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「30代の大腸がん罹患者が増えている理由」をご存じですか? 若年層でがんリスクが高まる背景とは

 更新日:2025/10/01
「30代の大腸がん罹患者が増えている理由」をご存じですか? 若年層でがんリスクが高まる背景とは

「まだ30代だから大丈夫」といった思い込みが、大腸がんの早期発見を妨げている可能性があります。じつは今、若年層の大腸がんが世界的に増加しており、30代での発症が報告されています。食生活や腸内環境、ストレスといったライフスタイルが発症の背景にあり、症状の見逃しや検査の遅れが命取りになることも。今回は、若年層に増えている大腸がんの最新動向と早期発見のための行動について、池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック東京豊島院 院長の柏木宏幸先生に詳しく解説していただきました。

柏木 宏幸

監修医師
柏木 宏幸(池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック 東京豊島院)

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2010年埼玉医科大学卒業後、沖縄にて初期臨床研修をおこない、東京女子医科大学病院消化器病センター内科へ入局。女子医科大学病院消化器内科助教となり複数の出向病院で勤務し、2023年4月に池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック開業。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医、一般社団法人日本病院総合診療医学会認定病院総合診療医、難病指定医。

30代大腸がんの増加は本当? その背景にあるものとは

30代大腸がんの増加は本当? その背景にあるものとは

編集部編集部

近年、若年層で大腸がん罹患者が増えていると聞きます。本当でしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

2024年12月に米国がん協会より、「世界50カ国における過去10年間の50歳未満の大腸がん発症率」に関する報告が発表されました。その結果、50カ国のうち23カ国では発症率に大きな変化は見られなかったものの、27カ国では発症率の増加が確認されました。さらに、世界的に高齢化が進んでいる状況にもかかわらず、1995年から2020年の間に①50歳未満、②50〜64歳、③65歳以上の3区分のうち、唯一「①50歳未満」でがんの罹患率が上昇したという報告もあります。

編集部編集部

がんの罹患率が上昇した要因について教えてください。

柏木 宏幸先生柏木先生

この背景には、以下のような要因が挙げられています。
1 食生活の変化:加工肉や赤身肉の摂取増加、食物繊維不足などが腸内環境を悪化させ、発がんリスクを高めるとされている
2 腸内環境の異常:特定の腸内細菌(Fusobacterium nucleatum)や毒素(colibactin)がDNAに損傷を与え、がん化を促進するという報告がある
3 肥満・運動不足:肥満に伴ってインスリン様成長因子(IGF-1)が増加し、発がんに関与するとされている
4 夜型生活・睡眠不足・ストレス:自律神経や免疫機能の乱れが腸内の炎症や細胞異常を引き起こす可能性が示唆されている
5 遺伝的要因:若年での大腸がん発症のうち約10〜20%は、遺伝性疾患の関与があるとされている
こうしたデータは、「若いから安心」とは言い切れない現実を示しています。若年層においても、大腸がんに対する予防意識や早期検査の重要性が高まっています。

編集部編集部

若年層(特に30代)で発見される大腸がんには、どのような特徴がありますか?

柏木 宏幸先生柏木先生

若年性大腸がんの最も大きな特徴のひとつは、「診断がつきにくく、診断確定までに時間を要すること」です。アメリカの調査では、若年性の大腸がんは、高齢者に比べて診断までに最大で1.4倍の時間がかかっていると指摘されています。実際、若年層で血便などの症状があっても、「若いから痔だろう」「腹痛があるけど、過敏性腸症候群じゃないか」と軽く見られ、医療機関を受診するタイミングや精密検査に至る判断が遅れる傾向があるのです。症状があるにもかかわらず「年齢が若いから」と見過ごされてしまうこの現状こそが、若年性大腸がんの早期診断を難しくしている大きな要因です。診断が遅れることで、死亡率の上昇につながっている可能性があるとも言われているので、注意が必要です。

30代だからこそ見逃しやすい症状に注意

30代だからこそ見逃しやすい症状に注意

編集部編集部

若年層の大腸がんでは、どのような症状が出やすいのでしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

大腸がんは早期であればほとんど症状が現れません。しかし、病気が進行すると次第に以下のような症状が見られるようになります。
がん(腫瘍)からの出血による症状(血便、貧血)
腫瘍による腸の狭窄(通過障害)による症状(便秘、腹部膨満、腹痛)
全身に及ぶ影響による症状(体重減少・貧血・疲労感)
特に肛門に近い直腸がんの場合は、便が腫瘍を通過する際に出血が起こりやすく、血便や赤黒い便が認められることもあります。このような症状を「痔だろう」「一時的な不調だろう」と思い込み、医療機関を受診しないケースも少なくありませんが、少しでも異変を感じたら一度消化器内科にご相談いただくことを強くおすすめします。

編集部編集部

医療機関を受診するべき症状には、どのようなものがありますか?

柏木 宏幸先生柏木先生

一般的に以下のような症状が大腸がんのサインであり、複数該当すると可能性が高くなります。
便秘・下痢の繰り返し
便が細くなる(狭小化)
排便後の残便感、下腹部の膨満感や違和感
ガスがたまりやすい状態
原因不明の体重減少
貧血や慢性的な疲労感
「たかが便秘」「いつもの腹痛」と見過ごされがちな症状のなかに、大腸がんの兆候が隠れていることもあります。症状が軽いうちこそ、病気を早く見つけられるチャンスです。ぜひ、気になる症状があれば迷わず消化器内科、胃腸科へご相談ください。

編集部編集部

受診が遅れる方に共通する思い込みや誤解があれば教えてください。

柏木 宏幸先生柏木先生

特に問題となっているのは、「大腸がん検診(便潜血検査)で陽性となったにもかかわらず、大腸内視鏡検査を受けない方が多いこと」です。国内の内視鏡機器メーカーによるアンケート調査では、便潜血陽性後に大腸内視鏡検査を受けなかった理由として、「痔の出血かもしれないから(39.6%)」「自覚症状(便通の変化・血便・腹痛など)がなかったから(30.5%)」「痛くてつらそうだから(16.6%)」「検査費用が気になったから(14.6%)」などが挙げられています。実際に大丈夫であることが多いのは確かですが、検査を受けていただくことで受診が遅れることを防ぐことができます。痛みに対する不安については、鎮静剤を使用することで、ほとんど痛みや不快感なく検査が受けられる環境が整いつつあります。

早期発見につなげるには? 30代で意識したい行動と検査

早期発見につなげるには? 30代で意識したい行動と検査

編集部編集部

家族歴がある30代の方は、どのようなタイミングで検査を考えるべきですか?

柏木 宏幸先生柏木先生

まず、「家族性大腸腺腫症」や「リンチ症候群」などの遺伝性疾患の家族歴がある場合は、10〜20代の早い時期で検査を受けることが推奨されており、家族歴の確認は非常に重要なポイントです。また、一般的な大腸がんや大腸ポリープの家族歴がある場合は、「40歳で検査を開始する」、または、「親族が診断された年齢の10歳若い時期から検査を始める」というのがひとつの目安とされています。加えて、若年層における大腸がんの増加傾向も踏まえると、30代で検査を受けられるタイミングを積極的に検討することも有意義だと考えられます。そして、初回の大腸内視鏡検査の結果をもとに、次回の検査時期や間隔について医師と相談することをおすすめします。

編集部編集部

若年層で大腸内視鏡検査が推奨されるのは、どのような場合ですか?

柏木 宏幸先生柏木先生

若年層の大腸がんは、自覚症状だけでは判断が非常に難しいのが実情です。そのため、健康診断で血液検査による貧血や便潜血検査の陽性があった場合には、精密検査としての大腸内視鏡検査の受診が必要不可欠です。また、以下のような方は40歳未満であっても積極的に大腸内視鏡検査の対象となります。
ご家族に大腸がんの既往歴がある方
喫煙習慣のある方
肥満傾向のある方
消化器症状がある方(便秘・下痢・腹痛・腹部膨満など)
これらの症状は、大腸がんだけでなく、若年層で発症することのある潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患にも関連している可能性があります。したがって、上記のような消化器症状が見られる場合には、早めに消化器内科を受診して原因を明らかにすることが大切です。

編集部編集部

検査をためらっている30代の方に向けて、医師として最も伝えたいことは何でしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

「自分はまだ若いし、きっと大丈夫」と思っている方は少なくありません。しかし、大腸がんはがんの中でも最も多く罹患する病気で、生涯で大腸がんにかかる確率は、男性では10人に1人、女性では12人に1人と言われています。30代の今こそ、未来の健康を守る大切なタイミングです。病気は「見つかった時点」で治療の選択肢が決まります。少しでも早く発見できれば、治療の負担も軽く、心にも身体にも、そして経済的にも安心をもたらします。大腸内視鏡検査は、あなたのこれからの毎日を穏やかに、そして幸せに過ごしていくための「備え」となります。あなただけでなく、大切な家族や友人とともに過ごす未来のために、どうか自分自身の健康に目を向けてみてください。検査に不安を感じる方もいるかもしれません。でも今は、痛みや羞恥心への配慮も含めて、検査を受けやすい環境が整ってきています。安心を得るために、そして早期発見・早期治療につなげるために、内視鏡検査が必要な方は検査を前向きに考えてください。

編集部まとめ

「若いから大丈夫」と思っていたら、実は病気が静かに進行していたという事例が、近年の若年性大腸がんにおいて増えています。30代という働き盛りの世代こそ、自分の体の小さなサインを見逃さず、将来を守る行動を取ることが大切です。少しでも早く発見できれば心にも身体にも負担は少なく、経済的にも安心をもたらします。本稿が読者の皆様にとって、大腸がんの予防や早期発見のために“一歩踏み出す”きっかけとなりましたら幸いです。

この記事の監修医師