“痛みの専門科”ペインクリニックは、どんな痛みでも行って大丈夫?
痛みの種類はさまざまで、頭やお腹が痛くても、原因がわからず何科を受診すればよいか迷うことってありますよね。そんなとき、とりあえず行けば対処してくれるのが、ペイン=痛みを専門とする、ペインクリニックです。本当に、どんな痛みでも行っていいのでしょうか。ペインクリニックが対処できる痛みの種類や、治療法など、熱海市の「どばし泌尿器科クリニック」でペインクリニック内科を担当される土橋富美子先生にうかがいました。
監修医師:
土橋 富美子(どばし泌尿器科クリニック)
日本大学医学部卒業。国際医療福祉大学熱海病院麻酔科、国際医療福祉大学講師などを経て、2019年9月に熱海市にて「どばし泌尿器科クリニック」を夫婦で開業し、ペインクリニック内科を担当。日本麻酔科学会認定麻酔科専門医、日本ペインクリニック学会認定ペインクリニック専門医、緩和ケア研修修了。
目次 -INDEX-
ペインクリニックは、ほかの専門医との橋渡し役も
編集部
どんな痛みでも、とりあえずペインクリニックに行ってよいものでしょうか?
土橋先生
はい、どなたでも、どのような痛みでも来ていただいて大丈夫です。そのうえで、痛みの原因がどこにあるのかを探って、処置や対応の仕方を考えます。たとえば、足が痛いといらっしゃった場合、保存的治療で対応できると判断したら当院で神経ブロックや内服薬などの対応を、骨折など手術が必要と判断したら、総合病院をご紹介いたします。また、胃が痛いといらっしゃった場合も同様で、個々の患者様に合った治療を当院で進めていくケースと、行くべき病院をご紹介するケースがあります。ですから、どんな痛みでも来ていただいて、他の専門医との橋渡し役として使っていただければと思います。
編集部
ペインクリニックができた背景を教えてください。
土橋先生
ペインクリニックは、1962年に東京大学の麻酔科学教室に外来として誕生しました。麻酔科はもともと病院の手術室のなかにあり、専門の医師が、看護師や薬剤師、作業療法士などと協力して、手術にともなう痛み止めの注射や薬の投与などを行っていました。そこから派生して生まれたのが、痛み全体を扱うペインクリニックです。その後、痛みの治療を行う専門医制度が確立されていき、現在はペインクリニックとして、独立開業する医師も増えてきています。
編集部
なるほど、もともと「麻酔科」なのですね。
土橋先生
はい。ペインクリニックは、麻酔科医のサブスペシャリティーとして存在します。私達も最初は麻酔科医として習得した技術を、主に外来の日常診療で生かしていくようになったのがペインクリニックということです。麻酔科医としてまずは手術室麻酔を修練します。そして救命救急、ペインクリニック、緩和医療などを学びます。そのなかで、針を使い、痛みの原因となっている神経の近くに局所麻酔薬や抗炎症薬を投与することにより『痛みをブロック』する治療をおこなうのがペインクリニックです。
患者の多くは、肩こり、腰痛、足の痛みなどの慢性痛
編集部
ペインクリニックは、どんな痛みの方が多くいらっしゃるのでしょうか?
土橋先生
肩こりや頸部のこり、腕の痛み・しびれといった上半身の症状(上肢痛)。腰痛、坐骨神経痛のような下半身の症状(下肢痛)の方がやはり多いです。また、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛といった神経痛の方も多く見られます。上肢痛、下肢痛の方は『内服薬だけではいまいち軽快しない痛み』で来院されるため、神経ブロックや理学療法を行うと症状の軽快が認められます。帯状疱疹後神経痛や三叉神経痛といった内服薬が治療の中心となる疾患に関しては、内服のタイミングや量の調整を行います。
編集部
肩こりや腰痛に対してはどんな治療をされるのでしょう?
土橋先生
肩・首こりに対しては、頸部や肩の筋緊張に対し、トリガーポイントブロックで痛みの軽減、血流の回復を行います。腰痛や坐骨神経痛に対しては、腰部硬膜外ブロックや仙骨硬膜外ブロックで、脊髄神経の周囲に局所麻酔薬や抗炎症薬を投与して、痛みの悪循環を止める神経ブロック、血流改善を行います。注射は怖い、とおっしゃる方や、抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を内服している方も多いので、理学療法(低周波治療器、ウオーターベッド)を頻回に行うことで痛みを緩和させている方もいらっしゃいます。
編集部
外科では対応できない痛みにも対応していただけるんですよね。
土橋先生
はい。「手術は成功したのに痛みが残っている」と受診される方もいらっしゃいます。腹部や胸部の手術の後の神経痛がどうしても残ってしまう方もいらっしゃいます。よくお話を聞き、神経障害性疼痛に対する内服薬の調整、場合により神経ブロックを行います。また、「頸椎や腰椎の症状が強いが何とか手術は避けたい」というご希望の方には神経ブロックで手術を回避できるよう治療していきます。
編集部
「痛みの度合い」は主観的なものだと思いますが、どのように評価するのでしょうか?
土橋先生
はい、痛みは主観的なものですから、なかなか人に伝わりにくいものです。そこで、痛みの強さを10点満点で評価するNRS(Numerical Rating Scale)という数値評価スケールを使っています。たとえば、今まで経験した中で最高の痛みを10点、痛くない場合は0点、といった具合です。初診時の痛みを10として、何割くらいになっているか、などを経時的に見ていくのも一つの参考になります。ただ、一番は患者様の満足度を上げることだと思いますので、日常生活の様子もお話ししながら評価をしていきます。
ペインクリニックはストレスなど「心因性の痛み」で通院しても大丈夫?
編集部
心因性の痛みでもいいわけですね。例えば「完治している」と言われているのに痛いと感じているようなケースでも?
土橋先生
“痛み”を訴えていらっしゃる方に「心因性だ」と決めつけることはしません。検査・画像に異常がなく、他院で「痛くないはずだ」と言われて、途方に暮れて受診される方もいらっしゃいます。例えば、お腹に痛みがあるのに、消化器内科で検査しても問題ないからと、ペインクリニックのほうに紹介されていらっしゃるケースなどですね。あとは、整形外科で脊椎の手術後にのこった症状が辛い方です。そのような方には、よくお話を聞き、その方にあった治療を進めていきます。
編集部
最後に、読者にメッセージがあれば。
土橋先生
「話をよく伺うことにより、辛さが軽減される」と感じることは日常診療でよくあります。痛み止めのみではなく、睡眠や食欲に関しても満足しているかを探って診療していくと、大きな手掛かりになることもあります。痛みを訴えとして受診されていますが、他の診療科と違い、ペインクリニックでは患者様の生活の質や満足度を上げることが一番の目標となると考えています。
編集部まとめ
最近よく耳にするようになったペインクリニック。どんなときに行けばよいか、正直わからなかったのですが……。意外にも、どんな痛みでも受け入れてもらえると知って、驚きました。
なかでも患者数が多いのは、肩こりや腰痛、足の痛み、帯状疱疹など。整形外科ではなかなか治らない痛みの緩和を期待して利用される方が多いようです。また、外科的治療は終わっているけど、いつまでも感じる痛みや、ストレスによる腹痛など、他の科ではとりあってもらえない痛みでもOK。
このように、体の痛みだけでなく、心の痛みにも対応するため、使用する薬は痛み止めのほか、睡眠薬やうつ病の薬などさまざま。患者によりそって、しっかり話を聴いたうえでその人に合う薬を処方してもらえます。小さな痛みでも、どこを受診すればよいか迷ったら、「とりあえずペインクリニック」と覚えおくのがよさそうです。
医院情報
所在地 | 〒413-0015 静岡県熱海市中央町17−15 K’sメディカル3階 |
アクセス | 熱海駅から徒歩17分/来宮駅から徒歩13分 JR熱海駅よりバスにて清水町バス停下車 |
診療科目 | 泌尿器科・腎臓外科・ペインクリニック内科・麻酔科 |