【漫画付き】乳がん予防で乳房を切除!? 怖いけど本当に効果はあるの?
ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが行ったことで話題になった「予防的乳房切除術」。乳がん発症のリスクを減らすために、病気が発症する前に乳房にメスを入れる手術ですが、まだ乳がんではないのにメスを入れるというのは、とてもリスクが高いようにも感じます。実際に得られるメリットは本当に大きいのでしょうか? 桜新町濱岡ブレストクリニックの濱岡先生、教えてください!
監修医師:
濱岡 剛(桜新町濱岡ブレストクリニック)
兵庫医科大学、神戸大学大学院医学研究科を卒業後、淀川キリスト教大学や兵庫県立がんセンターの外科に入職。2002年にアメリカのがん研究センターに留学。帰国後、聖路加国際病院の乳腺外科に勤務、研鑽を積む。2009年に桜新町濱岡ブレストクリニックを開院。乳がん死亡率を低くすることを理念とし、日々の診療に臨む。日本乳癌学会乳腺専門医、マンモグラフィ読影認定医などの資格を有する。
予防的乳房切除術は乳がんになる可能性の高い人が行う手術
編集部
アンジェリーナ・ジョリーさんの発表で耳にすることが多くなった「予防的乳房切除術」とは実際どういうものなのですか?
濱岡先生
一言で言うと「乳がんの発症リスクを抑える手術」です。乳がんとは乳房の中にある乳腺に、悪性腫瘍ができることを言います。そのため、予防的乳房切除術は乳がんになる前に、乳房の中にある乳腺を取ってしまう手術になります。
編集部
乳腺を取るということは、表面の乳頭や皮膚は残るのですか?
濱岡先生
「予防的乳房切除術」では乳頭や皮膚をすべて残して内部の乳腺のみを切除します。乳がん治療における手術は皮膚の一部や乳頭を切除する「胸筋温存乳房切除術」や、皮膚や乳頭を残して乳腺だけを切除する「皮下乳腺全摘術」という方法もあり、病状や患者さまの意思に応じて選択されます。
編集部
乳腺を切除して、見た目的にはどうなるのでしょう?
濱岡先生
切除の手術と同時に乳房の中にシリコンを入れて、見た目を再建していくことがほとんどです。最近は皮膚の縫い目も目立たなくするので、術後は一見手術をしてないように見えます。
編集部
このような手術はどういう人が行うものなのですか?
濱岡先生
ご自身・ご家族の方で ・40歳未満で乳がんを発症した方がいる ご家族の方で ・乳がんを発症された方が3名以上いる |
ご自身・ご家族の方で ・40歳未満で乳がんを発症した方がいる ご家族の方で ・乳がんを発症された方が3名以上いる |
上記の条件に当てはまると、採血による遺伝子検査を行います。検査の結果、BRCA1とBRCA2という遺伝子に異常があった場合、乳がんになる可能性が高いため、「予防的乳房切除術」を検討します。
乳がんの発症を約90%抑えることができる
編集部
遺伝子検査で異常が見つかった場合、どれくらいの確率でがんになるのですか?
濱岡先生
遺伝子異常が見つかると、報告によっては生涯の中で、約80%は乳がんになると言われています。ただ、実際に予防的乳房切除術を行うのは、遺伝子異常がある人の10%ほどでしょうか。残りの人は検診を密に行い、早期発見を目指すようにしています。
編集部
思ったよりも少ないのですね。
濱岡先生
そうですね。予防的乳房切除術は日本ではまだまだ認知度は低いと思います。しかし、2020年4月より保険適用となったことで、今後は予防的乳房切除術が普及していくと思います。
編集部
現在認知度が低いといっても、メリットは大きいのですよね?
濱岡先生
もちろんです。予防的乳房切除術を行うことで、乳がん発症のリスクを90%ほど軽減できると言われています。検査で異常があり、乳がんになる可能性が高いと言われた人にとっては、やはり効果的だと思います。手術の意味をきちんと理解をしていないと、デメリットが大きいととらえられがちですが、乳がんを予防できるというのは非常に大きなメリットです。
予防的乳房切除術について深く理解し、後悔のない選択を
編集部
手術を行うデメリットはあるのでしょうか?
濱岡先生
予防的手術を考える前に、まず遺伝子検査にもメリットだけでなくデメリットがあることに注意が必要です。もし遺伝子に異常があるとわかった場合、ご自身だけでなくご家族へもメンタルの負担や社会的影響が発生します。
編集部
どういうことでしょう?
濱岡先生
予防的乳房切除術を行えばよいかもしれませんが、それを選択しないと「いつか乳がんになる」という気持ちが強くなって不安になる人も多いと思います。またご自身だけでなく、それを知ることでその方のお子さんやご姉妹などご家族も、「自分も乳がんになるかも」と、不安に思うかもしれません。そこは難しい問題ですね。
編集部
なるほど。実際に手術を行った人の体への負担は大きいですか?
濱岡先生
まったくないとは言えません。ただ手術による後遺症はほとんどなく、術後もスポーツなどは普通にされている方がほとんどです。通院の必要もないでしょう。
編集部
予防的乳房切除術を行えば、乳がんにはならないのですか?
濱岡先生
乳頭が残るためゼロとは言えませんが、ほぼならないと言えるのではないでしょうか。検査の結果、遺伝子異常があった人にとっては、メリットの大きい手術だと思います。
編集部
最後に読者の方へメッセージをお願いします。
濱岡先生
女性にとって乳がんは非常に怖い病気です。乳がん発症のリスクが高いと言われたら、それだけで精神的負担も大きいはず。もっと多くの方に予防的乳房切除術を知っていただき、自分が乳がん発症のリスクが高いとなった時に、後悔のない選択をしていただきたいですね。
編集部まとめ
「予防的乳房切除術」は誰しもが行うものではありません。片側の乳房がすでに乳がんである、一親等以内に乳がんの人がいるなど、乳がんになる可能性が高い人が、検査を受けて異常があった場合に選択肢として考えるものです。きちんと理解して手術を受ければ、デメリットが大きいものではなく、乳がんの予防として効果のあるものです。気になることがある人は先生に相談して、検査や手術について聞いてみてください。
医院情報
所在地 | 〒154-0015 東京都世田谷区桜新町2-10-4ミケア3F |
アクセス | 東急田園都市線「桜新町」西口より徒歩1分 |
診療科目 | 乳腺外科、乳腺内科 |