常を引き起こす原因を除外するために追加の血液検査が行われることがあります。

画像検査 画像検査には腹部超音波検査、CT検査、MRI検査があります。腹部超音波検査では、肝臓の脂肪蓄積を視覚的に確認できます。脂肪肝の肝臓は正常な肝臓よりも白く光って見えるため、これをブライトリバーと呼びます。CT検査やMRI検査では、肝臓の詳細な画像を取得し、過剰な脂肪を検出できますが、炎症や線維化の有無の確定は難しいです。

新しい画像検査技術 新しい画像検査技術として、磁気共鳴エラストグラフィー(MRE)や超音波エラストグラフィーがあります。これらの検査は瘢痕組織や肝硬変の有無を確認するために使用されます。MREは非侵襲的で高精度な検査法であり、超音波エラストグラフィーは肝臓の硬さを測定し、線維化の有無を評価します。ただし、肥満の影響で線維化スコアが高く出ることがあるため、結果の解釈には注意が必要です。

肝生検 肝生検は脂肪肝の診断で精度の高い検査方法です。局所麻酔を使用し、中空の針で肝組織のサンプルを採取します。採取した組織を顕微鏡で詳細に分析することで、脂肪肝の有無、原因(アルコールやそのほかの特定要因)、肝障害の重症度を評価します。

脂肪肝の疑いがある場合や、健康診断で肝機能の数値が高いと指摘された場合は、適切な検査を受けることが重要です。

脂肪肝の治療

脂肪肝の治療には、主に生活習慣の改善が中心となります。具体的な治療法は以下のような方法があります。

体重管理 体重を健康的な範囲に減少させることが大切です。体重が5%減少するだけで肝臓の脂肪含有量が顕著に減少し、10%の減少では肝臓の炎症や線維化が改善されることが多く見られます。このため、カロリー摂取を減らし、定期的な運動を行うことが推奨されます。

糖尿病や脂質異常症の管理 脂肪肝を伴う糖尿病や脂質異常症の患者さんは、適切な管理が脂肪肝治療にも直結します。血糖値や血中脂質のコントロールを行うことで、肝臓への負担を軽減し、脂肪肝の改善を図れます。

薬物治療 ビタミンEやチアゾリジン系薬剤のほか、GLP-1受容体作動薬(例:セマグルチド等)やSGLT2阻害薬がNAFLD/NASHに対して有望であり使用することもありますが、副作用のリスクも考慮し、医師のもとで使用されます。また、新しい薬物治療の選択肢が開発中であり、適切な場合には臨床試験への参加が提案されることもあります。

脂肪肝のなりやすい人・予防の方法

日本では、食事や間食の過剰摂取によって非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)が発症するケースが増えています。脂肪肝になりやすい方の特徴には以下のようなものがあります。

肥満の方 体重が増加すると、体内の脂肪細胞がインスリンに対して反応しづらくなります(インスリン抵抗性)。これにより、血糖調節が困難になり、余分なカロリーが肝臓に脂肪として蓄積されるリスクが高まります。

糖尿病の方 糖尿病のなかでも2型糖尿病を患っている方は、インスリン抵抗性の増加により脂肪肝を発症しやすくなります。糖尿病の患者さんでは脂肪肝による合併症のリスクが高いとされ、肝硬変や肝細胞がんへの進行の可能性も指摘されています。

脂質異常症の方 高脂血症などの脂質代謝の異常も、肝臓への脂肪蓄積を助けます。血中の高い脂質が肝臓に貯蔵され、肝機能障害を引き起こすことがあります。

運動不足の方 定期的な運動が不足していると、体内のエネルギー消費が減少し、余剰のエネルギーが脂肪として体内に蓄積されます。なかでも、内臓脂肪の増加は脂肪肝のリスクを高めます。

また、脂肪肝を予防するためには、以下のような対策が有効です。

アルコール摂取の管理 アルコールは肝臓に脂肪を蓄積させる主要因の一つです。適度な摂取量を守り、可能であればアルコールを控えることが、脂肪肝の予防につながります。

食生活の改善 高カロリーかつ高脂肪の食事、加工された食品やファストフードの摂取を控えることが重要です。糖質の過剰摂取も脂肪肝のリスクを高めるため、食物繊維が豊富な食品を先に摂ることで、脂肪の蓄積を防ぐ効果が期待できます。

運動習慣の確立 定期的な運動は、体重管理と脂肪の燃焼を助け、脂肪肝の予防に効果が期待できます。週に数回、有酸素運動を取り入れることが推奨されています。

ストレスの管理 長期間のストレスは肥満やメタボリックシンドロームのリスクを高め、間接的に脂肪肝の原因となることがあります。リラクゼーション技法や適切な休息を取ることでストレスを管理することが肝臓の健康を守るうえで重要です。

禁煙 喫煙は脂質代謝を悪化させ、脂肪肝のリスクを増加させます。禁煙は全体的な健康改善に寄与するだけでなく、脂肪肝予防にも効果が期待できます。

関連する病気

  • 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
  • 2型糖尿病

この記事の監修医師