脳卒中リスクが8.5倍!? 高血圧で病気リスクはどれくらい変わる?
現在、国内の高血圧の方は約4300万人おられると推定されており、まだまだ増え続ける傾向にあります。高血圧は動脈硬化の原因となり、放置しておくと脳卒中や心筋梗塞を発症する引き金となることはよく知られていますが、そのリスクはどれくらいなのでしょう。また、リスクを回避するために専門医を受診する目安の数値や改善法は? 心臓と血管の専門家である河西内科循環器科クリニックの院長、河西先生にわかりやすくご解説いただきました。
監修医師:
河西 研一(河西内科循環器科クリニック 院長)
金沢医科大学医学部卒業、医学博士。いくつかの病院での研鑽を経て、横浜市磯子区の林内科医院に勤務。2002年からは副院長に就任。2005年、熱海市に河西内科循環器科クリニックを開業、現在に至る。1989年に慶應義塾大学理工学部機械工学科を卒業後、バブル期に会社員を経て金沢医科大学医学部に編入学という異色の経歴を持つ。2018年11月に、専門性の高いクリニックが複数入るクリニックビルの事実上のオーナーとなり、日本初の多施設共通受付・自動会計システムを導入するなど、医療を通じて様々なことにチャレンジしている。
血圧が180以上の人の脳卒中のリスクは通常の8.5倍!
編集部
高血圧だと、脳卒中や心筋梗塞のリスクはどれくらい上がるのでしょうか?
河西先生
編集部注
※1:高血圧でない人
上の血圧が140 mmHg未満、下の血圧が90mmHg未満
※2:重症の高血圧
上の血圧が180mmHg以上、下の血圧が110 mmHg以上
※3:軽症の高血圧
上の血圧が140~159mmHg、下の血圧が90~99未満
(高血圧症の定義数値は日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」より
※4:8.5倍、3.3倍の数値は日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2009」より
編集部
高血圧だとなぜ脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まるのでしょう?
河西先生
「血圧」というのは、血管を押す力なので、血管に高い圧力がかかり続けると、血管がもろくなって動脈硬化が起こりやすくなります。血管は全身をめぐっていますから、脳の血管に問題が生じると脳卒中、心臓で生じると心筋梗塞などの病気が発症しやすくなるのです。
編集部
高血圧があると、他にリスクが高まるのはどんな病気でしょう?
河西先生
血管と深く関係する脳、心臓、腎臓の循環器系の病気すべてです。そのために「循環器内科」があるのですが、一般の方は循環器内科がどんな病気を扱っているのかご存知ない方が多いですね。循環器内科は、心臓と血管に関係する疾患を扱っています。
編集部
具体的な病名でいうとどんなものがありますか?
河西先生
脳の病気では、脳出血と脳梗塞。脳卒中というのは、この2つを合わせた病名です。心臓の疾患では、心筋梗塞や、狭心症などの虚血性心疾患、心臓弁膜症、乖離性動脈瘤などのほかに、今後増えてくる心不全などがあり、これらすべての疾患は、高血圧だと罹患するリスクが高まります。
上の血圧が130mmHg台になったら、循環器内科の専門医に相談を
編集部
数値的には血圧がどれくらいになったら気をつける必要があるのでしょうか?
河西先生
最新の2019年度版・高血圧治療ガイドラインの診断基準では、「上の血圧が140mmHg以上」になったら高血圧症と診断されます。ただ、この新しいガイドラインでは、130mmHg以上でも異常値と定義していることから、上の血圧が130mmHg台になったら一度は循環器内科を受診することをおすすめします。
編集部
早めの受診を推奨するのはどうしてでしょうか?
河西先生
数値が140mmHg台になってから受診したら、降圧剤などの薬を飲むことを避けられないケースが多いからです。でも、130mmHg台の段階で専門医に相談してもらえれば、多くの方は生活習慣を修正するなどして、薬を飲むのをだいぶ遅らせることができます。とくにタバコを吸う方は、早めの対策が必要ですから130mmHg台になったら、ぜひ受診していただきたいです。
編集部
血圧が130mmHg台以上で受診すると、具体的にはどんな指導が行われるのでしょう?
河西先生
まずは、なぜ血圧が高いかを調べます。高血圧には、タバコを吸う、高齢である、家系に高血圧の人がいる、糖尿病であるなど様々なリスクファクターがあるので、その危険因子の数によって、リスク段階を診断します。その結果、原因が生活習慣にあるとわかれば、まずは生活習慣を改善してもらうよう指導します。中には、130mmHg台でも即治療したほうがいい人もいらっしゃいます。140~150mmHgの人の場合も、すぐ薬を使うのではなく、2~3か月くらい生活改善を見直すことを指導することもあります。
編集部
下の血圧(拡張期血圧)はそれほど気にしなくていいのでしょうか?
河西先生
もちろん、日ごろからどちらも数値をチェックしておくことは大切ですが、循環器系の疾患からすると、より重要なのは上の血圧です。上の血圧は、わかりやすくいえば太い血管(大動脈)を押す力で、正式名は「収縮期血圧」といいます。心臓が全身に血液を送り出すために収縮したときに血管にかかる圧力です。この圧力が強すぎると、全身の血管の動脈硬化のリスクが高まってしまうため、より重要になります。
編集部
血圧が低過ぎる場合は気にしなくて大丈夫でしょうか?
河西先生
はい、若いうちは気にしなくて大丈夫です。とくに若い女性の場合、上の血圧が100mmHgを切っている方は多いですね。ただ、血圧が低過ぎて体がだるいなど、日常生活に支障がある場合は、専門医に相談に行かれたほうがよいかもしれません。また、お元気な高齢者で上の血圧が100mmHgぐらいの方が結構いらっしゃいます。それを見て、「血圧は低ければ低いほどいいのでは?」、という議論もありますが、血圧が低いから長生きとは一概にはいえません。
血圧を下げるには、ストレス解消と減塩を
編集部
血圧を下げるために効果的な方法はありますか?
河西先生
血圧が上がる原因を一つずつ取り除いていくことがポイントになります。その一つが、過度のストレスにより、交感神経が刺激されて優位になることです。その場合は、ストレスの原因を取り除いてリラックスする工夫をしたり、睡眠をしっかりとることで副交感神経が優位になるようにすることが大切です。
編集部
塩分の取りすぎもダメなんですよね?
河西先生
その通りです。塩分の取りすぎは血圧を上げる主要因ですから、普段から塩分を摂りすぎる傾向のある方は、減塩を心がけましょう。とくに日本人は塩分に対する感受性が高いうえ、世界的にみても、日本人の塩分摂取量は断トツに高くなっています。それでも、最近は全体的な摂取量は減ってはきているようですけどね。
編集部まとめ
高血圧だと、軽症(上の血圧が140~159mmHg、下の血圧が90~99未満)でも脳卒中にかかる可能性が3.3倍、重症(上の血圧が180mmHg以上、下の血圧が110 mmHg以上)だと8.5倍という高いリスクがあることがわかりました。
また、脳卒中に限らず血圧と関連が深い、脳、心臓、腎臓の循環器系の疾患が増えることがわかり、高血圧の危険性を改めて認識しました。脳卒中や心筋梗塞といえば、命に関わる重大な病気です。リスクはできるだけ回避したいと誰もが思うのでは? そのためには、上の血圧(収縮期血圧)が130mmHg台になったら、早めに受診することが大切ということ。この段階であれば、高血圧の原因を一つひとつ取り除くことで、リスク回避も可能です。血圧を下げるためには、普段からストレス解消と、減塩を心がけることがポイントのようです。いずれにしても、「上の血圧(収縮期血圧)が130mmHg台になったら、循環器内科を受診!」を胸に刻みました。
医院情報
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診療科目 | 内科・循環器科 |