祝J1昇格! 横浜FCの選手たちと学ぶ「はじめてのAED」

みなさん、AED(Automated External Defibrillator/自動体外式除細動器)ってご存じですよね? AEDは、痙攣し血液を流すポンプ機能を失った状態(心室細動)になった心臓に対して、電気でショックを与えて、正常な機能を回復させるための医療機器のこと。きっと、駅や学校などにAEDが設置されているのを見たことがあるという方は多いのではないかと思います。

でも、いざ人が倒れていたら、AEDを使って救命措置を行える自信がある方は、実は少ないのではないでしょうか? 今回は、Jリーグに所属する横浜FCの選手の皆さんに、AEDの使い方を体験してもらいました。みなさんも、これを機にAEDの使い方を理解し、いざという時に行動を起こす勇気を持てるようになりましょう。

監修医師
四津 良平(原宿リハビリテーション病院 病院長)

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1948年富山県生まれ。73年慶 應義塾大学医学部卒業。外科学教室入室。81年米国ニューヨーク州立大学胸部外科へ留学。米国オハイオ州クリーブラン ド・クリニック人工臓器部・人工心臓主任研究員。84年米国オハイオ州アクロン大学医用生体工学部兼任助教授。91年慶応義塾派遣留学(米国ベイラー 大学臓器移植科)。93年慶応義塾大学医学部専任講師(外科学)。2002年同大学医学部外科教授(心臓血管外科)。14年同大学名誉教授(医学部)。一般社団法人巨樹の会松戸リハビリテーション病院院長補佐。15年原宿リハビリテーション病院院長。外科専門医、心臓血管外科専門医、循環器専門医。

原宿リハビリテーション病院
http://www.harajuku-reha.com/

AED講師
鈴木 瞳(日本ライフライン㈱ BLS一次救命処置インストラクター)

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2012年より日本ライフライン㈱のAED開発に携わる。その傍らBLS一次救命処置インストラクターの資格を取得。その後、企業・看護師・スポーツ団体などへ救命処置の講習会を実施。

日本ライフライン株式会社
https://www.jll.co.jp/

 

横浜FCの選手たちによるAED体験の様子

横浜FCの選手たちによるAED体験の様子

いざ、AED講習会、開始!

① 傷病者発見!

② 反応確認
肩を叩いて声をかける「大丈夫ですか! 大丈夫ですか!」。

③ 周囲に協力を要請する
AEDを依頼「あなた、AEDを持ってきてください」。
救急車の要請を依頼「あなた、119番をお願いします」。

④ 呼吸を確認する
傷病者の胸と腹部の動きを見て、呼吸があるかどうか確認する(10秒以内)。

※異常な呼吸(死戦期呼吸)、判断に迷う、または判断に自信が持てない時は胸骨圧迫を開始する。

⑤ 胸骨圧迫(心臓マッサージ)30回
手を合わせ、肘は伸ばし、手のひらの付け根を使って、胸の真ん中を強く、速く、絶え間なく押す。できる方は、人工呼吸を2回行い、再び、胸骨圧迫を行う。これをAEDが到着するまで繰り返す。

AED講師「押すのは、100〜120回/分なので、結構早いペースです」

横浜FC 三浦知良選手三浦選手「こんなに強くやるの? 結構、力いるよ」

⑥ AED到着
電源を入れ、電極パットを胸と脇腹に貼り、AEDの音声に従って、周りの人を離す。

横浜FC 中村俊輔選手中村選手「このあたりに貼ればいいのかな」

横浜FC 南選手南選手「離れてください!」

周りの選手から「GKだから、いつものポーズですね」とツッコミ。

⑦ AEDの音声に従ってショックボタンを押す
充電が完了された合図が流れたら、音声に従って、点滅しているショックボタンを押す。

横浜FC 三浦知良選手

電気ショックが完了したら、音声に従って、再び胸骨圧迫を行う。

横浜FC 三浦知良選手三浦選手「こんなに強くやって、肋骨折れないの?」

AED講師「肋骨にひびが入ってしまうこともありますが、いまは命を助けることの方が大事です。肋骨は時間が経てば治りますから

⑧ 次の心電図解析まで再び胸骨圧迫
AEDは2分ごとに自動的に心電図解析をします。2分後に再びAEDの音声に従って、電気ショックが必要な場合は、電気ショックを行なう。電気ショックが完了したら、音声に従って、再び胸骨圧迫を行う。


⑨ 救急隊へ引継ぎ
AEDの電源は切らず、電極パットは貼ったままにする。

 

講習が終わると、何と、あの三浦選手から次々に質問が……。

三浦選手三浦選手

AEDは普及しているの?

鈴木講師鈴木講師

AEDは、全国に約60万台が設置されていると言われています。でも、総務省消防庁の公表数字によると、AEDが使われるべきケースのうち、たった4.7%(※)しか使われていないという現実があります。だからこそ、こういった講習を受けていただき、いざという時に勇気を持って行動できる人が増えていくことが大切です。

※総務省消防庁:平成30年版救急・救助の現況より
https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/post7.html

三浦選手三浦選手

どんなところにAEDってあるの?

鈴木講師鈴木講師

そうですね。たくさんの人が使う交番公共施設などに設置されています。また、最近はオフィスコンビニエンスストアドラッグストアショッピングモールなどにも設置されるようになってきました。

 

心臓外科の専門医である四津良平先生と横浜FCの武田選手・辻選手の対談

話を聞いた人:
武田英二郎選手(横浜FC ポジション:サイドバック)

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横浜FCの経験豊富な左サイドバック。豊富な運動量と正確なキックを武器に、躍進するチームを影で支える。2年前には、不整脈で心臓手術をした経験をもつ。

話を聞いた人:
辻周吾選手(横浜FC ポジション:ゴールキーパー)
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横浜FCの若き守護神。年代別の日本代表候補にも選出されるなど、将来を期待されている。

武田選手

心臓ってどんな役割をしているんですか?

四津先生

心臓の役目というのは非常に単純で、体内に血液を送るためのポンプの役割を果たしています。

辻選手

そのポンプが急に止まってしまったら……。

四津先生

そう、それが心臓突然死です。心臓というのは上部の心房と、下部の心室からできていて、特に心室が痙攣して細かい動きになってしまった状態のことを心室細動といいます。その状態になると、心臓がポンプの役目を果たせなくなって、血液を送ることができなくなってしまいます。

武田選手

心臓突然死をAEDで救うことができるというのは、どういう理由なのでしょうか?

四津先生

一般的に、心室細動が起きた際に何もしないと、1分間に救命率が10%下がると言われています。心臓が送った血液が脳に届かないと、脳の細胞が無酸素状態になってしまいます。脳はとても弱いから、なるべく早い段階でAEDを使って心室の痙攣を除去して正常な状態に戻してあげたり、心臓マッサージをして血液を脳に送ってあげることが、社会復帰率を高めることに繋がるんですね。

辻選手

とにかく早い対応が大切なんですね。日本では、どれくらいの方が心臓突然死で亡くなっているんでしょうか?

四津先生

心臓突然死は、日本国内で年間に約7万人の方が亡くなっていると言われています。これはおおよそ7.5分に1人の方が心臓突然死で亡くなっている計算になりますね。

武田選手

そんなにたくさんの方が命を落としているんですね。実は、僕、2年前に不整脈が出てしまって、心臓の手術をしたことがあるんです。試合中に、息が全然できなくなって。倒れたりはしなかったんですけどね。

辻選手

えぇ! その時は、どうやって周りに知らせたんですか?

武田選手

試合中だったんだけど、目の前にボールがあるのに、全く動けなくなっちゃって。血が頭に回っていない感じがして、そのまま座り込んじゃったんだよね。

辻選手

すぐに本人が何かサインを出せれば良いですけど、突然倒れたりしたら、周りにいる人の対応がすごく大事になってきますよね。どのように対応したら良いのでしょうか?

四津先生

いい質問ですね。急に誰かが倒れたとして、その人が何で倒れたのかなんて、わからないですよね。でも、もし声をかけても反応がなければ、まずは、AEDをかけることが大切です。仮に心室細動ではなかったとしても、AEDをかけて悪いことはありません。ですから、人が倒れたら迷わずAEDを使ってください。

武田選手

迷ったらやるか……。いざという時のために、AEDがどこにあるかを把握して、それを使えるようにしておくことが大事ですね。

四津先生

そうですね。使われないと意味がないですからね。ちなみに、2人は、練習中や試合中に、AEDがどこにあるか、把握していますか?

武田・辻選手

はい。練習中も試合中も、チームに帯同しているコーチが持っています。

四津先生

じゃあ、クラブでの活動中に何かあったら、まずはコーチを呼ぶことが最優先になりますね。特にスポーツ選手は身体が資本の仕事だから、AEDが近くにあることは、とても重要です。

武田選手

僕たちスポーツ選手が気にしておかないといけない心臓突然死というのは、どのようなケースがありますか?

四津先生

アクティブなスポーツ選手が運動中に突然死するケースは20万人に1人だと言われています。結構多いですよ。その症状の一つは、肥大型心筋症。心臓は筋肉で出来ているんだけど、スポーツ選手の場合、日頃からハードな運動をしていますよね。だから、心臓の筋肉もマッチョになって、不整脈を起こしやすい状態になってしまうんです。

武田選手

他にも、ボールが心臓に当たって、心臓が停止してしまったというニュースを聞いたことがあります。

四津先生

それは、心臓震盪(しんとう)というケースですね。外部から心臓に大きな力が加わって、心臓がびっくりして止まってしまうことがあります。子供や細身の人、それから胸にボールを受けやすいゴールキーパーも、注意しないといけませんね。

辻選手

僕はゴールキーパーなので、ボールを胸に受けて息が出来なくなったりすることもあるんですけど、今の話聞いたら怖くなりました。次からはなるべく避けるようにします(笑)。

四津先生

ゴールキーパーが避けたら、仕事にならないね(笑)。

武田選手

これまで先生は、たくさんの人の命を救ってこられたと思うんですが、手術するときは、やはり緊張するんですか?

四津先生

もちろん緊張しますよ。僕はこれまで3,000人以上の心臓を手術してきましたが、心臓手術は、与えられた時間が短いし、何より、他のどんな手術よりも結果がはっきり出ますからね。

辻選手

僕たちも試合になれば、やっぱり緊張しますけど、人の命を扱うというのは、想像もできないです。

四津先生

でも、スポーツも医療も、人を幸せにするというのは、大きな共通点ですよね。プレーを観てもらって幸せになってもらうのも、心臓を治して幸せになってもらうのも、誰かを幸せにする力があるんですよね。今、AEDは全国に60万台が設置されていると言われています。つまり、誰でも人の命を救える可能性があるということです。普段からAEDの設置場所を知って、使い方を知っておくだけで、目の前の大切な人の命を助けることができるかもしれないということをもっと多くの人に知ってほしいですよね。

武田・辻選手

そうですね。僕たちも、これを機に、AEDの使い方を覚えて、いざという時に、人の命を救えるような人間になりたいですね。

取材・文・写真:瀬川泰祐