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【知っておきたい】“防げる病気”ウイルス性肝炎の恐ろしさと予防の重要性

 更新日:2023/03/27

現在日本では、B型肝炎は約100万人、C型肝炎は約180万人の感染者がいるといわれています。B型とC型は、慢性化すると自覚症状がないまま肝硬変や肝がんへと進行することもあるため早期発見と対策が必要です。ウイルス性肝炎とはどんな病気なのか、A型、E型肝炎も含めその実態と、無自覚なまま感染しているかもしれないB型、C型肝炎についての検査の重要性や予防と治療法の最前線について、ともに肝臓専門医である市田隆文先生、東海林俊之先生に伺いました。

市田 隆文

監修医師
市田 隆文(公益財団法人ウイルス肝炎研究財団 理事長)

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富山生まれ。1975年に新潟大学医学部を卒業後、富山医科薬科大学(現・富山大学医学部)、新潟大学医学部第三内科に所属。その間に、ベルギー・ブリュッセル自由大学、米・ネイラーダナ癌研究所、同ピッツバーグ大学移植研究所に留学。1994年には、世界で初めて大人の生体肝移植を成功させた。その後、順天堂大学医学部附属静岡病院消化器内科教授を経て、2014年に湘南東部総合病院の院長に就任、現在に至る。日本脳死移植適応評価委員会委員長、ウイルス肝炎財団理事長などを兼務。新潟薬科大学の客員教授、日本内科学会認定内科医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本消化器病学会評議員ほか。

公益財団法人ウイルス肝炎研究財団
http://www.vhfj.or.jp/

東海林 俊之

監修医師
東海林 俊之(三島駅前消化器・肝臓内科クリニック 院長)

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新潟大学医学部卒業後、新潟大学医学部第三内科に入局。その後、関連病院や横浜旭中央総合病院などに勤務。2016年に三島駅前消化器・肝臓内科クリニックを開院。内科、消化器、肝臓内科、内視鏡を中心に、専門医療だけでなく地域医療に携わる。日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本内科学会総合内科専門医。

三島駅前消化器・肝臓内科クリニック
http://mishimaekimaeclinic.com/

A型は発展途上国での生水に、E型は生の豚肉に注意!

A型は発展途上国での生水に、E型は生の豚肉に注意!

編集部編集部

まず、日本におけるウイルス性肝炎の現状について教えてください。

市田先生市田先生

ウイルス性肝炎には、現在、A型、B型、C型、E型があります。そのうちA型とE型は感染しても一過性で、基本的には自然に治癒しますから慢性化はしません。一方のB型とC型は、感染して放置しておくと、慢性化して肝硬変から肝がんに進行して死に至る可能性があります。そのため、サイレントキラーと呼ばれて恐れられています。

編集部編集部

A型肝炎ウイルスにはどのように感染するのでしょう?

市田先生市田先生

A型は、水を介して感染します。東南アジアやインドなど衛生環境のよくない国では、生水を飲むとA型肝炎ウイルスに感染する可能性があります。ただ、生水を飲まないようにしていたのに、氷を入れた水を飲んで感染してしまったというケースが結構多いので、氷にも要注意です。

東海林先生東海林先生

日本では、生牡蠣など貝類の生食後の感染事例が多いですね。

編集部編集部

A型肝炎ウイルスに感染したときの症状と治療法は?

市田先生市田先生

A型に感染すると、急性肝炎を引き起こします。発熱、倦怠感、下痢、嘔吐などの症状が出ますが、ウイルスに対しての直接的な治療薬はないので、とにかく安静にして症状が治まるのを待ちます。下痢や嘔吐の症状があるときは、脱水症状にならないよう水分をしっかり補いましょう。A型のウイルスは免疫反応で排除されるため、一過性の感染で終わり慢性肝炎になることはありません。死亡率は低く、劇症化することはほとんどありません。ただ、高齢で腎障害がある人が感染すると、稀に亡くなることがありますので注意が必要です。

編集部編集部

A型肝炎は予防することができるのでしょうか?

東海林先生東海林先生

ワクチン接種により、予防することができます。そのため、衛生状態が悪い国に渡航する前には、A型肝炎ワクチンの接種が推奨されています。ワクチンの接種によりウイルスに対する抗体ができると、感染が予防できます。ある程度高齢の日本人は、多くの方が抗体をもっていらっしゃいます。

編集部編集部

E型肝炎ウイルスにはどのように感染するのでしょう?

市田先生市田先生

E型に感染した豚やイノシシ、鹿、羊などの肉を、十分に加熱せずに食べると感染するリスクがあります。とくに、若い豚の80%はE型肝炎にかかっているといわれているので食べるときはしっかり中まで火を通すようにしましょう。

東海林先生東海林先生

ジビエ料理を好まれる人もいるかと思いますが、ジビエ肉の生食はもってのほかです。

編集部編集部

E型肝炎ウイルスに感染したときの症状と治療法は?

市田先生市田先生

E型肝炎も、急性肝炎を引き起こし、発熱や嘔吐、腹痛、下痢の症状が現れます。E型肝炎もA型同様に治療薬がないので、適度な水分をとって自宅で安静にしていることが一番の薬です。E型肝炎も基本的には自然に治癒しますが、まれに重症化することがあります。その場合は肝臓移植が必要になることもあります。

東海林先生東海林先生

E型肝炎は妊婦さんが感染すると重症化率が高いと言われているので、特に注意が必要です。ただ、A型もE型も一過性感染ですので、通常は治ってしまえばその後の心配はありません。

B型は生まれた赤ちゃんすべてにワクチン接種で感染者が減少

B型は生まれた赤ちゃんすべてにワクチン接種で感染者が減少

編集部編集部

B型肝炎ウイルスにはどのように感染するのでしょう?

市田先生市田先生

B型は、基本は血液を介して感染します。そのため、輸血や性交渉、B型肝炎ウイルスに感染している母親から生まれた子どもへの母子感染などのリスクがあります。とくに多いのは母子感染で、母親がB型肝炎ウイルスの感染者の場合、出生時に感染予防処置を講じないと100%胎盤感染します。日本には現在、約100万人のB型肝炎ウイルスの感染者がいるといわれています。

編集部編集部

B型肝炎ウイルスに感染しているのに、肝炎を発症していない人が100万人いるということでしょうか?

市田先生市田先生

その通りです。体内にウイルスを保有していて、肝炎を発症していない方を「無症候性キャリア」、もしくは「非活動性キャリア」といいます。肝炎というのは、肝臓内に肝炎ウイルスが進入し、増殖すると特別のたんぱく質が出てきます。それを、免疫機能のリンパ球が敵と判断すると、リンパ球が肝細胞を攻撃してしまうんですね。その攻撃が大きい場合は重症肝炎、劇症肝炎を引き起こすことがあります。ただB型肝炎ウイルスの場合、子供は免疫反応が弱いため、ウイルスが肝臓に入ってもリンパ球は敵とみなさず仲間と判断し、肝細胞を攻撃しないため、キャリアとなるのです。

編集部編集部

キャリアは全く症状がないのでしょうか?

市田先生市田先生

はい、症状はないので血液検査をしないとB型ウイルス感染者かどうかわかりませんが、いつの間にか慢性肝炎を発症して、気が付かないうちに肝硬変や肝がんに移行するリスクがあります。それを予防できるのがB型肝炎ワクチンで、赤ちゃんのうちに接種しておけば、B型肝炎ウイルスに対する抗体ができ、将来、B型肝炎ウイルスが引き起こす病気を予防してくれるのです。

編集部編集部

B型肝炎ウイルスのキャリアになると、いつか必ず発症するのでしょうか?

市田先生市田先生

キャリアでも肝炎を必ず発症とするというわけではなく、キャリアのまま一生を終える人も7~8割はいらっしゃいます。また、最近はもし発症しても、核酸アナログという薬を1日1錠飲むと、肝硬変やがんに進行するのを防いでくれます。そのおかげもあり、発がん率はかなり減少してきています。ただ、B型肝炎ウイルスのキャリアの方は、知らないうちに感染源となり他人に移す可能性があるため、自分がキャリアかどうかを知っておくことが大切なのです。

編集部編集部

現在、B型感染の予防はどのように行われているのでしょう?

市田先生市田先生

母子感染は、1986年から予防する制度が整い、キャリアの母親から生まれた子供には、B型肝炎ワクチンと抗HBs免疫グロブリン(HBIG)を接種する対策がなされました。これにより、母子感染を大幅に減少させることに成功しましたが、新規の感染をゼロにすることはできませんでした。そこで、2016年10月からは、母親がキャリアかどうかに関わらず、生まれた赤ちゃんすべてにB型肝炎ワクチンを接種することになりました。これはユニバーサルワクチネーションと呼ばれ、1992年にWHO(世界保健機関)が世界中の赤ちゃんに対してB型肝炎ワクチンの実施を提唱、日本では、24年遅れてようやく実施されることになったものです。

東海林先生東海林先生

B型肝炎は、血液のみならず、汗や唾液、涙などの体液にもウイルスが存在するため、出生後に身近な人からや集団生活の場で水平感染してしまう事例がありました。また、成人感染での慢性化も問題になります。したがって、生まれた赤ちゃんすべてにワクチンを接種するユニバーサルワクチネーションは、新規の感染を予防するのに非常に有効な政策だと思います。定期予防接種化される前(2016年9月以前)に出生された方も、任意接種になりますが、ワクチン接種をおすすめします。

編集部編集部

予防接種は一度打てばよいのですか?

東海林先生東海林先生

B型肝炎のワクチンは3回接種が基本になります。出生後の定期予防接種は種類と数が多いので、小児科で接種スケジュールは相談されるといいでしょう。

編集部編集部

B型肝炎は一度抗体ができれば、二度と感染しないのでしょうか?

東海林先生東海林先生

ワクチン接種によって抗体ができれば感染を予防することができます。ただ、個人差はありますが、長期間経過すると抗体価が下がってしまうことがあるので、心配な方は抗体価の血液検査を受けてみるのもよいでしょう。

市田先生市田先生

一方で、ウイルス感染による急性肝炎で治癒した場合でも抗体ができるので、昔はB型肝炎には二度とかからなくなると言われておりました。しかし、急性肝炎の場合でも、肝臓の細胞の中にはB型肝炎ウイルスがそのまま残ることがありますので、将来的に化学療法や免疫抑制剤の治療を受ける場合は、そこに残ったB型肝炎ウイルスが再活性化してくる場合があります。したがってウイルス感染によって抗体ができた場合は、二度とかからないとは言えません。

編集部編集部

抗体のない人がB型肝炎ウイルスに感染するとどうなるのでしょう?

市田先生市田先生

成人感染の場合、急性肝炎を引き起こし、食欲不振や吐き気、倦怠感などの症状が現れます。なかには無症状の人もいて、自分が肝炎ウイルスに感染したことさえわからないまま自然治癒してしまう方もいます。一方で、肝炎が重症化した場合、劇症肝炎になることもあります。劇症肝炎は死亡率が高く、集学的な治療が必要になり、最終的には肝臓移植が必要になることもあります。急性感染の後に慢性化することもあり、慢性肝炎を放置すると肝硬変や肝がんに進展するリスクとなります。

近年、C型は99%完治する病気に

近年、C型は99%完治する病気に

編集部編集部

C型肝炎ウイルスは、どのように感染するのでしょう?

市田先生市田先生

B型と同様に血液を介して感染します。C型肝炎ウイルスは輸血や、肝炎ウイルスに感染している人との注射針の共有などが原因で感染することが多く、日本では戦時中から戦後にかけて、爆発的に広まりました。C型はB型よりも慢性肝炎になりやすく、肝硬変や肝がんに進行する確率も高いのが特徴です。現在の肝がん患者の約70%は、C型肝炎が原因といわれています。

編集部編集部

C型肝炎の治療は、どのように行われているのでしょうか?

市田先生市田先生

以前は、インターフェロンという薬を注射する治療が行われていましたが、これは、長期間使っても効果がある人は限られていました。また、発熱や精神症状など副作用が強かったため、現在は使われていません。その代わりに、現在は2ヶ月服用するだけで99%治る薬が使われています。薬剤費用は約400万円ですが、肝炎治療医療費助成制度(B型とC型肝炎の治療に適用)を申請すれば、所得に応じて毎月1~2万円で治療が可能です。使用は2ヶ月だけですから、総額2~4万円で治ってしまうことになります。C型肝炎の治療は、ここ数年で飛躍的に進化し、いまや治る病気になりました。現代医学の中でも最も進んだ分野といえます。

B型、C型肝炎ウイルス撲滅のため、ぜひ一度血液検査を

B型、C型肝炎ウイルス撲滅のため、ぜひ一度血液検査を

編集部編集部

B型やC型肝炎ウイルスに感染しているかどうかは、どうやったらわかるのでしょうか?

東海林先生東海林先生

どちらも、血液検査をすればすぐわかりますので、ぜひ一度、受けていただきたいと思います。厚生労働省では無料の肝炎ウイルス検査を推進しており、保健所や自治体健診で、一度は無料で検査を受けることができるようになっています。受けたことがない人は、住民票のある保健所に問い合わせてみるとよいでしょう。最近では、会社の健診や人間ドックの項目に入っているところもありますね。

編集部編集部

検査の結果が陽性だった場合はどうすればよいのでしょうか?

東海林先生東海林先生

できるだけ早く、かかりつけ医や肝臓専門医を受診していただきたいと思います。お話ししたように、今やC型肝炎は治る病気になりました。B型肝炎は、慢性肝炎を発症しても飲み薬で進行を抑えることができます。知らない間に、自分が感染源となって、周囲の人たちに広めないためにも、早めの治療をおすすめします。

編集部まとめ

ウイルス性肝炎には、現在A型、B型、C型、E型があり、特に注意すべきはB型とC型です。B型は現在約100万人、C型は約180万人の感染者がいるといわれ、いずれも慢性化すると肝硬変から肝がんに進行するため恐れられています。

ただ、B型肝炎で多かった母子感染は、予防のために赤ちゃんにB型肝炎ワクチンと抗HBs免疫グロブリン(HBIG)を接種することで大幅に改善。2016年からは、すべての赤ちゃんにワクチン接種が行われるようになり、母子感染はゼロに近づいています。また、もし慢性肝炎を発症しても、肝硬変へ肝がんへの進行を抑制する薬が開発され、効果をあげています。

C型肝炎は、近年2ヶ月の服用で完治する薬が使用されるようになり、今や治る病気になっています。今後は、発症はしていないけれどもB型やC型の肝炎ウイルスに感染している人の洗い出しが課題になっています。そのためには、一人でも多くの人が血液検査を受けること。そして、検査結果が陽性だった人たちの治療や対策が急がれています。

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三島駅前消化器・肝臓内科クリニック
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診療科目 肝臓内科 胃腸・消化器内科 内視鏡内科 一般内科

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